2話:正義の審判者

「友梨さん!」

「うん、わかるよ! 煌星」


 そう、俺達は今──目の前のタワマンに目を奪われているのだ!


 でっけぇ⋯⋯!

 どこぞのタワーよりは流石に見劣りするけど、50階建てのスーパーリッチマンしか住めないタワマンなのだ!

 

 昔にもタワマンはあったらしいんだが、色々不便な所も多くて馬鹿にされているところもあったらしいのだが、今は違う。

 魔石⋯⋯いや、もはや向こうの力で、エレベーターの電力を魔力に変換することで、とてつもない成長を遂げた。

 

 結果、行き先に着く速度はまさに新幹線。

 セーフティも完備していて完璧な状態。

 タワマンの1階にはトレーニングルームとサウナ室も! コンシェルジュから様々な最強選択肢も選べて最高環境である!


 月収ウン千マンクラスが初めて住めるというスーパーハイクラスの家なのだ!


「友梨さん! 早く行きましょう!!」

「ちょっと!」


 あまりの興奮に友梨さんの手を引っ張って中へ入っていく。

 

「おぉ⋯⋯!」


 一流企業レベルのエントランスの光景が広がる。入ってすぐに綺麗なお姉さんが受付で立っていて、天井は遥か上。


「こ、こんにちは!」

「はい、こんにちは。ギルド推薦枠の黄河様ですね?」

「はい!」

「ありがとうございます、では案内を致しますので、どうぞこちらに」


 そんな入りから美人お姉様による案内が始まった。

 

 入ってすぐに左側はジムなどのフィットネス系。

 右側は飯が食いたい人や取引したい人向けの何?なんちゃらコーナーや!


 場違い感凄すぎて話の半分もわからんかった!

 ⋯⋯ええそうとも。

 たかだか一介の大学生ですから、そんな事は全く分かりません!


 共用部の他には、プライベートガーデンとか言う楽園みたいな場所に、高品質な本が揃っている図書館みたいなライブラなんちゃらと、パーティールーム、あとは予約制にはなってしまうが、スカイデッキと娯楽施設を兼ね備えた場所まであるという。


 ⋯⋯金持ちヤバ。


「そしてこのエレベーターで上がっていただければ、お部屋に行けます。案内は以上となります」

「あ、ありがとうございます!」


 



 俺と友梨さんの住む場所は46階の角部屋である。

 エレベーターから出ると少し暗い廊下に出る。


 これが高級感なんか。

 ⋯⋯えろ。


 そっから部屋を見つけ、鍵を開ける。

 開けると玄関な訳だが、すぐ両側にはシューズボックス。

 友梨さんが嬉しそうにな表情をしていたので引っ越してよかったと心の俺は頷いた。


 そして──。


 色んな部屋はあとにして、俺は憧れに憧れた⋯⋯死ぬほど広い空間と綺麗な景色を眺める事のできるスーパーバルコニーのダブルセットのお迎え。


 俺と友梨さんも思わず驚きで無言だったが、すぐに大盛り上がりしながら二人でバルコニーに出て外の景色を眺めた。


「いやー友梨さん! これがタワマンですよ!」

「ですね! 生で見るのは初めてです!!」


 今はまだお昼だからそこまでの景色だが、夜に八王子中の建物がライトアップする為、夜景のレベルが高いとして通常の場所よりもここのタワマンの価値が高い。


「煌星さん! 見てください!」


 キッチンの方へと向かうと、内蔵型の食洗機、更には収納まである。


「すげぇ⋯⋯」

「これなら冬も手が荒れずに済みます!」


 確かにもう時期は夏だが、冬まで居てくれるの? 女神すぎん?


「ここで作る料理は捗りそうです!」


 両手でポーズを決める友梨さんが尊いぞ。


「とりあえず荷物をまとめますか!」

「ですね!」


 それから早速部屋の確認から入る。

 間取りは4LDK。

 とんでもない。


 俺専用の部屋は、入って一番奥の部屋にする事にした。

 まぁ色々あるが、友梨さんに迷惑がかからないようにしようとの自分なりの配慮である。


「というか、そもそもそこまで整理は必要なさそうだな」


 見た感じ自分の荷物なんてたかが知れている。ワンルームのクソ安い場所に住むくらいの荷物量しかないのだ。

 ゲーム機が整理に必要なくらいで、それ以外は別に放置でもいいくらいだった。


 逆に、友梨さんはガチで大変そうだった。

 てか、荷物量から察するに、ガチでここに住むつもり感凄いんだけど、これってどういうつもりか誰かわかる?


