怪物と怪物

「ハッハー!! アソボウ!!」


「ずいぶんモンスターに影響されてますね。

 それとも、元から単純な性格なのでしょうか」


 鉄の床に降り立ったシヴァは、

 ギルマンに対して半身で立ち吐き捨てる。


「シヴァさん?!

 あんまり挑発しないほうが……」


 重火器をもった筋肉ダルマのギルマンとシヴァでは、

 どうみても勝ち目がなさそうに見える。

 モンスターハンターとはいえ、大丈夫なのか?


「さて……始めますか」


 ドローンの上で見守っていると、

 シヴァがポケットから何かを取り出し、床にまいた。


 カラカラと音を立てるそれを見た俺は、

 自分の目を疑った。


「あれは……オモチャのブロック?」


 彼女が床にまいたたのは、

 カラフルな色彩のをした四角いプラスチックのブロックだ。


 ブロックには上面にボタンのような突起がある。

 あれはブロックを積み重ねて、

 乗り物や建物を作る子供向けのオモチャのパーツだ。


 このブロックは、床に落ちているのをうっかり踏みつけると、

 涙が出るほど猛烈な痛みが襲ってくるので有名なオモチャでもある。


 そういう意味では、ある種の最終兵器なのだが……。


「たしかに踏めば痛いけど、そんなので戦えないだろ?!」


「ハッハー!! ハ、ハチノ巣ニシテヤル!!」


 不味い、ギルマンがミニガンをシヴァに向けた!!


<ヴィイイイイイインッ!!>


 うなりを上げる銃身からオレンジ色の筋が無数に延びる。

 無数のパイプが巻き添えで破砕され、シヴァの姿は跡形もなくなった。

 ――いや、違う!!


「消えた?!」


 銃弾が通り過ぎる前にシヴァの姿は消えていた。

 血肉のあとはなく、穴だらけのパイプと鉄板しかない。

 きっと転移で銃弾から逃れたんだ。


「ド、ドコニ……キエタッ?!」


 ミニガンを振り回し、キョロキョロとあたりを見回すギルマン。

 鉄の床の上、パイプの影にもシヴァの姿はない。


 まさか、転移でどっかに逃げたんじゃぁ……?


「グァッ!!!」


 ――ッ?!


 その時だった。

 ギルマンの背後から血しぶきが上がり、

 灰色の床を紫色の血が彩る。


 ハッとなった俺は、

 ギルマンの後ろに青白い煙が立ち上っているのに気づいた。

 おぼろげに広がる煙は次第に人の形になっていく。


「転移……あんな風にやってたのか」


 みるみるうちに煙はシヴァの姿を取る。

 しかし現れたその姿は、いつもの彼女じゃなかった。


 細く柔らかだった赤い髪は、燃え上がるような赤いたてがみとなり、

 狼を思わせる頭部にわっている。


 そしてしなやかだった全身は、黒い骨が鎧のように覆っていた。

 その姿は、中世の騎士のようにもみえた。


 黒の甲冑に身を包んだ狼騎士。

 目の前の存在を一言で表せば、そうなるだろうか。


 そのシルエットは陽炎かげろうのようにらめき、不確かだ。

 しかし、体の内側からあふれる青い光が周囲の鉄板を染め上げ、

 目の前の名状しがたい存在が確かに存在していることを示していた。


 ……普通にクソカッコイイじゃねーか!!

 俺もあんな風になりたかった!!


『私の血清は「ティンダロス」。

 すべての時間と空間は「かど」を通して私につながる』


「グァァァ……ブッコワス!!!」


 ギルマンはミニガンを振り回すと、

 銃身を棍棒代わりに背中側にいたシヴァに殴りかかる。


 だが、ミニガンの銃身は彼女をとらえることなく、

 床にぶち当たって鈍い金属音を響かせるだけだった。


 かき消えた彼女は煙となってまた別のところから現れる。

 その煙は、彼女がばらまいたブロックから出ていた。


 そうか……すべての「かど」とかナントカってのは、

 ブロックの角を使ってるってことか!!!


「ウルァァァァァ!!!

 ヒキョウ・ヤツ・キライ!!!」


 接近戦を仕掛けても、シヴァはかき消えてしまう。

 そんな彼女に対してギルマンはまるで打つ手がない。


 これにキレたやつはミニガンのトリガーを引きしぼり、

 火を吹く巨獣をデタラメに振り回しはじめた。


<ヴィィィィン!!!!>


「うわっ!? あぶねぇ!!」


 シャワーのように連なる銃弾が、

 俺が乗るドローンをかすめた。


 狙いはメチャクチャだが、銃弾は銃弾だ。

 当たればイチコロの弾を無造作にばらまくなんて、

 危なっかしくてしょうがない。


「シヴァ! はやいとこ片をつけてくれ!!」


『あなたのお知り合いですが、いいのですか?』


「いまは元だ! もう俺にはリーたちのほうが大事だ!!」


『承知しました』


「ウォォォォォ!!!」


 ギルマンが野獣のようにえ、シヴァに突進する。

 銃弾ごとミニガンを叩きつけて、シヴァを粉砕するつもりなのだ。

 だがいくら力が強くても、当たらなければ無意味だ。


 シヴァは直前で姿を消し、

 その影にあった、あるもの・・・・にギルマンは突っ込んでしまう。


 ミニガンの銃弾で破砕され、

 槍のように突き出した蒸気パイプだ。


 自分で破壊したそれに突っ込んだギルマンは、

 胸を背中まで貫かれ、大きく体を震わせた。


「ンガガガガァァッ!!!」


『介錯します』


 シヴァの手から生まれた赤い槍が、ギルマンの首をまっすぐ貫く。

 すると緑色の巨体はビクンと大きく痙攣けいれんして、

 ピクリとも動かなくなった。


 ――勝負あったな。


「すげぇ……ミニガンを振り回すモンスターを倒しちゃったよ」


『怪物を殺せるのは怪物だけですから。

 とはいえ、これでは足止めにしかなりませんが』


「え?」


『オークはこの程度では死にません。

 全身を灰にするか、深海に沈めるでもしませんと』


「マジ?」


『マジです。蘇生する前に先を急ぎましょう』


 ギルマンのやつ、血清のせいで何度倒しても追いかけてくる

 ホラー映画のモンスターみたいになってんじゃん……。


 こうしちゃいられん、さっさと逃げようっと。





※作者コメント※

ギルマンェ……

普通にクソ厄介な存在になってしもうた


しかしシヴァの血清のもとになったっていう

ティンダロスを倒したハンターも強すぎじゃない?


この世界、ニンジャいてもおかしくないな……

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