45話:ナニカの痕跡
それから数時間が経過した。
今までに起こった数時間は割愛するが、実に良い時間を過ごさせてもらった。
村人たちと仲良く情報交換。
女性のウォーヒューたちには色仕掛けをくらい、沢山の自分という自分がぶっ壊れそうになった。
魔物じゃん?
そう思ったんだけど、見た目がまんま人間で、ちょっと色が違うくらい。
服装のせいもあるけど魔物とは思えないくらいすべてが人間で、友梨さんを浮かべながら必死に耐えきった事は褒めて頂きたい。
女性にはわからないかもしれないが、男は視覚的興奮の生き物である。
だから男は単細胞なのだと言われる所以ではあるが、そういう生き物です。
⋯⋯許してください。
そして夕方まではウォーヒューの村巡りと挨拶回り。
あくまで再使用にかかる時間が表記されていたということは、出るまで問題なさそうだと判断した。
今の内にできる事はやっておこうと俺はまだしばらく滞在するつもりだ。
もしかしたらここで一気に成長する可能性は大いにあるし。
⋯⋯ここで彼らについて分かった事を一通り以下にまとめてみた。
・食事は基本何でも食べる
(選べる余裕がないから。基本アスラが成長させる植物系統の食事がほぼで、今日みたいに大型の魔物を狩ってくることがほとんどないらしい)
・魔石は食事と身体強化に使われる
(詳しい話は分からないが、アルカが何かを知っているのではないかと踏んでいる)
・オドというものは存在しているが、使える者は村長やアスラを含めた僅か数人。
(教えないのは争いを防ぐためでもあり、メリットがないから)
・アルカたちの話を聞く限り、ここはダンジョンというには広すぎること
(これも何か塔とやらのせいなのかと踏んでいる)
・あくまでもアスラたちは弱小村の一員であり、他の勢力もあること
(これは要注意だ)
⋯⋯ひとまずこんなところだ。
そして待ち合わせている村からだいぶ離れた森の中、おそらくアルカたちにしか知らないであろうちょっとした岩を使った椅子やらなんやらがある場所で俺は一足先に来てアルカを待っていた。
「すげぇな、魔物が一体も湧かない」
なんかの力が働いているのかは不明だが、まだ一度も気配探知に魔物は引っかからない。
ストアを見たい気持ちはあるけど誰がどこで何を見ているかすらわからない場所で、そんな不自然な行動をするわけにはいかず、かなり退屈しながら待っていた。
それから30分も経たない内に、気配探知に一人の動く感覚が入り込む。
「待たせたきぃな」
「いえ、わざわざこうして時間取らせてしまってむしろ申し訳ない気持ちでいっぱいです」
見た目はかなり50代半ばくらいだが、魔物な為、本当のところは何なのかは分からない。
──だがそれも、今から全て分かるだろう。
「ではもう一度自己紹介から始めるきぃ。儂の名はアルカ。大先祖様たちから続く⋯⋯このオドの心法を現継承者アルカが授ける」
アルカの表情を察するに、ただの言葉だけではないようだ。
歴史がしっかりとあり、代々それを継いできた重み。
「なぜ儂が戦いに身を投じないか分かるきぃ?」
「分かりません」
「正直な人間だきぃな。儂のこの心法は⋯⋯」
その時。一瞬だったが、目の前の男の後ろ姿が若かりし頃であろうアルカの姿と重なった。
過去と現実のアルカが同時に巨大な壁に向かって軽い掌底を放つ姿。
──威力は言うまでもない。
目の前の壁はアルカが放った掌底と同じ形で抉られていた。
まるで巨大な手が壁をめり込んだようだった。俺はあまりに強い一撃に言葉を失い、ただその光景を眺める。
「何故、これだけの実力がありながら」
「正式継承者である儂のみが、この心法の口訣を聞かされているきぃ」
"真のツワモノ、血路を求めず、既に己に託されたる福祉の深淵に疼いて、悟りを開くことを旨とすべし"
「これが儂が聞いた口訣であり、全継承者が聞いた言葉きぃ」
「言葉が小難しいというか」
「そうきぃな。分かりやすく言えば、真に強いものは直接的な戦いや争いは避け、すでに自分が持っている幸せや恵みに気づくこと、それを深く理解する事が大切と言う意味だと全継承者から聞いたきぃ」
⋯⋯いや深っ!!