「友梨さん、何か手伝う事あったりしますか?」

「あ、じゃあ化粧品をお手洗いの収納スペースに置いてもらってもいいですか?」

「了解です!」


 早速任務を遂行する。

 ⋯⋯だが、すぐに終わってしまう。


 うーん。

 まずいぞ、あまり催促しても向こうも困ってしまうだけだ。


「そうだ!」


 



「煌星さん、ある程度まで片付けが⋯⋯って、いい匂いがしますね?」

「ジャーン!」


 キッチンまでやってきた友梨さんに、俺はレシピ表を見ながら炒飯を頑張って作ったのだ。

 

 意外と大変だった。

 いつものレシピを見るに、友梨さん大変重労働感満載なんだが。


「あっ! 炒飯ですか! まさか手作りで?」


 勢い良く頷く。

 小腹くらいを埋めるのがデキる男の技というもの。


「えー! ありがとうございます!」


 すぐに割り箸で炒飯を口にする友梨さん。

 食べてる姿もなんて可愛いんだ。


 ⋯⋯なんて思っていると、もう綺麗に食べ終えていた。


「ご馳走様でした! 煌星さん、中々料理が出来るんですね?」

「いや、レシピを見てやっとです」

「それでも凄いよ!」

「えっ、そうですか?」


 あまりストレートに褒めてくる友梨さんに頭を触りながらボソボソ返す。


「料理出来るだけで凄いよ、それじゃ、また整理してくるね!」


 あー可愛いなぁ。



 それから時間が過ぎるのはあっという間だった。気がつけばもう夜の9時。

 

 まぁ初日なのだから1階に降りて外食でも良かったのだが、やっぱり庶民の俺には⋯⋯これしかない。


「はーい! 肉じゃが!」


 広いバルコニーに外用の椅子を設置し、二人の間に肉じゃがの鍋を置く。


「いただきます」


 二人で庶民料理をよそいながら白米と共にいただく。


「んー! 美味いです!」

「本当ぉ?」


 やっぱりイイ感じ!

 友梨さん料理は世界一やぁ!!

 などと本人には言えず、噛み締めながら夜景をチラ見する。


「凄いね⋯⋯あっという間にタワマンステータスゲットじゃん、煌星さん」

「冒険者ってこんなにすごいんですね。ビックリだ」


 口調とかは未だ気まずいままではあるが、お互いなんとなく心の内側を理解しているからか、それ以上ツッコミを入れない。


「あれ、珍しいじゃん。友梨さんがビールなんて」

「折角の祝いだし、こんな綺麗な夜景を見ながら食べて呑むビールは最高でしょ?」


 そう言ってガンガン酒を開ける友梨さん。

 俺は酒を飲まないので、そのままオレンジジュースを片手に綺麗な夜景と、パジャマ姿のえっち友梨さんをおかずにゴクゴク飲みほしていく。


「ふぅ、しっかし⋯⋯」


 聞いていいんだろうか?

 友梨さんに。


「どうしました?」

「いえ、わざわざ毎日居てくれる理由とかあったりするのかなー⋯⋯なんて」

「あぁ。煌星さんと一緒にいると、安心して毎日が楽しいんです」


 ⋯⋯え? それはプロポーズでは?


「ま、まぁ! あとは見てて危なっかしい所とか、他にも色々理由はあるんですけど」

「そうなんですね! 自分も男ですし、何か理由があったのなら⋯⋯早く言って貰えれば叶えられるかなと思って聞いてみたんです」


 そう。こんな贅沢な生活もいつまでも続くわけではないのも理解しているからこそ、友梨さんの理由も知っておきたかったんだけど、中々言ってくれなさそうだな。

 

 ⋯⋯まぁ、この関係も悪くないから俺も中々言い出しづらいし。


「おかわりいります?」

「あ、ありがとうございます」


 エモい曲でも掛けながらこの夜景をおかずに肉じゃが食いてぇー。



***



 夜の風に吹かれ、茶髪のミディアムヘアーが靡く。


 時間のせいで詳しい色までは分からないが、何らかのモンスターから取った毛皮のローブを身に纏い、その内側には白銀のレイピアを腰に携帯させる一人の姿が夜のタワーに映った。


「あれが⋯⋯」


 呟くその声は高く、恐らく女のものだろう。


 ──だが、その声色は怒りが込められている。


「次のターゲットはあのいかにもクズそうな男だな」


 タワーの上で見下ろす一人の目線の先にいるのは、バルコニーで楽しく食事をしている煌星の姿だった。


「この悪人め! 私が成敗してくれる」


 その一人の目には、カウントのようなモノが映し出されていた。


『椎蘭志遠:殺害カウント19482』


「ふんッ! あんな普通の顔をしておいて、なんと極悪非道な男だ!」


 どんなに善行な人間のふりをしておいても無駄だぞ!

 私のスキル、〈正義の眼光〉は誤魔化せない。


 極悪非道な男め! 

 一体どれだけの悪行を積んできたんだ!?


 19000なんて見たことないぞ!?

 歴代の中でも最も酷い人間の一人だろう。

 この私、正義の審判が神の裁きを与え、お前を殺してやる!

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