30話:適合

 思わず息が止まりそうになった。

 先程まで、あれほど燃え上がっていた白炎の騎士が──体に大穴を開けて玉座の後ろにある壁に光り輝く弓で射られたかのように突き刺さっていたからだ。


「え、どうなって⋯⋯」


 そう言いかけた俺だったが、すぐにそんな心配をしている場合ではないと気付く。


「ゴホッ、ゴホッ!」


 口からかなりの血が吹き出る。

 膝をついて地面に何回か大きく吐血してようやく落ち着いた。


「⋯⋯マジで死ぬかと思った」


 いや、正確には多分あの弓矢みたいなのを射つやつがいなかったら、多分俺は死んでいた。


 俺はまた壁に射られた騎士を眺めた。


「何がどうなってるんだ」


 自分の背後を見ると、先程まであった壁は全て崩壊している。見えるのは綺麗に見える星空だけ。


「俺以外の何者かがいたってことか?」


 いや、それはない。2日と半日はいたんだ。可能性はそこまで高くないだろう。


「とにかく⋯⋯ポーションで回復しないと」


 こんな時の為にマジックバックは必要なんだな。

 ポーションを一気飲みすると、体の怪我が一気に修復していく。

 

「どうやらかなり質のいいポーションをもらったようだ」


 ほぼ全回復に等しい。

 

「ギルド長達も心配しているだろうし⋯⋯」


 いや待てよ?

 ここで金を生成して持って帰るのはどうだ? いっそそうすれば一気に金儲けできそうじゃないか?

 ⋯⋯1回限りの大チャンス。バレることなく⋯⋯堂々とコレです! と言える唯一の機会。


「ふふん」


 良いじゃないか。そうすれば⋯⋯俺の人生、バラ色に輝くんじゃないか?


 ゲームをして、高級食材を口にして、何でも選べる素晴らしい世界。


「いやー! 俺にもそんな時代が来たかぁ!」


 ⋯⋯っと、ここまで。さっきまで地獄のような戦地みたいなものだったわけだから、あまり浮かれていては──アイツみたいに突然体に大穴があきそうだ。


 リュックを背負って俺はこの部屋の確認を行う。

 確認したがそれらしい道具や物は無く、思わず呆れるほど酷いもんだった。

 だがしかし、俺は肝心な場所だけは置いておいた。


「アイツ、普通のボスやモンスターだったら消えているはずなのに⋯⋯何故かまだ残ってる」


 ゲームプレイヤーが長い俺は、嫌な予感がしてたまらないのだ。

 ⋯⋯こういうのはお約束と言って良い。


「一応聞くが、第二形態なんかはないよな?」


 返ってこないとわかっていつつも、嫌な予感が止まらないので──念の為聞いておく。


「返事は、ないよな。そりゃそうだよな? 返事なんてしたらって⋯⋯俺は独り言が多すぎる。さっさとお前さんを調べて終わりにしよう」


 恐る恐る近づいて、死体?に触れる。

 特に違和感はない。ただの死体。

 ただちょっと頭によぎるのは⋯⋯奴が何故か打たれる前に触ろうとしていたであろう真っ白に燃える大剣が未だに燃え続けている事だ。


「あの大剣、売ったら世界中の冒険者たちが欲しそうだよな」


 実際あの大剣の能力は知らないが、見た目だけでもかなり値が張りそうな一品だ。

 まさにゲームやアニメなんかで出てくるような⋯⋯普通の長さの剣と大剣の間くらいの丁度いい感じの物。

 しかもエフェクトも続いているし。


「あの炎は熱いんだろうか」


 あぁ、いかんいかん。

 そんな興味を持つ前に色々終わらせなければ。


 俺の手先が鎧に触れようとしたその瞬間。

 ──突如目の前に変なウインドウが現れた。

 

["""正体不明"""の未登録生物を確認]

[即時※※※※※に接続します]


 ⋯⋯??

 何それ? いやいや登録生物って⋯⋯俺は人間なんですけど!


 [※※※※※から応答、未登録接続者との適合を進めるよう指示を受けます]


 なになになに!? 勝手に話を進めないで!?

 なんの話をしてるっていうんだい!?


 適合? 俺は人間なんで!


[あなたは※※※※※に選ばれた生命です]

[適合しますか?]


 なんなんだよ⋯⋯突然こんなゲーム画面みたいに出しやがって!


「俺の言葉に反応するのか?」


 反応はない。

 ただ目の前に同じテキストが書かれたウインドウが浮かんでいるまま。


「⋯⋯⋯⋯」


 無言でそのウインドウを俺は見つめた。

 若干イライラしているとはいえ、こんなゲームみたいなウインドウ⋯⋯好奇心が止まらない。


 いやいやいかんだろう。

 何かどう見ても怪しい物だし。


「⋯⋯一旦放置しよう」


 そう踵を返して動いた俺に、ウインドウは振り返った俺の目の前に移動してくる。


[ここで決めてください]


 ⋯⋯やっぱり聞こえてんじゃん。

 そう思った俺のこぼれた言葉は一旦どかす。

 ポリポリ頭をかきながら俺はどうするべきかと考えるが、答えは出ない。


「まぁでも結局こういうのは貰っておいたほうが何かと後が楽なんだよな」


 腹を決めなきゃな。

 美女ときゃっきゃっうふふな生活をする為には──覚悟がいる。


 「ふぅ」と息を整え、俺はウインドウに浮かぶ『はい』選択した。


[はいを選んだ為、適合を始めます]


「なんだ? 適合⋯⋯? 結局適合ってのは一体何なんだよ⋯⋯」


 言い終わる前に俺の全身という全身の感覚が気持ち悪くなる。


 腕に流れている血流の感覚。

 頭の中で動く謎の現象。

 足元を意識すれば活動している血流の感覚が気持ち悪いほど感じ、とても立ってはいられない。


「オエエエ!!」


 ドクン──。

 心臓の鼓動が身体全体に重低音の響きみたいに広がって口から嘔吐する。


「ウッ⋯⋯グッ、無理⋯⋯」


 全部の器官の感覚が気持ち悪いほど蠢き、精神の限界が訪れる。

 もう無理だと思った頃には、俺の視界は暗転していた。

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