共同生活


「女の子たちと一緒に住むなんてなぁ……フツーだったら嬉しいはずだけど」


 オレと彼女たちの自己紹介が終わると、シヴァはどこかに帰ってしまった。

 そして俺は空き部屋をあてがわれて、部屋で休んでいる。


 タダで住まわせてもらっておいて何だが、部屋はせまい。

 ベッドで部屋の半分が埋まっているくらいだ。


 それに、家具も少ない。

 びたパイプベッド、ガタついた椅子、机、サイドテーブル。

 それだけだ。


「まったく、豪華すぎて涙が出ちゃうね」


 この部屋なら、一泊3000円の素泊まり宿くらいかな?

 まぁ、身動きできるぶんネットカフェよりマシだから良しとしよう。


 俺の体を支えているパイプベッドは年代物だ。

 寝台の上で身動きするたびに、キィキィと不快な音を立てる。


 以前の俺と比べると、今の俺は相当軽くなったはずなのだが。

 それでもこいつにとっては苦しいらしい。


「失敬なやつだな」


 俺がそういって寝返りをうつと、ベッドは苦しそうに返事をした。


 さて、今は何時だろう。

 この部屋は窓がないから、時間がよくわからないな。


 そういえば、建物の中を通っていたときはひとつも窓を見なかった。

 確か……ダイニングと廊下にも窓はなかったな。


 どこにも窓がないということは、ここは地下なんだろうか?


 この部屋の入口にあった、あの分厚い鉄のドア。


 あれが最初からあった備え付けのものだとすると……。

 ここは本当に何かの地下シェルターかもしれない。


「まるで核シェルターみたいだ。そう思ったけど……本当かもな」


 シヴァは瞬間移動ができる。

 ということは、本当に出入り口があるのかも疑わしい。


 壁と距離を無視して移動できる彼女に出入口は不要だ。

 ああいや、補給と換気の問題があるか……。


 完全に封鎖してしまったら食べ物や飲み物が手に入らない。

 それに空気だってそのうち無くなってしまう。


「……それくらいのこと、彼女が気づかないはずないか」


 出入り口を塞ぐと換気と補給の問題がでてくる。

 逆にいえば、これを解決すれば建物を完全に封鎖できるってことだ。


「解決するだけの価値はあるな」


 封鎖で生じる問題を解決すれば、あの子たちは完全に守られる。

 追手は何も手出しできないはずだ。


「封鎖するメリットは大きい。地下を完全封鎖してるとしたら、

 シヴァは何らかの方法でこの問題を解決してるのかもな」


<コンコン!>


「うん?」


 俺の思考は、部屋のドアをたたく音で中断された。

 誰だろう。


 俺は立ち上がると、目の前のドアを押して開いた。


 この部屋にもひとつくらいは良いところがある。

 それは、部屋がクソせまいお陰で、すぐお客さんに応対できることだ。


 ドアを開けると、そこにいたのはアイラだ。

 彼女は先程までは髪をアップにまとめていた。

 しかし今はその黒髪をおろして、両サイドの髪で裂けた口を隠している。


「えっと……アイラだったっけ?」


「そ、そうでしゅっ! 覚えてくれたでしゅか!」


「まぁ、みんな印象的だったからね

 君たちの名前は、なかなか忘れられるものではないよ」


 俺は愛想笑いを浮かべて、ドアによりかかった。


「しゅ!」


 ……うん?

 なぜかアイラはヘビの体を激しくくねらせている。

 うっかり巻き込まれそうで怖いぞ。


 おっと、そんなことより――


「アイラ、俺に何か用があったんじゃないの?」


「あ、そうでしゅた! これを渡しに来たんでしゅ!」


 そういってアイラは手に持っていたモノを俺に押し付けた。

 これは……服か?


「服? なんか妙にツヤツヤしてるね」


 アイラからもらった服は、驚くほど軽くてやわらかい。

 俺の着ている綿や化学繊維の服に比べると明らかに上等だ。


「不思議な手触りだ。これは……ひょっとしてシルクか?」


「はい! 全部サオリしゃんの手作りでしゅ!」


「全部っていっても、糸や布は買ったものだろ?

 高かったんじゃないか」


「いえいえ! それもサオリしゃんのです!」


「サオリの……?」


 俺はそこでハッと気付いた。

 サオリはアラクネというクモのモンスターだ。

 クモは糸を吐く。

 で、布とは糸をり込んだものだ。


「まさかこの布は、彼女が吐いた糸で作ったのか?」


「でしゅ!」


「それはすごいな……じゃあ君が身に着けているそれも?」


「はい。サオリしゃんはここにいる皆の服を作ってるでしゅ」


「へぇ。じゃあそれも?」


「でしゅ!」


 アイラはどことなく中東風味な薄衣を身にまとっている。

 彼女が着ている服は、サオリが織ったものなのか。


「へぇ、ここで作ったものなのか」


 俺はもらった服を広げてみる。

 おお、明るい灰色の女性用のスーツジャケットとタイトスカートだ。


「いや、俺が寝てたの1時間もなかったよね? 爆速だな……」


「ルイしゃんを見たサオリしゃんは、いつもの3倍のやる気をだしたでしゅ。

 それで、8本の足でやったから通常の24倍速になったでしゅよ」


「その理屈はおかしい」


 まぁ、モンスターだしそういうこともあるか。

 血清ってスゴイ。

 そういうことにしておこう。


「こういうのはみんなやってるのか?」


「でしゅ! お野菜を作ったり、お魚を育てている子もいるでしゅ」


「へぇ……君たちは自分たちで助け合ってるんだな」


「しゅしゅ!」


 モンスターの能力を使って彼女たちは食べ物や着るものを作ってるのか。

 皆で持ち寄ってやりくりして、それで自給自足しているんだな。


 ――そうか!

 補給品の問題は、彼女たちが解決しているのか!


 生活に必要な物資をシェルターの中で作ってもらう。

 そうすれば、シヴァが持ってこれる範囲の補給で何とかなる。


 ここのカラクリが分かってきたぞ。


 ……ん。


 そうなるとちょっと困ったことになるな。


 俺は何も作れない。


 奪い屋をしてたときだって、右から左に物を動かしていただけだ。

 俺個人にそういう技能はない。


 そして、サキュバスもだ。


 サキュバスに何かをモノを作ったり、育てる技能ってあったっけ?

 夢魔の伝説でそういう話はまったく聞いたことが無い。


 人から精気を奪ってなにか悪いことに使う。

 そんなイメージしかない。


 強いて言うなら子作り?

 もしそうなら断固拒否するぞ。


 俺はシヴァに一体何をさせられるんだ?

 メチャクチャ不安になってきた……。





※作者コメント※

おやおや

一体何をするんやろなぁ…?

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