44話:ウォーヒューの家族
「コウセイ!!」
「最強の人間が現れたぞ!」
「え!? なになに!? どうした!?」
突然始まるコウセイコール。
俺は訳もわからずその謎の団結力についていけずにとりあえず聞いているしかなかった。
「魔石をくれるなんて、人間は優しい!」
「コウセイは凄い人間だ!」
突然そうやって俺を急に持ち上げだすアスラ一族を筆頭としたその場にいるウォーヒュー。
「な、何が起こっているんですか?」
「かつての人間の価値観で言うならば、食料やお金と言った生存に必要なモノをくれると言ったんきぃよ? 私達は弱小村の一つで、食料はこの私の息子であるアスラが取って来てくれるモノと、成長させた植物で私達は生きてるきぃさ。しかも成長させたりするのもタダではない。
そんな中で、わざわざ魔石をくれるだなんて申し出てくれるということは、我らにとってとても有り難い事きぃなのさ」
そうか。強度が上がれば戦闘に活かせるけど、上がらなければただの雑魚のままであるということか。
⋯⋯それを無償で俺はやろうとしている。
なるほど、歓迎ムードはこのせいか。
「駄目な魔石とかあるんですかね?」
「駄目な魔石? ないきぃよ。魔石は魔石きぃから」
とりあえずストアを開いて⋯⋯
ストアには魔石も当然売っていた。
ソートの感じから見るに、等級はFからSSS。
一旦夢を見ようとSSSを見てみたが、笑えない額だった。何兆の域に達していてものの数秒でとりあえず考えるのをやめた。
まぁそれだけ効果があるのだとすぐ理解もする。
F級は大体相場100から品質が良いので1000コインから一万の間くらいのズレがある。極小魔石みたいなものだからか、中々種類豊富な魔石揃いで⋯⋯選ぶのも一苦労だ。
[ゴブリンの魔石:F等級を購入しました]
[ホブゴブリンの魔石:F+等級を購入しました]
この村にいる数は大体見る限り200から300だと仮定して、F級とF+級で差があるのかを確認したい。
⋯⋯その為にも、まずは食べてもらう必要がある。
俺はインベントリからF級魔石を大量に呼び出し、ウォーヒューの前に並べる。
「おぉぉぉ⋯⋯」
思わず見ていたウォーヒューのみんなも嬉しそうに心からの声が漏れ出ている。
やっぱり魔石は特別なんだと反応を見て俺は納得した。
こんなF級魔石でここまで盛り上がるくらいなんだから、相当困窮していたんだろう。
「とりあえず俺が持っている魔石の一部です。俺にはどこまで変化があるのかがわからないので、まずは誰か試してもらえれば有り難いです!」
一瞬ウォーヒューたち同士で顔を見合わせるが、すぐにアスラの兄弟の一人が嬉しそうに手を上げた。
「俺やるきぃ! 人間のお兄ちゃんが悪い人じゃないのはわかるきぃ、何かあってもそれは何かあったんだきぃからやってみる!」
少年の名はアスラの兄弟の末っ子、ラマン。
アスラは人間に見た目を変えれば、とてもイケメンで人気も間違えなく出るんだろうと予想できるが、ラマンは普段からご飯があまり食えていないのか、やせ細って弱々しい。
一応アスラはこの村で唯一と言っていいくらいの成果と実力を持ち合わせているのもあり、優先的に食事や住居などを用意できているが、あくまで個人という話だそうだ。
他の兄弟、勿論村長であるアルカも例外ではない。
「お前がいいと言うというなら、任せるきぃ、やりなさい」
ラマンは俺の所へ駆け足でやっと来て、そのまま魔石の一つを渡す。
どうするのかと観察していると、当たり前のようにそのまま口にポイッと一口。
「ちょっ! 大丈夫なの!?」
魔石自体は触ったことがあるからなんとなくわかるが、とても噛み砕いたりましてや食べるなんて難しいくらいのものだったが。
「ん? 魔石はこう食べるきぃ」
「そ、そうなんだ。なんかごめんよ」
あまりに平然とそう言われ、俺も咄嗟にそう謝罪の言葉を言う。
バリバリいってる。
日本じゃこんな光景は何処へ行ってもまず見かけないだろう。
なんかとんでもない光景を目にしているぞ⋯⋯これは。