ちょっとした言葉なんかと思ったら一千万倍深い言葉過ぎて。
「では⋯⋯」
「離れる前は、儂を含めた一族と複数の一族によって争いが起きていたきぃ。まぁ言うても儂が正式継承者として間違った事を是としないためきぃが。
だから黙って虐げられるのを耐えきぃが⋯⋯それも限界じゃったきぃ」
なんかきぃの使い方へんじゃね?
「こうして数年離れて過ごしていたきぃ。彼らは未だに儂の言うてることがわからず、侵略していること間違いないきぃ。それでは本物にはなれないきぃ」
アルカはこちらを見つめ、瞳で訴えかけてくる。
「オドは万物に影響をもたらす。全ては一つの点につながる。これからコウセイに継承するきぃ、これは前継承者である儂からの言葉きぃ。覚えておくきぃ」
俺は素直に頭を下げてアルカに教えを乞う。
「座るきぃ」
***
俺の修行が始まった。
時間はかなり掛かったが、朝日が登る前にはなんとか。
「オドを感じるきぃ?」
「始める前とは雲泥の差がありますね」
体中を巡る暖かくて穏やかな流れるモノこそがオド。
「はい」
「凄いきぃ、今まで様々な同胞を見てきたきぃけど、たったこれだけの時間でオドを感じれるなんて才能あるきぃ」
そう言われるとだいぶ嬉しいな。
「これ、なんか頭が真っ白になる感覚があるんですけど、どうですか?」
「んん?そんなはずはないはずきぃけど⋯⋯」
なんか頭がヘンだな。
頭に異物があるみたいに。
その瞬間、何かが頭の中で流れる。
『⋯⋯⋯⋯だから』
『⋯⋯たんだ、⋯⋯って!』
会話? 誰かがめちゃくちゃキレている声が聞こえる。
「コウセイ! どうしたんだきぃ!?」
『どうか、ここに我らが供物を捧げます。だからどうか⋯⋯※※※※※様』
まるで誰かの体に入って体験しているみたいだ。誰だろう。
「コウセイ! コウセイ!! オドがここまで浸透するとは⋯⋯人間で初めてみたきぃ!」
⋯⋯ジジ。
ノイズ音が無くなると、完全に視界は自分のものではなく、誰か別の者になっていた。
誰だ?
『※※※※ス様、どうか我が一族を救ってくださいませ!!この通りです』
『我がワーウルフも同様です!どうかっ!』
目の前には平伏すらしている魔物たちが数万といる。
視界の人は足を組み、両手は腕掛けに。
地面に顔面を打ち付ける数万の魔物を上から眺めている。
『⋯⋯お前達は何を求めているのだ』
『神の導きでございます』
『神だと?』
『貴方様がこの""アビロニア""に君臨される神であられます!!』
一人の言葉でそれが全体へと広まっていく。
⋯⋯まるで津波に起きる悲鳴のように。
『うおおおおお!』
『我々の神だァァァ!!』
地鳴りより騒がしいこの場で、視界の男はこう呟いた。
⋯⋯くだらん。何が神だ。
そんなモノはいない。
『あの忌まわしき人間を滅ぼしていただけたのも、神の御力があってこそ!』
何を言う。
私が少し声を掛けて勝手に侵略してきたから全滅させただけだ。
私はただ自分の場所を守っただけだ。
『これでこの世界は──』
ズドン、と⋯⋯喋る男はそれ以降口を開くことはなく、緑色の血を噴き出し前へと倒れた。
全員が倒れた男に視線が向き、その次。
男の頭部が地面に刺さった黄金の槍に視線が集中した。
『くだらん』
くだらん、くだらん。
口を開けばアイツをどうにかしろ。
コイツを敵からとなんとも喋る豚が。
一瞬で視界の者が腕掛けから僅かばかり指を動かす。
途端にあちこちで賛美歌が流れるように悲鳴が周囲全てに広がっていく。
『きゃー!!!!』
『お止めください!!※※※※ス様』
『いやァァァァ!!!』
目の前はカオス。
天からは黄金の剣や矢、槍が幾万も降り注ぐ。
⋯⋯勿論この視界の者には1本たりとも堕ちては来ない。
『さて、これで何回目だ』
私が何度も感じ、見た
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