壊れた心の価値(2)


「壊し屋専用スーパーっていうからちょっと構えてたけど、

 なんか……思ったよりフツーだな」


「壊し屋専用といいますか、血清を打った人も受け入れるスーパー。

 そう言ったほうが正しいかもしれませんね」


「なるほど」


 スーパーマーケットは、壊し屋専門と聞いていた。

 しかし入ってみると、中は普通のスーパーと変わらない。

 棚に入っている商品も、普通のお店にあるものだ。


 ちがうところは、客と店員がモンスターの特徴を持っていることだ。

 それ以外に普通のお店と違う所を見つけるのは難しい。


「ルイさんはどんなお店を想像していたんですか」


「うーん……壊し屋専用っていうから、

 銃弾つかみ取りとか、

 本日の大量破壊兵器のコーナーがあると思ってた」


「どんな世紀末スーパーですか。

 一応ここは日本ですよ。

 武器は武器屋さんでしか買えません」


「昔は武器屋でも買えなかったんですけど。

 それ考えれば、十分世紀末してると思います」


「はぁ……それにしても意外でしたね」


「ん、意外って何が?」


「失礼ながら、ルイちゃんに料理ができるとは思いませんでした」


「いや、できないぞ」


「えっ」


「だって俺、シヴァに任せるつもりだったもん。

 わりと何でもできそうな雰囲気あるし」


 シヴァはその髪の毛の先にまで「できる」オーラを身にまとっている。

 きっとシヴァなら、シヴァならなんとかしてくる!


「あ、それは専門外です。

 私は料理ができないので、見回りをかねて部屋を回って、

 そこで皆さんのご飯をいただいてます」


「マジ?」


「大マジです。

 っていうか、どうして出来もしないことを

 やるって言ったんですか……」


「だって、主任が可哀想じゃん。せっかくメガコーポに入っても、

 墓場に向かって全力ダッシュしてるし」


「それはもっともなのですが……。

 自分ができる範囲で考えてください」


「ぐ……」


「ふたりとも、仲良くしないとダメだぞー!

 ケンカはメッだー!」


「ああいや、シヴァとケンカしてるわけじゃないよ。

 ちょっと今日つくる料理のことでね」


「そうですね、何を作りましょうか。

 ルイさんが出来そうなモノなら、なんでもいいのですが」


「俺に任せる流れなの?

 シヴァってなかなか勇気あるな」


「おー、料理かー?

 ならカレーがいいぞ!

 作ったことある!」


「……ふむ」

「ルイさんでも、カレーなら作れるのでは?」


「ああ、そんな気がする。

 あれって野菜を切って肉と一緒に鍋に入れて、

 そんで煮るだけの料理だろ?」


「でもカレーですか?

 作ってもレトルトと変わらない気がしますが……」


「いやいや、こういうのは気持ちが大事なんだよ。

 みんなと食うカレーってなんかうまい気がするじゃん」


「だなー!」


「はぁ……他にできそうなものが思いつきませんし、

 それでいきましょう。

 ではカレーの材料を買っていきますか」


「おう」


 どうでもいいが、ピンとしたスーツを着て背筋の立ったシヴァは、

 所帯じみたスーパーの中でも格好いいな。


 彼女は赤髪をひるがえすと、迷いない仕草でネギをとる。

 うむ。

 カレーにネギは必須だよな。


 ん……?

 ネギ、ネギィ?


「おいシヴァ、カレーに長ネギはいれないぞ」


「えっ、ネギを入れるのでは?」


「ネギはネギでもタマネギだ。

 マジか……そのレベルなのかよ……」


「……ちょっと間違えただけです。

 つぎはおイモですね――」


「一般的に、カレーにサツマイモは入れないぞ」


「……間違えました。こちらでしたね」


「うん、サトイモも入れないね。鍋の中がネチョネチョになるわ!」


「よくわかりますね」


「なんでわからないんだ……」


 ひょっとしてシヴァって、こっち方面はポンコツかぁ?

 俺のほうがまだマシだとは思わなかった。


「必要なのは、コレとコレと、あと米と肉だなー!」


 そんなことしてると、リーは大きな両手で野菜をはさみ、

  俺の持ったカゴにどささっと落としていく。


 うん、ちゃんとニンジンとタマネギだし――ん?

 ジャガイモは……なんか長っぽそいな。


「これ、ジャガイモか?」


「おー! めーくいんってやつだー!

 カレーにはコレがイイって、アイラがいってたぞー!

 くずれにくいんだってー!」


「ほう。経験が生きたな。

 横から来て食ってばっかりのお人とはちがいますなぁ」


「クッ、己の不明は否定できませんが、何か腹たちますね……」


「次はおイモですね。サトイモどーんはないだろ。

 見た目でわかるだろ。毛生えてんだぞ、毛!

 いやーないわー……」


「私の能力って精神統一が大事なんですよね。

 次にルイさんをシェルターに運ぶ時、

 うっかり壁の中に置いていくかもしれません」


「大変申し訳ありませんでした」

「よろしい」


 しかしリーはアイラの料理をちゃんと見てるんだな。

 そういえば体が大きくてキッチンに入れないだけで、

 料理ができないとは聞いてなかったな。


「もしかしてリーって料理できたりする?」


「おう!

 けっせーをうつ前は、おかしづくりもやってたぞー!

 ふんす!!」


「へぇ……焼きイモとか?」


「たしかに甘いですけど、スイーツとは言いませんよそれ」


「クッキーとか、ケーキとか、タルトやパイもつくったぞー!」


 マジかよ!

 お菓子づくりとか神じゃん!!


 俺の全お菓子作りの知識は、

 小学校の家庭科のスイートポテトしかないぞ!


「おぉ……戦力だ、最強の戦力がここにいたぞ!」


「ルイさん、ですが彼女の体の大きさでは――」


 あ、そうか。

 廃屋のキッチンじゃ、リーが入って作業できる大きさがないな。

 しかしなぁ……俺だけでやるのも不安がある。


 いや、待てよ?

 逆に考えればいいのでは


「いや、なんとかなるはずだ」


「「?」」





※作者コメント※

本当に自炊しないドぐされ生活だと、

コメすら炊かないとか……。

大抵メン類、それも冷凍うどんになるのだ。

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