そのまま食べ終わると「美味しかったきぃ!」と言ってそのままポカンと俺の顔を見たまま。
「美味しかった?」
「うん! お腹も膨れた!」
どうやら食事の一環にもなるみたいだ。
⋯⋯魔石って魔物にとったら本当に凄い万能物なんだなと再確認。
「どこか変わったところはない? 例えば元気になったとか」
ラマンは俺にそう言われ、すぐに近くにあった大木に拳をぶつけた。
「あっ! 少し力が強くなったきぃ!お兄ちゃんのおかげだきぃ!」
少年のようにまっすぐで爽やかな笑みを向けられ、俺も思わずはにかんで笑みを返す。
「そっか、じゃあ⋯⋯」
俺は言葉を溜めるに溜め、目の前に大量の魔石を出しては1人ずつに魔石を配った。
ラマンだけではなく、その場にいたウォーヒューのほとんどが俺に対して頭を下げた。
この村では魔石を取れる=金を稼いでくる、または昔で言う獲物を狩ってくる(食料を取れる)と同義な為、俺は炊き出しをやっている人みたいな立ち位置になったのだ。
そして、分かりやすく、メスのウォーヒューの鋭い眼光が既に俺に向き始めているのを感じ始めていた。
さすがに引きこもりでもこればっかりは理解できるぞこれは。
女は昔から何かを察する天才だと教わった気がするが、早すぎだろ。
友梨さんも何か俺から感じたのだろうか。
そうだとしたら切ない&黄金くんに感謝せなばならない。
⋯⋯世の中所詮カネと権力なのだ。
どんなに教養があろうと何があろうと大きなその力には一切届かないのだ。
綺麗事では解決しない。
最近は慣れてきて友梨さんといい距離感で話せ始めてきているが、いかんせん美人というのもあり⋯⋯色々困っている。
はぁ、時代が違えばこんなこと気にしなくてもいいのに。なんてウォーヒューの女性たちを見ながら俺はそんな邪な事を浮かべて対応した。
「とりあえず届きましたか?」
勿論、とウォーヒューの全員が片手を上げて返事を返してくる。
「それでは、これから俺が滞在している間は皆さんに友好の証としてこの魔石を毎食皆さんに渡していきたいと思いますので、よかったらまた集まりましょう!」
「こりゃ凄いきぃ!」
「なんて男きぃ、コウセイ」
「ありがとうきぃよー!!」
ウォーヒューから感謝の言葉が次から次へと溢れ出る。コウセイはその声を聞きながら村長であるアルカの方へ向かう。
「村長!」
「コウセイきぃ、どうしたんだきぃ?」
俺は近くによっていいか尋ね、静かに耳打ちする。
「私は魔石は持っていますが、戦闘方法についてはからっきしです。良ければオドについてもっと説明が欲しいのです。出来ればその清浄の方法も」
「⋯⋯んん」
反応からしてかなりきつそうだ。
「なので、魔石を村長に多く渡すという取り決めで私に教えていただけませんか? この魔石なら村長もご納得頂けるかと」
そう言って女性たちの対応している間に密かに購入していたE+級魔石をアルカにだけ見えるように胸の内を少し開いて見せる。
「⋯⋯っ」
よし、効いてる。
さすがの村長も良い反応だ。
「お願いします。魔石は今まで通り渡しますし、必要ならばもっと用意します」
「もしやそんなにあるきぃ?」
「ええ、たまたまとっておいたので」
静かな時間がしばらく訪れ、アルカは静かに俺の提案を飲んでくれた。
「すみません、どうしてもオドが知りたくて」
「いいや、オドが知りたたいのは誰もが一緒きぃ。ただ、今までにそれらしい取り引きを求められたことがなかったきぃ」
「満足行くようにしっかり用意しますね」
「今日はまだ居るきぃな?」
「⋯⋯ええ」
「あとで個人的に指導するきぃ。ひとまず私達の家で過ごすといい。ここまでやられては、私ももてなさなければなるまいきぃ」
いいねぇ、アルカの表情が完全に若返ってるよ。
とりあえず俺はこの村で唯一オドについて知っている一家と友好関係をとることに成功したのだった。
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