3話:英雄
次の日。俺と友梨さんはいつものように日常を過ごしていた。
別に何も変わり映えのない1日。
起きたら友梨さんとご飯を食べ、ゲームをし、夕御飯を食べ。
まぁ、大方誰でも予想できてしまうそんな一日だ。
そんな俺だったが、やはり変わったのは⋯⋯友梨さんが就寝したあとの話だった。
「ストアと色々見たいのがあるんだよなぁ」
そう。まぁ変な話にはなるが、ある意味黄金くんよりもチートでバグでしかないこのストアには、大量のあってはならない代物がいっぱい並んでいるのだ。
⋯⋯まさに禁書だ。
例えば。
「うわ、前チラッと気になった呂布の動画付き書籍だ」
俺は今極真空手は使えるものの、他の要素が貧弱だ。もし俺目当ての襲撃なんかが訪れた場合、最悪三神さんが生贄になってしまうなんて最低最悪極悪非道な事をする羽目になる。
とりあえず俺は槍が一番向いているらしいし、呂布のこれもヤバそうだけど、槍系がイイよなぁ。
俺はそれから色々ページを見漁る。
すると⋯⋯。
へっ?
思わず目を逸らしたくなってくる。
そこにあったリストの中には、『オーディン様が直々に教える!ヴァルハラ式槍術とその応用』と書かれたページを発見してしまった。
思わず二度見。
うん、本物や。
どう考えても本人や。
「しかも⋯⋯たっか!!」
漏れでる声を抑え、額面を確認する。
そこにはレンタル一回二億コインとか書かれている。
二億⋯⋯!? 正気の沙汰ではない。
あんたら神話の世界の人やろ!?
そんな何千年掛けて作った物をたかが一回借りた所で理解できるかぁっ!
イジメもいいところや!ボッタクリとまでは行かないが、一回二億は高すぎやろ!
⋯⋯まぁ冷静に考えたら、こんな偉大な神様の技なんだからそりゃそうか。
「仕方ない──買うか」
確かに他のも買おうとはしたんだけど、やっぱりオーディンというこの字面に叶う信用性が他にはなかったのだ。⋯⋯買うしかない。
ピロン。
[オーディン様の著書をレンタルしました]
[VIPの特典が効力を発揮します]
おぉ、なんか発動した。
まぁあとで確認してみよう。
[拡張機能でオーディン様著書の動画を確認いたしますか?]
何それ? 拡張機能?まぁ使ってみるか。
イエスを押すと、自分の視界は暗転し、次に目覚めた時には⋯⋯視界は全く別の場所へと移動していた。
「うへぇ⋯⋯何処だここ?」
周りを見渡すも、どこもかしこも荒野。
どこまでも広がるここで一体何が起きるというのだろうか?
⋯⋯などと思っていると。
遠くから金属質の甲高い音が何重にも重なってこちらへと歩いてくる音がする。
「うえ?」
音の方へ振り向くと、見渡す限り古の時代にいるような兵士たちがこちらへ向かってきていた。
俺は突然の状況に理解不能で、呆然と目をぱちくりさせる。
「⋯⋯どういうことなんだよ」
そしてその最前列。
一番先頭を歩く男がいた。
俺はその男から目をそらせずにいる。
朝日に照らされた輝きを放ち、英雄のような覇気を感じた。
長い金髪が風に靡き、男の鮮やかな青い瞳はこちらを見つめ、未来に託すような眼光を放っている。
ある程度のところで並ぶと、彼の背後にいる兵士たちが整然と並ぶ。
『受講生は君か』
⋯⋯え? めちゃくちゃ俺を視認しているんですけど!?
目の前に立つ男は、俺を見下ろすと一言そう言った。
「え、あ、はい⋯⋯」
『人間、名前を何と言う』
「煌星です」
『コウセイか。良いだろう。コインでレンタルしたようだな、さぞ高名な"次元"からやってきたのだな』
ん? なんの話だ?
だが、ひとまず話を合わせないと。
『たまたまあったのでレンタルしてみたんです」
「ほう!そうか! 余の槍術をたまたまあったからと申すか!』
やべ、なんか地雷踏んじゃった?
『まぁ良いだろう、余の名はオーディン。今から教えるのは、余が作り上げたヴァルハラ式槍術である』
やべぇ、やべぇって!! まじで!?
マジで神話の人物が目の前で普通に話してるよ!?
「はい!是非よろしくお願いします」
『うむ、良い心掛けだ。まずは、ココからだ』
そう言ってオーディンは目を指す。
『コウセイの瞳はまだまだ詠むには足りていないものが多い。まずは見よ』
天が鳴き、黄金の陽射し。
一回の雷鳴と共に──一本の槍が降臨する。
ドンンッ──。
『余が見本を見せよう。コウセイ、しかと目に焼き付けるが良い』
グングニル。
オーディンの持つ最強の槍で有名だ。
グングニルを手にしたオーディンが目配せすると、兵士たちが一斉に離れた所から矢を放った。
⋯⋯え? マジで?
放つ矢は通常のそれではなく、明らかに殺傷性が上がっており、もしも一歩間違いがあれば⋯⋯死にかねない。
そんな殺傷性を持つ矢が──俺と、オーディン様の視界の全てを奪った。
数なんて数えている場合でない。
一発でも当たればどうする事も───
その時、オーディンは微動だにする事なく、槍を構えた。
同時、まるでカラーバットでも持ったかのように降ってくる矢を槍で全て弾き返す。
カラン、カラン。
『コウセイ、まずはこれからだ』
当たり前のようにそう言うオーディンに、俺は屍のような脱力状態でその光景を眺める。
うん、無理だろ。
コツもクソもない。
「あ、あの⋯⋯これ、どうなんでしょう?」
『こういうのはやってみるしかないものだ。ほれ』
俺は直接、英雄の手ほどきとかいう地獄にまさか死ぬほど付き合わされるとはこの時、全く思っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます