壊し屋と奪い屋



「そうか……じゃぁ好きにしろよ」


 もうどうでもいい。俺はそう思ってビルの屋上に座り込んだ。


 俺が尻をつけた屋上の床は火傷やけどしそうなくらい熱かった。

 夏の太陽の陽に温められて、床は熱をしこたま溜め込んでいたのだ。


 まずいな。

 観念してどっかり座ろうと思ったのに座ってられない。

 熱すぎる!!

 いや、マジで尻が焦げるぅ?!


 俺がアチッ、熱ッ!! と騒いでいると、

 女性は呆れたような声を上げた。


「……何か勘違いされているようですね」


「え、勘違い?」


「壊し屋はモンスターを狩ります。

 ですが、契約血清を打った人たちを狩ることはありません」


「そうなのか?

 じゃあ、何で消えてもらうなんて……」


「姿を消してもらう。そういう意味です。

 こちらをご覧ください――」


「ほうほう?」


 どこから取り出したのか、彼女は大型のタブレット端末を俺に向ける。

 するとタブレットには、ある場所の映像が映し出された。



ーーーーーー

『はやくルイちゃんを捕まえろ! まだ捕まえられんのか!』


『どうかお待ちくださいスルタン。

 ただいま東京中のさらい屋に連絡しておりますゆえ』


『うむ、早くしろ。そうだ! 部屋の用意はできたか』


『ハッ! スルタン様のために

 アワブロ・ヤクザの特異点技術を全てつぎ込んだ、

 最高のお部屋を用意してございます』


『道具も揃えたか?』


『ええそれはもう、愉しみに使う道具はたっぷりと!』


『よろしい!!』

ーーーーーー



 俺がさっきまでいた会議室だ。

 サキュバスになった俺を捕まえるため、スルタンは手を尽くしているらしい。


 動画では、人身売買を生業とする、東京中のさらい屋に連絡していた。

 なんとしても俺を捕まえようとしているようだ。


「うわぁ……」


「スルタンをここまで入れ込ませるとは、ルイちゃん、あなた相当な悪女ね」


 俺、元々男なんだけどなぁ。

 まぁいいや、これを説明するとややこしくなる。


「そういうつもりはなかったんだけど……。

 血清を打ったら、みんな目の色を変えて追いかけてきたんだ」


「その気持はわかります……私はシヴァ。

 あなたのように、望まず血清を打った子を集めています」


「血清を打った人を?

 そんな慈善事業があったなんて、今始めて知ったよ」


「あなたの姿を隠すと言ったでしょう?

 私たちの存在が知られていたら、問題でしょう」


「あっ、そうか。秘密にしてないといけないもんな」


「そういうことです」


 しかし何の目的で?

 契約血清を打った人間を集めて回っているというのは、

 それだけで胡散うさん臭い。


「でも、なんでそんなワケありを集めて回ってるんだ?

 隠れている間の食費だって、タダじゃないだろう」


「すぐにうまい話に飛びつかない。

 ルイ、あなたは警戒心が高く聡明ですね。悪くない」


 ――望まないモンスターの血清を打ってしまって人間を集める。

 この話だけ聞くと、ただの慈善事業だ。


 しかし、血清を打った人間というのは、モンスターの能力を持っている。

 単純に力が強くなったり、魔法という超能力が使えるものだっている。


 タダメシを食わせて遊ばせておく理由はない。


 血清を打ったら、その力を使って稼ぐものだ。

 第一、壊し屋がそうなのだから。


 壊し屋とは、契約血清を打った者がなる職業だ。

 人間の壊し屋もいないわけじゃない。

 だが、そういうヤツは大抵長生きできない。


 モンスターと同じ力を持つから、モンスターハンターになれる。

 化け物を殺せるのは、化け物だけだ。

 

 つまりシヴァがやっていることは……。


「なるほど。あんたの家業を――

 モンスターハンターを手伝わせてるのか」


「おどろいた。その通りです。

 私に会ってすぐ、それを見破った子は多くないですよ」


「どうだか。相手の能力をめて警戒心を解く。

 初歩的な人心操作術だ」


「今の世の中、疑り深くなるのは無理もないです。

 でも次の機会は多分ないでしょうし、時間もない」


「……それも初歩の人心操作術だな。時間がないと言って思考力を奪う」


「降参。呆れたものですね。

 血清を使う前は、結婚詐欺師でもしてましたか?」


「いいや。ただ、詐欺師の相手は良くしていたよ」


「裏社会のお仕事といったところですか?

 アワブロ・ヤクザクランに目を付けられるくらいですから」


「そうなるね。俺は『奪い屋』をしてた。

 履歴書を出す必要があるなら、それも書こうか?」


「その必要はないです。

 それにしても、奪い屋とは都合がいいですね」


「男の精を盗めとか絶対イヤだぞ!

 それがイヤだから、危険を承知で逃げ出したんだ!!」


「いえいえ、そういうモノではないです。

 直近の問題で、あなたが力を発揮できそうな案件があるんです」


「自分で言ってて、凄まじくうさん臭いって思わないか?」


「はい。当然思います。

 この話に乗る人間もどうかと思いますが、あなたには選択肢がない」


「…………」


「会ってすぐに信用して、というのは難しいでしょうけど……

 どうかしら?」


 シヴァのことをあってすぐに信用はできない。

 しかしそれも今さらか。


 「わかった、その話にのろう」




※作者コメント※


補足!!


壊し屋=モンスターハンター。

大抵はモンスターの血清を使い、モンスターの能力を持った人間である。

モンスター化症候群で、正気を失ってモンスター化した人を狩るのが彼らの仕事。


政府の特殊部隊も同じような感じで、モンスターの能力を持って、さらに専用の装備を使っている感じ。

ライカンだったらクローを装備してたりとか、アーマーを付けてたり……。

特殊部隊は、野良のモンスターじゃ、まず敵わない相手。


だけど特殊部隊は組織の腐敗と人員不足で、まったく手が回らない。

なのでモンスターの退治は、基本的に町で事務所を開いた壊し屋が対応している。


特殊部隊>壊し屋>越えられない壁>武装した人間(ヤクザ)>一般人


みたいな感じです!

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