壁の向こうへ

シェルター探検

「なー! 探検行こうぜ―!!」

「探検でしゅ!」


「探検?」


 シヴァとリーとの初仕事が終わってしばらくのことだ。

 朝飯の後にアイラとリーがそんな事を言いだした。


「探検っていっても、どこに?」


「ほらー! ルイねーちゃんはまだココの道になれてないだろ?」


「はいでしゅ! だから探検でしゅ!」


「あ、探検って、なるほどね……。

 このシェルター、アマゾンのジャングルよりも

 複雑そうだもんなぁ」


「だから道を覚えるためにも、探検するでしゅよ!」


「そうだな、みんなにいつまでも道案内してもらうのも悪いか。

 せっかくだし、探検にいってみるか!」


「べ、別にルイしゃんを案内するのは面倒じゃないでしゅよ!

 このシェルターのことを、ルイしゃんにもっと

 知ってもらおうとしてるだけでしゅ!」


「おう、詳しく知りたいな。

 シェルターのこと、アイラや皆のことも」


「しゅ……!」


 俺が返事をすると、アイラはヘビににらまれたカエルみたいに

 フリーズしてしまった。


 いや、アイラは半人半蛇のモンスターだから、

 「ヘビに睨まれて」はおかしいか。


 ヘビをにらんで動きを止めるモンスターってなんだろう?

 マングースとか……? それはハブか。

 まさか、サキュバスだったりしないよなぁ?


「ぼーっとしてないで行こうぜー!」

「お、おう!」

「いくでしゅ!!」


 俺はリーとアイラに強引に引っ張られるようにして部屋を出た。

 相変わらず汚いシェルターの中だが、2人がいるといくぶん華やいで見える。


「あ、ルイしゃんはどこか行きたい場所があったりしましゅか?」


「って言われてものな、どこに行ったもんか……」


「で、でしゅよね……」


 いかんいかん。ちょっと妙な空気になってしまった。

 えーっとそういえば……。


「そうだ、仕事で手に入れた水浄化チップって、

 どこで使っているんだ?」


「水浄化チップを使っている場所でしゅか?

 それなら、浄化施設でしゅね」


「へぇ、浄化施設か……どんな設備なんだ?」


「名前のままでしゅ!

 皆が台所やお風呂で使った水をキレイにして、

 シェルターの中で循環させてるでしゅ」


「ん、じゃぁ水は外から一切持ち込んでないってことか?」


「そういうわけでもないでしゅね。

 普段から雨水をすこしづつ足してるでしゅよ」


「それはそれですごいな……。

 ここってもとはなんだったんだ?

 軍事基地とか、核シェルターだったりしたのか?」


「それは私もよくわからないでしゅ。

 シヴァしゃんもここの由来については

 あまり語らないでしゅから」


「ふーん……あ、もしかして

 このシェルター自体が、何かのモンスターってことは?

 建物自体がモンスターとか……」


「ハッハ! ルイねーちゃん、それはないだろー!」


「でしゅ! そんな大きなモンスターみたことないでしゅ!」


「うーん……いい線いってる気がしたんだけどな……

 っと、ともかく浄化施設に行ってみるか。

 んで、そこにいるひとたちにも挨拶しよう。

 チップの具合がどうなってるか、ちょっと心配だし」


「なら、浄化施設まで案内するでしゅよ!

 きっとそこで働いてる子たちも、

 ルイしゃんに感謝を伝えたいはずでしゅ!」


「だな、行こうぜー!」

「お、おう?」


 オレはリーに背中を押され、アイラに手を引かれる。

 これじゃ案内っていうか運搬だな。


 アイラたちはオレを引っ張り、シェルターの上へ向かっていく。

 ふむ、浄化施設は上のほうにあるのか。


 それもそうか。

 雨水を使うなら、タンクは地上に近い場所にあったほうが都合がいい。

 マンションなんかでもタンクを上に置いてるもんな。


 シェルターは、言ってしまえば地下に潜った高層ビルだ。

 ところどころ普通の建物と似る部分があってもおかしくない。


「えーっと……」


「アイラ~、そっちは8番通路だぜー!

 浄化槽はこっちの階段ー!」


「あ、そうだったでしゅ!」


「ここらへんは、アイラたちでも迷うのか?」


「ま、まぁ……最近来たことがなかったでしゅから」


「おいおい……大丈夫かぁ?」


「迷ったら戻ればオッケー!」


「異変があったらすぐ戻るのがシェルターの鉄則でしゅ!

 そうすれば大丈夫でしゅ!」


「それは大丈夫っていわないような……」


 俺たちはシェルターを登っていく。

 上に向かう階段は途切れ途切れだ。

 ときたま廊下を通ったり、別の階段をつかう。

 乗り継ぐ階段はそれぞれが別物になっている。

 素材や色も違うどころか、スロープだけってこともあった。


 このシェルターには、一貫した規則性がない。

 あっちへ行ったりこっちへ行ったり、やたら面倒な構造をしている。


 襲撃者対策なのか、それとも単なる設計ミスなのか……。

 このシェルターを作ったのがシヴァなら、彼女の設計ミスかも。

 あいつ、なんか妙なところで抜けてるしなぁ。


「ルイしゃん、ここが浄化施設でしゅよ!」


 灰色のコンクリートの上でとぐろを巻いたアイラが、

 重々しい大きな鋼鉄の扉を指し示す。


 どうやらこの先が浄化施設らしい。

 シェルターの水を一挙に取り扱っている場所か。

 どんな場所だろう……。


 リーがトラックでも通れそうな扉に手をかけ、

 全身の力を使って横に引く。


 ゴロゴロと音を立てて開いた扉の先を見た俺は、

 あっと声を上げてしまった。


「えぇっ? これが……?」


 鉄の板に変わって俺の目の前に現れたのは水の壁……

 いや、暗青色のコバルトブルーに輝く、巨大な水槽だ。


 水槽の中は薄暗く、冷然とした沈黙に支配されている。

 俺は気付かないうちに、息を殺して水槽に近づいていた。


 宝石のように光る水槽に、俺は何か心惹かれるものがあったのだ。


「……キレイだな」


 ポツリとそう呟いた瞬間、オレの目の前に黒い影が通る。

 波打つ光の中に躍るものは魚のようだが、その上半身は――


「人間……人魚!?」




※作者コメント※

半月ほどの充電期間を経て、新シナリオ開始でございます!

よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る