モンスターハウスだ!


 俺はあったばかりの「壊し屋」シヴァの誘いを受けた。

 うさん臭いが、他に方法もない。


 仕事、装備、家、相棒。

 サキュバスになったことで、俺はこれまで築き上げた全てを失った。


 今の俺は何も頼るものがない。

 外をほっつき歩いていたら、いずれスルタンに捕まるだろう。


 そうなれば本当の終わりだ。

 最悪よりは最低を選んだほうがいい。


「シヴァ、あんたの話に乗った。俺の身を任せる」


「ではルイ。これをつけてください――」


 微笑を浮かべたシヴァは、俺にアイマスクを手渡した。

 うん?


「……目隠しか?」


「拠点の場所を知られるわけにはいきませんので」


「それはわかる。だが、なんでここで?

 こういうのって、普通は車に乗ってからつけるだろ。」


「今がそれ・・です」


「……わかったよ」


 彼女の雰囲気に押され、俺はアイマスクをつける。


 真っ暗闇のなか立ち尽くしていると、俺の手をシヴァが握った。

 俺のほほが、誰かの体温を感じている。


 次の瞬間だった。

 その場で360度回転したようなめまいに俺は襲われる。

 空気のボールの中に詰められて蹴り出されたような、そんな感覚だ。


「うっ……」


「終わりました。もう外していいですよ」


「ちょっとまて、いま何をした……――ッ!」


 アイマスクを外すと、俺はもうどこかの建物の中にいた。


「どういうことだ? 機械の音も何もなかったぞ?

 まさか、瞬間移動テレポートでもしたのか?」


「そんなところですね。」


 さすが「壊し屋」というだけあって、普通じゃないな。

 ノータイムで拠点に拉致されるとは思わなかった。


 こんなことが普通の人間にできるはず無い。

 やっぱりシヴァは……。


「シヴァ、あんたもモンスターの血清を使っていたのか?

 どう見ても人間にしか見えないが」


「はい。私もモンスターの血清を使っています」


「あまり肉体の変化をしないタイプのモンスターだったのか。

 うらやましいね」


「そう見えますか?」


「あぁ、アンタはその……ただの人間にしか見えないな」


「そんな事を言われたのは久しぶりです」


 俺の言葉にシヴァは微笑みを深くした。

 その表情を見て、不覚にも俺は心臓が高鳴った。


 まるで人を真似た機械のように思えたんだが……。

 なんだ、ちゃんと笑えるんじゃないか。


「行きましょう。こちらについてきてください。

 ここは馴染みの案内がないと迷いますよ」


「あ、あぁ……」


 俺はシヴァの案内で建物の中を進んだ。

 建物の中は薄汚れていて、かなりほこりっぽい。


 というか、シンプルに汚い。


 床と壁の継ぎ目は真っ黒になって、チリやゴミで埋まっている。

 壁もクッソ汚く、塗装は完全にはがれ落ちて、下から徐々に黒ずんでいた。


 天井もひどい。

 無数の雨りのシミが残っているのはまだいい。

 ところどころ天井の板が外れて、高電圧ケーブルが垂れ下がっていた。


 雨漏りしてるのに、むき出しって。

 コレ、大丈夫?


「本当は見えちゃいけないものが見えてるよ……」


「電気ケーブルには触らないようにね。この建物、古いから」


「古いっていうか……ほぼ廃墟だぞ」


 俺とシヴァは、建物の中を進み。緑色の鉄のドアの前まで来た。

 彼女が立ち止まった所から察するに、ここが目的地らしい。


「ついたわ。皆に挨拶してくださいね」

「お、おう。」


 彼女はドアの鍵を開けると、俺を促した。

 どうやら鉄のドアを開けるのを手伝えということらしい。


「はいはい。って、重いなコレ」


「これくらいは必要な備えですから」


「外から? それともからの備えか?」


「ご想像におまかせします。何を言っても疑うでしょうから」


「俺、信用ない事に信用あるね」


 俺の自嘲を聞いたシヴァがクスリと笑った。

 彼女笑いのツボが良くわからんな。


 中に入ると、俺の後ろで鉄の扉がズシンと音を立てて閉まった。

 ドアを開けるときに厚みを見たが、余裕で10センチ以上あった。

 金庫か核シェルターの扉みたいだな。


「中に入ってください。皆に紹介します」


「シヴァが保護したモンスターは何人くらいいるんだ?」


「ルイ。彼らはモンスターではありません

 契約血清を打っただけの人間です」


「あ、ごめん……」


「言い方に気をつけてください。

 あなたもモンスター扱いされたらイヤでしょう?」


「そうだな。じゃあ何て呼べばいいんだ?」


「普通に名前でいいです。私がルイにしているように」


「わかった。モンスターの名前で呼ぶのは、狩る相手だけ?」


「……そういうことですね」


 玄関から短い廊下を進むと、そこはフローリングの居間だった。


 今の様子は外に比べてだいぶ小綺麗だ。

 壁紙もちゃんとしているし、天井も崩れていない。 


 すると廊下と居間の間に立ったシヴァが手を叩き、声を張り上げた。


「皆さん、新しいお友達がきましたよ!!」


 さて、こんな魔窟めいた廃墟にいる人たちってどんなのだろう。


 血清を打っているなら、モンスターの格好をしているはず。

 怖くないといいなぁ。


 シヴァの声を聞きつけたのだろう。

 居間につながったドアからいろんな形をした人がやってくる。

 二足直立する虎。下半身が蛇の人。それに8本足のクモの人。

 同じ姿はふたつとない。


 おぉ! これぞまさに、モンスターハウスってやつ?


 ところで、居間に集まってきた人たちには、ある共通点があった。

 その共通点が、俺にとって非常に気がかりになっている。

 

 というのも、居間に集まってきた人(?)たち。

 みんなモンスターの女性――モン娘なのだ。


 俺……中身男なんだけど。……いいのかなぁ?





※作者コメント※

あらあらウフフ

ここからが本編だぜ…!!

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