格の違い
<カタカタカタンッ!!>
クルマの中で聞いたマシンガンの銃声はショボい。
沸騰したヤカンのフタが踊る音に似た、とても地味な金属音だ。
しかし――
「うぉぉぉ?!」
<ドカバシバキッ!!>
銃声はショボくても、弾丸さんはきっちり仕事をする。
マシンガンから放たれた弾丸はフロントガラスに突き刺さり、
クモの巣状のヒビが入って真っ白になった。
「おいおい、撃ってきたぞ!?
ヤクザのやつ、俺たちを殺す気か?!」
俺は椅子の上でかがんで、半分パニックになって怒鳴る。
せまい車内はガラスの破片やら何やらが降り注いでめちゃくちゃだ。
「モンスターの血清を打った人間は、そう簡単に死にませんからね。
動きを止めて持ち帰るつもりでしょう」
「あの……シヴァさん。
これだけ撃ってきて殺意がないってのは、流石に無理があるのでは」
「殺したいけど死んでほしくない。
そんな感じでしょうか?」
「どんな感じだ……」
こんな状況にも関わらず、シヴァはいやに冷静だ。
壊し屋だけあって、こうした戦いに慣れているのか?
彼女はヒビで真っ白になったフロントガラスを裏拳で殴って吹き飛ばす。
視界を塞いで運転のジャマになるからだ。
前は見えるようになったが、今度は強烈な風が入ってくる。
殴りつける風の圧力のせいで、俺はマトモに前を見ていられない。
「く……このままじゃ!」
「うひょー風がきもちいいー!!」
「ちょっと変わったオープンカーになったわね」
「なんで二人とも余裕なの?!」
「そう言われましても……。
こんな風に撃たれるのは、壊し屋には良くあることですから」
「なにそれ怖い」
俺たちをつけているヤクザカーがぐんと加速し、右の横につく。
クルマと車の距離はかなり近い。
乗っていた人間の顔をハッキリ……はわからないな。
サングラスをしているし、みんな同じような髪型をしている。
同じ黒服、同じ人相。
まるでクローン生成されたようなヤクザたち。
間違いない。
これはテッポウヤクザという、ヤクザ・アサシンだ。
ヤクザがシノギとしてアサシン・ビズをするときは、
みなサングラスに黒スーツという同じような格好をする。
これは監視カメラや目撃者に与える情報を最小限にし、
ポリスメンの追跡をかわすためのギミックだ。
この格好をすれば、目撃者には「銃を持った黒服」以上の情報が残らない。
何も知らない者には、ただの手抜き描写に見える。
だが実際には、とても効率的なアサシンムーブなのだ!!!
「!!!」
<ズダダダ!!!>
助手席に座っていた男がマシンガンを発砲した。
その銃口は、後部座席で寝そべっていたリーに向かっている!
「リー!!」
後ろで箱座りをしていた彼女の顔面、
そして白い胸元に無数の銃弾が突き刺さる。
次の瞬間、彼女の毛並みが鮮血に染まるのを俺は想像した。
だが――
「チクチクしてくすぐったいなー!!
カユカユだぞー!!」
銃弾を受けたリーは、ネコがするみたいに手で顔を洗う。
あるぇー? 全然効いてないぞ。
「うっそぉ……マシンガンで撃たれたのに、全然効いてない」
「人間用の武器じゃあね」
「あっ」
そういえばそうだ。
俺がシヴァから借りたピストルは、とんでもなくデカイ。
例えるなら、天空の城ラ◯ュタの主人公の男の子が使っていたアレ。
アレを短くした感じによく似ている。
マシンガンと比べると、その銃身の太さは段違いだ。
両者はマカロニとチクワくらいの太さの差がある。
ということは、それだけ威力も違うということだ。
だからリーはマシンガンで撃たれても、
つまようじで刺されたくらいのダメージしかないのか?
モンスターと人じゃ、格が違いすぎる……。
「なんかやられたままだと腹たつなー。
シヴァ~。あいつら、やっちゃっていいかー?」
「いいわよ。方法はリーに任せるわ」
「よっしゃー!!」
そう言うとリーはドアをむしり――
むしり? 何してはりますの!!!?
思わず京都弁になってしまった。
だが、そんな俺の心もしらず、
リーはむしり取ったドアをヤクザの車にぶんなげる。
モンスターの
ぐるぐる回って殺人シュリケンと化した。
レーザーのようにまっすぐ跳ぶドアは、
ヤクザのクルマの天井に突き刺さり、そのまま天井をもぎ取っていく。
しかしそれでもシュリケンの勢いは止まらない。
ドアはクルマの先にあった防音壁に突き刺さった。
サングラスのせいでヤクザの表情は読めない。
だが、リーの攻撃で明らかにパニックになっている。
天井をもぎ取られたクルマは蛇行し始める。
それを見たシヴァが動いた。
彼女はハンドルを鋭く切ると、容赦なく体当たりを仕掛けた。
――つまり俺の座っている側をぶつけにいったのだ。
っておい!! ちょま?!
<ズガン!!>
「うぉぉぉぉ?!」
体当たりの激しい衝撃が俺の腹に伝わる。
体当たりを食らったヤクザは、
たまらずハンドルを切って距離を取ろうとする。
だが、中央分離帯が邪魔をしているせいで離れられない。
クルマ同士は危険なほどに接近している。
コレはチャンスだ。
俺はバッグから銃を取り出し、両手で握り込んで狙いをつける。
人は的が小さい――狙いは車体前方、エンジンだ。
クルマが動かなくなれば、もう追ってこられまい。
しかし雑な作りの銃だな。照準は鉄の棒が一本立っているだけ。
狙うというより、大体の方向を決めるといったほうが正しい。
まあいいか、この距離なら外れっこない。
「喰らえ!」
俺はピストルの引き金を引く。
<ガォン!!!>
すると、爆音と共に目の前に巨大な火の玉が生まれ、銃が真上に跳ね上がった。
反動もそうなら銃声もすさまじい。
俺は見えないハンマーで顔面を思いっきりぶん殴られた気がした。
しかし派手なだけあって、銃の威力は申し分なかった。
エンジンルームの横に大穴があき、ボンネットが跳ね上がっている。
ボンネットは完全にヤクザの視界を塞いでいた。
「アイェェェ! 前ミエナイ!! ナンデ!!」
ヤクザは悲痛に叫ぶが、それでもボンネットは上がったままだ。
視界を完全に塞がれたクルマは、完全にコントロールを失う。
「アイィィィィッ!!!」
暴走車両はそのまま中央分離帯に乗り上げる。
クルマは破片や何やらをまき散らしながら、
キリモミ回転して道路の上に叩きつけられて爆発、炎上した。
「……何じゃこの威力……戦車の大砲か?
まだ腕がジンジンするんだけど」
「おしいですね。戦車じゃなくて軍艦です。
海保が使う巡視船の40ミリ徹甲榴弾を改造したものです」
「そんなもんを使わせんな!!!」
・
・
・
※作者コメント※
うわモンスターつよい。
ルイの撃った40ミリピストルは、
弾頭だけ機関砲のものを流用して推進剤は弱いものにしてます。
安全装置のない、ゼロ距離射撃のできるグレネードランチャーみたいな
あたおか兵器です。
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