シヴァの依頼(1)

「…………」


「不機嫌そうだね。

 きみは、朝に弱いほうなのかな?」


「前から朝は強いほうじゃないが……あんたの手紙のせいだよ」


「そうか」


 次の日の朝。

 俺はシヴァとテーブルを挟んで向き合っていた。


 朝ごはんが終わってひと心地ついていると、ふらりとシヴァが現れた。

 そして「仕事の話がある」と言い、有無を言わさず俺を連れ去ったのだ。


「眠れなくなるほど刺激的だったか」


「目を閉じたくなる内容ではあったんだがね」


「あなたのような『奪い屋』さんなら、カンタンな仕事じゃないか?」


「それは以前の俺に対して言っているのか?

 それとも、今の俺か?」


「今だね」


「だとおもった。

 ま、ヤクザが目をひんむいて探してる宿無しを拾うんだ。

 もとよりタダとは思わなかったさ」


 俺はテーブルの上にシヴァの手紙を投げ出した。

 カサっと音を立てて開いた手紙には、こう書かれていた。



ーーーーーー

奪い屋に以下の資材を調達してほしい


天笠製 30年式水浄化チップ

出雲製 DC式有圧換気装置


詳細は明日話す。

ーーーーーー


「ターゲットは天笠製薬と出雲重工。

 どちらも民間軍事会社ヨウジンボウもちの暗黒メガコーポだ」


「そうだね。ついでに政府にコネがあり、特殊部隊をアゴで使える」


「多角経営にしても尖りすぎて人を刺せそう。

 いや、実際刺してるんだが」


「そうだね。

 ビジネスのためには引き金を引くことをためらわない。

 どちらの会社も、そういうタイプだ」


「なぁ。もう少し俺のやる気が出ることいわない?」


「隠しても仕方がないでしょう」


「じゃあこっちも隠さないで頼む。

 ここに書いてある品物は、壊し屋が欲しがるようなものには見えない。

 普通は武器とかアーマーを欲しがるもんだと思うが?」


「このシェルターには、少々問題がありまして」


「農場にある換気装置の不具合か?」


「おや、気づいていましたか」


「カオリがファンから変な音がすると言ってたからな。

 あんなジメジメした環境で、精密機械が長持ちするはずはない」


「なら、話が早いですね。

 今までだましだまし使ってきましたが……色々とガタがきてまして」


「ある日突然停止して、みんな窒息してシェルター全滅。

 その最悪の事態を避けたいわけだな」


「そういうことですね」


 こりゃひどい。

 また暗黒メガコーポ相手に奪い屋をする羽目になるとは。


 腹をつらぬかれたトラウマがちょっとうずく。


 最悪の仕事だが、断るという選択肢はない。

 このシェルターが崩壊すれば、住むところが無くなるわけだからな。


 それも俺だけじゃなく、アイラやリーたちの家も無くなる。

 断れるわけがない。


「はぁ……シヴァはテレポートできるんだろ?

 会社の倉庫に入って、飛んでくればいいんじゃないか?」


「私の能力にも限界があるので。

 チップはどこにあるかわからないし、大型の機械は一緒に移動できない」


 やはりか。

 シヴァのテレポートには能力の限界があるんだな。


 運搬するにしても、モーターは大きすぎて運べない。

 チップの場所が不明だから、テレポートしても意味がない。

 

 この「どこにあるかわからない」というのは少し引っかかるな。

 ひょっとして、知っている場所しか移動できないとか?


 うん、十分ありえそうだ。


 あるいは体力を消耗するって可能性もあるな。

 とくに制限なくテレポートしまくれるなら、倉庫を総当りで探すはずだ。

 シヴァがそれをしていないという事は……。


 何かの制限か欠点があるのは、おそらく間違いないだろう。


「自分でできないなら、誰かにやらせればいい。

 そこでサキュバスの能力が必要になると。そういうことだな」


「そういうことです。

 機密性の高い物資を探す仕事は、サキュバスの貴女が適任です」


「能力を買ってくれるのは良いけどね……。

 ヒントも何もなしってのは、ちょっと無いんじゃないか?

 どこから始めたらいい」


「もちろん。いきなり外に放り出すつもりはありませんよ。

 なじみの『調べ屋』に調べさせています。

 報告を受ける約束をしているので、彼と会いましょう」


「おっと、そうなのか。

 仕事の仕方がわかっているようで、何よりだ」


「貴女がそうであるように、こちらも素人ではないので」


「そうだったな。シヴァは壊し屋だったな」


「ですが……二人だけというのも心もとないですね。

 サポートに貴女と同室の者を連れていきましょうか」


「ならリーが良いな。

 サキュバスになった今、俺が一番苦手にしているのは『直接的な暴力』だ」


「そういえば、リーがあなたの世話になったようですね」


「大したことはしてない。ちょっと話をしただけだよ」


「そう。でもそのちょっとが大事なんですよ。

 ほんのちょっとの行き違いが、いつか大きなヒビになるから」


「……ちがいない」


「そうだ。装備はここにあるモノを持っていくと良いでしょう。

 幸いなことに、貴女は人間に近い姿をしているから

 大抵のものは使えるでしょう」


「ちなみに聞くんだが、モンスター用と人間用、

 どっちを持っていったら良い?」


 シヴァは質問した俺の前に「ゴトリ」と金属の塊を置く。

 以前使っていたピストルをそのまま大きくしたような巨銃だ。


 これはもはや、手に持つ大砲と言った方がいいだろう。

 ってか、え? これ使うの?


「あの、シヴァさん?」


「壊し屋の武器庫に人間用の武器があるはずないでしょう?

 人であれ何であれ、モンスターと思って使ってください」


「えぇ……?」


「実際、モンスター素材で作ったアーマーを着た人間は、

 ほとんどモンスターと変わらないんですよ。

 ――ですので、セーフです」


「いや、アウトだろ!」


 しかし抵抗むなしく、俺はシヴァから銃を押し付けられた。

 銃はその見た目に反して意外なほど軽い。


「軽いな」


「モンスターの素材を使ってますからね

 その命くらいには軽いですよ」


「げ」


 モンスターの素材ということは……。

 まぁ、そういうことだよなぁ。


「引き金を引くのはためらわないように。

 素人でない貴女には、言うまでもないでしょうが」


「あぁ。心得てるよ」





※作者コメント※

ちょっとハードボイルドしてる

でも何か次あたりで思いっきり崩れそうな予感ががが

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