天笠の真実

「これは……血清を打った人たちか?」


 俺たちが潜り込んだ部屋には、円筒状の機械が無数にある。

 その数は100じゃまるできかない。


 その全てに血清を打った人間を入れてるとしたら、

 天笠アマガサは彼らをいったい何に使っているんだ?


「なー、この人たちって寝てるのか―?」


 リーはガラス板のはまった窓を大きな手でツンツンする。

 しかし、機械の中に入っているライカンが目覚める様子はない。


「そうみたいだな。死んでは……いないのか?」


 俺は機械にぐっと寄って、詳しく確かめてみる。


 ライカンが入っている機械は、

 冷蔵庫のような低い唸り声を上げている。


 おれはおそるおそる機械の表面に触れる。

 するとなめらかな金属の板はびっくりするぐらい冷たかった。


「わっ、冷たい。こんなに冷たかったら、普通死んじゃうよな」


「でもそんなふうには見えないぞー?」


「うん……そうだな」


 リーが言うように、死んでいるにしてはライカンの肌は血色が良い。

 機械の力で生かされているのか?


 何かはわからないが、彼らは薄い緑色の液体に浸かっている。

 死んでいないのはこれのせいだろうか?


「シヴァ、これが何かわからないか?」


「いえ……ですが大体のところは。

 これは天笠の暗部と言ったところでしょう」


「天笠の暗部?」


「これは私の推測も含まれているのですが……

 モンスターを倒して得られる契約血清の効果は、

 当然、それを使わなければわかりません」


「うん。そりゃそうだ。」


「モンスターの血清にも良いところ、悪いところがあります。

 そして、血清を一度打ってしまったら元には戻せない」


 おもわず俺の体がピクリと反応してしまった。

 わかってはいたが、もうこの体から元には戻れないのか。


「……メガコーポはモンスターの血清を利用したい。

 だけど、血清の効果が分からないままだと不都合がある」


「はい。血清を試す被験者が必要ですね。

 しかし、いくら治験でも、そのような非人道的な扱いが、

 いちおう法治国家である日本でできるわけがない」


「なるほど……合法的に出来ないなら、非合法でこっそりと。

 そこでヤクザの出番ってわけか」


「はい。彼らが天笠に出入りできたのは、

 彼らとの間でそういった協力関係があったからでしょう」


「だけど、アワブロ・ヤクザはなんで血清を奪おうとしたんだ?

 協力関係にあるなら襲う必要なんかないだろ」


「天笠がヤクザに直接血清を渡してしまうと、取引の履歴が残ります。

 しかし、襲撃して奪われたのであれば、話は別です。

 犯罪の被害ですから、ヤクザと取引したという傷は天笠に残りません」


「天笠は血清をヤクザに表向き渡せない。

 報酬として渡すにしても、ひと手間必要だったってわけか。

 クソッ、だから天笠の情報がヤクザの手に入ったのか」


「そういうことですね。

 まったく……よくできたカラクリです」


 俺はあらためて部屋を見渡した。


 この部屋にある機械の数は尋常じゃない。


 これだけ大規模な施設だ。

 機械があるのが部屋だけだとは俺にはとても思えない。


「これだけの数の人間が、人知れず犠牲になっていたなんて。

 なぁシヴァ。このことを公表できないのか?」


「やってどうするというのです?

 政治も警察も、いまやメガコーポの言いなりです。

 公表したとしても握りつぶされるのが関の山でしょう」


「ネットに公開するとか……」


のない有象無象の社会正義とやらに全てを委ねますか?

 少しばかりSNSを賑やかにして、広告業者を喜ばせ、それで終わりでしょう」


「……それでも何かできないか」


「なら、証拠を持ち出すくらいでしょうか。

 ここにあるものは全て、天笠の不法行為の証拠になりそうです。

 さすがに『中身』を持ち帰るわけにはいきませんが」


「スマホで写真をとったり、

 資料を持って帰るくらいになるか?」


「でしょうね」


「はぁ、気休め程度だが、やっておくか」


「オレもなんかするかー!?」


 うーん。手伝ってくれるのはありがたいが、

 リーが家探しすると色々なものがバラバラになりそうだな。

 彼女には見張りを頼むか。


「じゃあ、リーは誰か来ないかあたりを見回ってくれ」


「おう!」


 俺はスマホを取り出して、あたりの写真を撮るために辺りを歩く。

 すると俺は警備員の詰め所のような小さな部屋があるのを見つけた。


「どれ、カギは……かかってないな」


 中に入ると、そこはロッカーと机が並んでる。

 そして部屋の奥には、カーテンが半分しまった簡易寝台があった。


「仮眠室か、当直室っていったところかな」


 俺は一応この部屋の写真を取っておくことにした。

 真っ暗な部屋の中に立った俺は、フラッシュをたいて部屋を撮影する。

 すると、俺の視界の端で何かがキラリと光った。


「うん?」


 机の上に何かあるようだ。

 俺は光ったものが何か気になって、机に歩み寄った。


「これ、何かの資料みたいだな」


 フラッシュを受けて光ったのは、プラスチックのファイルの表面だった。


 これも天笠がやったことの証拠になるだろうか。

 俺はファイルを開くと、その中を撮影することにした。


「何が書いてあるのかよくわからないけど、

 これは血清についての資料か?」


 ファイルには難しそうな化学式や計算式みたいなのが乗っている。

 まるで意味がわからないまま、俺はパラパラとページをめくっていく。


「えっ……」


 俺はとあるページで心臓が止まりそうになった。

 化学式につけられた名前の文字列に心当たりがあったからだ。


『Xー2156-0808-EMI』


「何でここに、恵美えみの名前が……?」


 俺の妹の恵美。

 その名前が入った化学式があったのだ。





※作者コメント※

アイェェェェ・・・

思った以上に天笠が真っ黒クロスケなんだが?

ていうか主人公の妹、天笠に狩られ済み?

どゆこと?!

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