当然の問題


「そうでしゅ! ルイしゃんにお仕事をお任せしたいでしゅ!」


「は、はい!?」


 あるぇー?

 シヴァさんからじゃなくて、早速アイラからきた!

 し、仕事ってなんぞや!


「これは非常に重要な任務でしゅ。それもずばり――」


「ず、ずばり……?」


「しゅしゅ! ご飯をつくるでしゅ!」


「ご飯……料理ってこと?」


「でしゅ! キッチンに入ってご飯作れる子が、

 ここにはアイラしかいないでしゅ!」


「あー、たしかに。リーは刃物持たせるの怖いし、

 サオリはあの大きさだから……キッチンに入れそうにないね」


「しゅしゅ! おねがいできましゅか?」


「まぁそれくらいなら?」


「良かったでしゅ! 着替えたら来てくださいでしゅ!」


「う、うん」


 バタンと扉を閉じ、アイラは部屋をでていった。

 扉の先でまだ気配を感じるから、外で待つつもりかな?


 しかし……妙なことになったな。

 俺が連れてこられたのは、モンスターの血清を打った人たちのシェルター。

 ここが安全なのは間違いない。


 それはありがたいのだが、俺の心はシェルターの外にある。


 ――「願いの壁」。


 あの壁の内側に入って、俺の妹の愛美エミの消息を調べる。

 それがこれまで奪い屋をやってきた俺の目的だ。


 いつか必ずあの壁の内側に……。


 だが、今は動けない。

 シェルターの外の治安は最悪だ。


 しばらくヤクザクランの連中がウロウロしているだろう。

 それに俺を裏切ったギルマンもいる。


 しばらく大人しくして、様子を見るしかないだろう。


 シヴァさんが何を考えているのか?

 それはまったくわからない。


 しかしモンスター娘たちの様子を見るかぎり、シヴァは悪人ではなさそうだ。

 彼女を信用したわけではないが、急いで出ていく必要もないだろう。


「とりあえず、新しい服に着替えるか……」


 ライカンにやられたときの服のまま、俺は着替えていない。

 なので服は腹の部分にどでかい穴が開いてるし、血で汚れている。


 どう見ても普通じゃないのに、アイラたちは驚かなかったな。

 もしかして、これくらいのことは、よくある事なのか?


 俺は汚れた服を脱ぎ、サオリが作ってくれた服を手に取る。

 さすがアラクネといったところか、とても上等なものに見える。


「出すところに出したら、数十万円くらいしそうだな」


 モンスターの素材で作った服や装備は高級品だ。

 そういった物は、普通とは違う特殊な効果を持っているからだ。


 真夏でもエアコンがいらないヒンヤリした生地。

 弾丸を防いだり、火の中に飛び込んでも平気な毛皮。


 モンスターに由来する素材は、そういう普通じゃ考えられない特性を持つ。


「アラクネの糸で作った服は、とんでもない耐久性があるって聞いたな」


 確か、服が破けてもハンガーに吊るしておくと治るとか。

 本当かどうかはしらんけど。


「あ……」


 完全に忘れてた。


 服にはスカート、そしてブラジャーがある。

 今の俺は女性なんだから、そりゃそうだよな。


 まずは下着からだよな。


 パンツはわかる。これは男物と基本構造が同じだ。

 しかしこのブラジャーというやつはどうしたら良いんだ?


 まさか外にいるアイラに聞くわけにもいかない。

 ここは自分でなんとかせねば。


「まず……肩ヒモを通してみるか」


 俺はまず、X字になっているブラジャーの肩ヒモを腕に通す。

 そして胸に当てるカップの部分を前にした。

 なんとなく合ってる気がする。


 関係ないけど、レースといいベルトといい、装飾がすごいな。

 「職人が半年かけて作りました」って言われても信じるぞ。


 ふむ、カップのついてるベルトに金属のフックがあるな。

 恐らくこれでブラジャーを留めるんだろう。


 しかし……ぬぐぐぐ!!

 体が固くて、後ろに手が回らねぇ!!


 女性の体になったのに、ここは変わらないのか。

 しょうがない。前で留めて後ろに回そう。


「おお、ピッタリだ。サオリの腕前はすごいな」


 しかしブラジャーって思ったより硬いな。

 これ、胸の下の部分にワイヤーが入ってるのか。


 もうこれ服っていうか「装備」だろ。

 構造としては、銃のマガジンを入れるチェストリグとかと同じだぞ。


 さて、次はスカートだ。これは簡単だろ。

 こんなの、スカートのホックをで留めればいいだけだからな。


 俺はスカートに足を通して、フックを留める。

 しかし、俺はここで違和感に気づいた。


「なんかズレてね?」


 なんか……明らかに縫い目の線やスリットの位置が違う。

 妙な布あまりがあるし、スリットって普通前と後ろに来ないような……。


 ってことは、横なのか!? このホックって横に来るのか?

 面倒くさいな!!


 俺はスカートをねじって位置を調整する。

 だが、何かまだ変な感じがする。


 スカートの丈が、膝より下、くるぶしまで来ているのだ。

 みょーに長くない?


「サオリが縫製ほうせいをミスったとは思えない。他の子の服も作ってるんだし。

 となると……間違えてるのは俺か」


 そうか、単純に履いてる位置が低いのかもしれない。

 スカートって腰きじゃないのか。


 俺はスカートを止める位置をヘソのあたりに持っていく。

 すると、スカートの長さがちょうどよくなった。


「ふぅ、これで良さそうか」


 女物の服の着こなしを間違えたら大変だ。

 男とバレてしまう危険がある。


 後はシャツとジャケットか……わーぉ。

 シャツとジャケットは背中の方が盛大に開いている。


 豪快だなぁ。ちょっとエロすぎない?


 袖を通して「あ、なるほど」と俺は思った。


 サキュバスである俺の背中には、ちいさな羽がある。

 服の背中が豪快に開いていたのは、これのためだ。


 そういえばブラジャーの装飾が妙にっていたのは、これのせいか?

 ベルトを見せても大丈夫なようになってるんだな。


 なんという気遣きづかい。

 これはもはやプロ。仕事人のそれだ。


「――よし、こんなもんか」


 俺はようやく身支度を終えた。

 いやー……女性の服ってこんなに面倒だったのか。


 男の服って一瞬で終わるからなぁ。

 シャツを被ってズボンを上げるだけだし。


 俺が思うに、これは服じゃない。

 装備だ。


「うむ。これでどこから見ても立派なサキュバスだ。……多分」


 スカートが妙にスースーする。

 これからこれにも慣れないとなぁ……。





※作者コメント※

TSとしてまずやらなければならないこと。それはお着替えである。

って専門家が言ってたので、いうとおりにしました。

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