お姉様って誰?…俺?!


「ぐわー! キレイな人が来たぞー!」

「シュ~、失礼でしょ」


 騒いだ虎の子を、下半身がヘビの子がたしなめる。

 フツー、逆っぽいけどなぁ。


 クモの子は腕を組んだまま俺のことをにらむようにしてる。

 ひょ、ひょっとしてバレたかな?


 きっとモンスターの力か何かで……。


「あの子のスタイルは理想的……いいわ。すごくイイ!」


 あ、なんか違ったっぽい。

 前足と手をワキワキと動かして、今にも俺につかみかかりそうだ。


 なんなのこの人たち!!

 スルタンとは別のベクトルで怖いんだけど?!


「はいはい、そこまでよ。まずは新人の彼女を紹介させてね」


「…………」

「「……………」」


「あなたよ」

「あっ、そうか」


「ちょっと天然はいってるー? むぐぐ」

「だーかーらー! 失礼って言ってるでしょ!!」


 虎の子が蛇の子に巻き取られた。

 うーむ、蛇の子は委員長タイプなんだろうか。


 それと、虎の子は見た感じちょっとアホ……素直すぎるな感じか。

 蜘蛛の子はちょっとわからないな。

 どことなくマッドというか、マニアックな気配がするけど。


 あ、それはともかく自己紹介をするか。


「――ルイです。打たれた血清はサキュバスです。

 まぁ、見たらわかると思いますけど」


 ……ここから、どんな感じにすればいいんだろ。

 奪い屋です。銃や爆発物、詐欺にくわしいです、とか?


 いや、どんな紹介だよ。

 ヤクザと仕事するんじゃないんだ。


 もっとこう、趣味とか、好きな食べ物とか。

 そういうところから行くべきだな。


 いや……無いな。

 趣味らしいものといったらネットとマンガくらいだ。

 そして、食べ物は食えればいいやの精神だった。


 まさか俺って、人間的な魅力が……無い?!


「――ルイちゃんって……」


 う、マズイ! ヘビの子がしげしげと俺を見ている!!

 人間性の浅さを見破られたか!?

 クソ、どうせ俺の人間の深みなんて、潮干狩りできる程度しかねぇよ!!


「カッコイイね。モデルしゃんみたいだし、ビシュッとしてる!」

「クール系ってやつだなー!」

「そうね。あの子は寒色系、知的な色合いが似合うわね」


(え? 何かえらい勘違いされたような)


「じゃあ、次にうちの子を紹介しましょうか」


 あ、俺の自己紹介が流された。

 ちょっと助かったけど、なんかモヤる!!!


「ヘビの尻尾で巻かれている、そこの虎の子からいきましょう。

 彼女はワータイガーの血清を打ってるわ。ライカンスロープの虎版ね」


「おー! リーっていうぞ!!

 よろしくー!」


 彼女はふわふわの手を振って挨拶してくる。

 俺が小さく手を振り返すと、リーは尻尾をぴんと立て、照れ笑いした。

 うん、虎とはいえネコの面影があって可愛い。


 でも、彼女の姿は明らかにパワー系だ。

 じゃれつかれたら体の一部がなくなってそう。


 今の体は華奢きゃしゃだから、全身吹き飛ぶかな?

 怒らせないように気をつけよう。


「次はリーを巻いてるヘビの子。彼女はラミアの血清ね」


「フシュ?! あ、アイラでしゅ! よろしくでしゅ!」


 噛んだ、訳では無いな……。

 彼女の口元は、爬虫類っぽく大きく裂けている。

 だから空気が漏れて、一部の言葉の発音が苦手なようだ。


「よろしく、アイラさん」

「ひゃ、ひゃい!!」

「ギャー! 折れるぅー!!!」


 俺が挨拶すると、アイラがぴんと背筋を伸ばした。

 すると、それのせいでリーの体がおもいっきり締め上げられた。


 なんかリーの形が「出」みたいになってるけど、大丈夫かな……。


 アイラはこう、ドジっ子気質があるタイプか?

 うっかり絞め殺されないようにしないと。


「最後にクモの子にいきましょう。彼女はアラクネね。このオンボロ建物の維持にいつも世話になってるわ」


 ああ、クモだから壁とか登れそうだもんな。

 それに糸を吐いて、それで保守するとかしてるのかな?


「ふふ……サオリです。あの、ルイさんに聞きたいことがあるんですけど」


「はい?」


「服とか、コスプレとか……興味ないですか!?」


 ドカドカと重量感のある足音でサオリが俺にせまってくる。

 彼女は下半身の大きさが人間の数倍くらいあるから、迫力がすごいな。


「えっと、今のところは別にないかな」


「そ、そうですか……」


 俺の返事にがっかりしたのだろうか。

 サオリは3連勤徹夜明けのサラリーマンみたいに肩を落としてしまった。


 今日会ったばっかなのに、マイナス印象を与えるのはよくない。

 ここはフォローしなくては!


「あ、でも服は欲しいかも? いまの服は血清を打つ前のものだから」


「はい喜んでぇぇぇぇぇぇ!!!」

「――ッ?!」


 サオリがいきなり大声を出すから俺はビクッとしてしまった。

 なんちゅうテンションだ。


「ではでは、どういったモノが? やっぱりこうサキュバスっぽい感じですか?

 ああでもそれよりルイさんに合わせたほうが! お姉様は都会的な感じがいいと思うんですよね! クールだし、カワイイよりはかっこいい系っていうか!」


「あ、えーっと」


 お姉様って誰?

 ……俺?


「そこまでにしてねサオリ。まだやることがあるから」


「まままま、まだ話足りないのにぃ!」


「サオリ、時間はあとでつくれましゅよ」


 サオリはアイラに巻かれて回収されていった。

 うーむ強い。


「アイラはこの部屋のリーダーだから、困ったことがあったら、彼女に聞いてね」


 おお、そうなのか。

 この中では比較的話が通じそうだし、頼らせてもらおう。


 ん……ってか、部屋のリーダー?


「部屋のリーダーということは、他にも部屋が?」


「えぇ。適当に空きのある部屋で、穏やかな子が多いところを選んだわ」


 え~、ほんとぉ?

 これ以上にクセのある子たちの想像がつかないんだけど。


「これが穏やかなら、激しいところはどうなってるんですか」


「あのドアが必要になるくらいかしら?」


「……なるほど」


「仕事の話は明日からにするから、今日はゆっくり休んでちょうだい」


「そうします」


 あの様子じゃ、休める気がしねぇけどな!!


 しかしまぁ、モンスターとはいえ女の子と共同生活かぁ。

 俺、いちおう中身は男なんだけど……?


 なんだろう。

 心おどるどころか、不安しか無い。





※作者コメント※

濃ゆいのが揃ったなぁ……

メジャーどころのモンスターが集まってるのに

性格がピーキー過ぎません?!

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