43話:別世界
「うわー!凄い、人間きぃ!」
「人間だきぃ!」
「初めてみたきぃ!」
気まず! 俺、なんにもしていないこの人たちを殺そうとしてたんだよな。
すげぇ申し訳ない気持ちだ。
俺は今、この明らかに強そうなウォーヒューという種族の背中に張り付いて彼らの住居にやって来た。
キョロキョロしながら周りを見つめる。
100以上はゆうに⋯⋯なんて言っていた正体は、家族を含めた非戦闘員たちがどうやら固まって過ごしていたらしい。
服装は原始時代っぽい格好だ。
モンスターの毛皮をはいでそれを使った服装。
頭の悪い俺はそれくらいしか言葉が見つからない。
それの他に焚火の箇所がいくつかあり、妙な事に⋯⋯技術的にオカシイテントらしきモノが置いてある。
「そういえばウォーヒューっていうのは種族の事ですよね?貴方のお名前はあるんですか?」
「勿論だきぃ、俺はアスラだきぃ」
⋯⋯おお、付けた方は中々センスあるじゃないか。
カッコイイ。
「アスラ、ここではどんな生活をしているか聞いてもいいかな?」
なんか気持ち的に複雑で、敬語とタメ口が交互に。
「うん? 確かに気になるのはわかるきぃ。俺も人間がどんな風に生活しているのかは気になるきぃ」
歩いていると、なんとなく他の場所より大きいテントの前に到着した。おそらくアスラはこの村の中ではかなり上の立場だとすぐに予測出来る。
「アスラ、帰ったか⋯⋯そちらの、なんだ?」
「あぁ、人間がいたから村に呼んだきぃ」
「おぉ! 初めて人間をみたきぃよ!」
目の前に現れたのはアスラの父親らしき人物と母親、それから10人以上の小さな子どもたちの姿だった。
それにしても、ウォーヒューはきぃきぃ凄いな⋯⋯。
「俺は名乗ったけど、人間の名前はなんていうきぃ?」
「俺は煌星、結構遠くの場所から来た人間って言えば通じるかな?」
「コウセイ? 面白い名前をしているんだきぃな」
「コウセイ、とりあえずようこそコミの村へ!」
『コミの村へ!』
その場にいた子どもたちが嬉しそうに両手を上げながら俺を歓迎してくれたのだ。
⋯⋯その姿に少し、いやすげぇ罪悪感が湧いた。
さっき衝動的に持っていた剣を振っていれば、俺は一撃でこの笑顔を奪っていたかもしれない。
「ありがとう」
「それじゃまずは、宴でもやろうきぃ!」
「宴?」
「そうだきぃ! コウセイと出会えた事を記念してみんなでご飯を食べるんだきぃ!人間は宴をやらないのきぃ?」
「勿論やるよ、ただ、最近は宴はやらなくなっちゃってたから」
「そうなのかきぃ? 宴は良いものだきぃ」
そもそも俺は誰かと一緒に飯を食うなんて友梨さんくらいだったから、あまり実感がなかった。
「そうだね、久しぶりに宴をやるよ」
バレていないだろうか?
自分の苦手な作り笑い。
人に合わせるのが苦手な自分が、こうして馴染めいるのかが不安だ。
***
それから、俺は2時間以上このウォーヒューの皆と飲んだくれて過ごした。
話を聞くとなかなか面白いことが色々と出てくる。
さすが魔族の代表格だけあって、魔物を倒すと出てくる魔石を食べることによって、彼らは強化されていくらしい。
つまり、彼らは天敵さえいなければ、無限に強くなれる可能性があるのだ。これは驚きだった。
それはおそらく、このダンジョンという世界の中で彼ら以外に襲う生物がいないのだろうと思っていたのだが、どうやらここから数日歩いた先には、別の村があるらしく、そことは代表同士のイザコザでこうして離れて過ごしているのだとか。
しかも、他にも魔物がいるらしい。
ここはダンジョンだろう?
なぜ他にもゴブリン以外の主要生物がいるんだ?
⋯⋯そこに関しては全く俺も聞き出すことはできなかった。
食事は猪の肉や魚をメインに食べていた。
焼くという文明の利器まで身につけており、思わず人間の原始時代はこの人たちだよと言われた思わず信じてしまいそうになる。
──なのだが、戦い方は急にファンタジー。
彼らはオドという魔力とは別の力を使うらしく、余興がてら見せてもらった。
個人的な感想はほぼ魔法に近いのだが、明らかに魔法とは違うというのはなんとなく分かった。
魔法には色んな属性があったからなんとなくこれを使えばこの色というのがわかるけど、オドは全てが黄金に光って、まるで万物を創造しそうな雰囲気が出ているという感じだ。
オドで出来ることは様々らしいが、面白いのは使い方だ。
体が清浄されていけば行くほど、万物に干渉できるようになっていくらしい。
その点はアスラが説明してくれて、アスラのオドはかなり清浄されているらしく、アスラが植物に触れて願うとその植物に成長が促進されて、一気に育つ。
もっとも優れたオドの使用者は水を創り出すことが出来るらしい。
あくまで指標としては、
・魔石とかは肉体の強度を上げるのに使う
・オドは清浄であればあるほど万物の操作が可能になる
ということらしい。
清浄というのは、どうやら瞑想のような体勢で体に流れているオドを綺麗にしていく工程があるらしいのだが、それは極秘らしく、親からも下ろされないらしい。
その一つだけで一族の頂点に立てるというよくあるアレが起こるからだそうだ。
俺としてもしっかりと覚えているのはこのへんで、あとは正直そこまで正確に覚えてはいない。
「人間は魔石を食べないのだろう? どうやって生き残ったのがずっと気にはなっていたんだが⋯⋯」
アスラの父であるアルカは俺にそう好奇心溢れた笑みで、こちらを見てくる。
「一応秘術の類でオドを使って身体強化を行えるんだよね」
「おおっ!我が秘儀とどちらが優れているか気になるなっ!いつか、私とも手合わせ願いたいきぃな!」
話していく度、ここが『ダンジョン』なのかが疑いたい自分が辛い。
この人達にとってはここが世界であって、俺は害虫のようなもの。
勝手にこの世界に介入してしまってもいいんだろうか?
「コウセイは魔石食べないの?」
「あまり食べないんだ、良かったらあげようか?」
まさに煌星なりの気遣いだった。
もしかしたらこの人たちの人生を終わらせていたかもしれないという罪悪感のもと放った一言。
まさにその一言が煌星の立ち位置を急速に押し上げる事になるとは、この時誰も思いもしていなかった。
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