29話:肉弾戦
「なんだなんだ」
カッコイイじゃないか。
俺がゲームの運営だったら、この騎士に白光の騎士とか名付けそうだ。
「なんだ? 騎士様だから、対等でなくてはならないってか?」
確かにこっちは死ぬほど助かるけど。
武器のレベル的に⋯⋯あの馬鹿みたいに燃え上がる白い大剣に叶いそうもない。
動く甲冑の音が大きくなっていく。
階段を優雅に降り、俺との距離がそこまで遠くならない所まで来てから進む足を止めた。
なんだ?
ガシャン。
部屋に響いたのは大きな金属音。
奴の腰回りにはまだ短剣や長剣が付いてあり、それを自分の真横へと落としている音だ。
「なんだよ、そこまで対等になりたいのか?」
武器を落としていくと今度は、籠手。
籠手を落として丸見えになった前腕部分をまるで見せびらかすように俺へとひらひら向ける。
騎士の兜からは、首の付け根辺りから後ろ髪が垂れており、髪は長いのだろうとなんとなく感じた。
「あはは、舐めんなよ──騎士様」
冷静さを保つ俺でも⋯⋯たいぶ今のは勘に触った。
「⋯⋯ぶち殺す」
俺の声が聞こえたのか、騎士が一直線に襲い掛かってくる。
その速度はおよそ⋯⋯鎧を着ているとは思えないほど異常な速さだった。
「⋯⋯っ!!」
騎士から放たれるストレートを間一髪で避ける。
いや、間一髪と言っていいか怪しいくらいギリギリで首を横に倒し、万が一を防ぐ為顔を回して避けただけ。
「んグッ⋯⋯!」
見えなかった。
まずい、打撃が見えなかったぞ。
「⋯⋯⋯⋯」
一撃をみせた騎士はその場で動かず、一撃放った腕をゆっくりと静かに戻す。
そしてこちらを見つめる。
「てんめぇ⋯⋯」
兜越し。しかも燃え上がってるとはいえ⋯⋯口元がしっかりと見えたわけじゃない。
しっかりとは見えなかったが、動きに「こんなものか?」とでも言うように嘲笑うような態度が見えた俺は、めちゃくちゃいらいらゲージが跳ね上がる。
「──クソッタレがっ!!」
逆に今度は俺から襲いかかる。
一気に加速した俺は騎士の二歩手前くらいまで距離を縮め、そこで勢い良く踏み込む。
"極真空手──正拳突き"
「⋯⋯!」
凄まじい音が神殿内に響く。
騎士はあえてだろう。
⋯⋯避けることなく一撃を受けた。
──被弾した鎧が壊れる事はない。
しかし騎士は後方へ10m程飛ばされていた。
「クソッタレ、全然効いてねぇじゃねぇか」
流血している拳にポーションをふりかけながら俺は騎士に向けて言い放つ。
「ふんッ!」
治った拳を見つつ、カラのポーションを横へと放り投げて再度前進。
「ハァッ!!」
さすがレベル7のスキル。
こちらのやりたい事と威力が比例している。
勢い良く飛び出して右で蹴ろうとフェイクをかけ本命の左を騎士に浴びせる。
俺のフェイクは騎士に通じて、左回し蹴りがヒットする。
──ガァン!
やっぱり駄目か。
吹っ飛びはする騎士だったが、割れる気配も、騎士の姿から余裕崩れる事はなかった。
「ガントレットも初心者装備だ、一撃で割れるだろうな」
脛を守る防具も特に付けてはいないから、全力って訳にもいかない。だが、半分以上の力で蹴ったってのに、無傷か⋯⋯鎧だから仕方なくはあるが、厄介だ。
「こっちは"初出場初優勝"している立場でしてね。このクソほど負けてしまった奴らの想いは確実に背負っておりましてね」
再度両腕を構える。
「もういっちょ──」
俺が向かおうとした直前、今度は騎士が襲い掛かってくる。やっぱり鎧を着ているやつとは思えないほどだ。
近くまでやってくるなり奴は勢い良く地面蹴って飛び上がる。
そして空中で膝を曲げて俺の顔面を狙ってくる。
「クソッ、早え!」
上体を90度以上は曲げて騎士の蹴りを避け、ここで再度正拳突きの嵐でも御見舞してやろうと思った。
反らした上体を素早く起こして構えを取ろうと整えて騎士を見た瞬間、奴も綺麗すぎる着地をとってすぐにこちらへと視線を向けてくる。
その鋭い⋯⋯兜越しにでも伝わる垣間見えた少量の殺気は、俺をさっさと殺らなくてはという行動に移させるのに⋯⋯時間はかからなかった。
すぐに一歩を踏み出す。
身体を整えている間に騎士の横顔に一撃。斜め後ろへと首が向くくらい全力の一撃をお見舞する事に成功した。
「ハッ、余裕は消えたか──」
だが──。
奴は吹っ飛ぶことなくただ向いたというだけ。
こちらを見てもいないのに、奴は正確に俺の反対の腕を掴んだ。
「⋯⋯っ!」
自分の目がここぞとばかりに大きくなる。
ダメージがまるで通っていないかのように、顔面へと拳が飛んでくる。
──ドンッ!
何かが飛んでくるということをなんとなく予測していた俺は、片腕でガードしようと咄嗟に上げたが無意味も同然。
「ゴホッ!!」
奴の一撃は俺のガードを外して直撃。そのまま宙に浮く。
「うっ⋯⋯!」
早すぎる一連の流れに驚いている俺だったが、その驚きはすぐに痛みに変わる。
「あれ?」
一瞬自分の視界から奴の姿が消えたのだ。
まずい、こんなマジの戦いの時に消えるなんて。
消えた一瞬、騎士はどうやら下に潜り込んで、力を溜め、俺の横顔を狙って蹴り上げた。
──ドォン!
吹っ飛び、埋まった壁からパラパラと破片と共にこぼれ落ちて地面に伏した。
かなりの距離を飛んで壁にぶつかった⋯⋯痛みで起き上がるのに時間がかかる。
「ぐっ⋯⋯!」
顔面に見事に一撃貰ったせいで耳鳴りと目眩が俺を襲った。視界はおぼろげだし、耳鳴りで奴がどこにいるのか鎧の音が判別できずに俺は震える子鹿のようにその場で立ち上がろうとする。
「おいおい、マジで死ぬところだったぞ」
多分ステータスカードなんて通してなかったら⋯⋯今ので死んでたぞ?
本当に冒険者ってのは──人体を超常の存在にしたんだな。
5回以上は首を全力で振って耳鳴りと、朧気な視界をなんとか戻す。
「ははは⋯⋯」
そう呆れたように空笑いを漏らす俺。
ハッキリとし始めた俺の視線の先には、燃え上がる白炎の純白騎士様がカシャンカシャンと音を立て、歴戦の戦士のような覇気で拳を握りながら向かってきているのが見えたからだ。
一瞬、諦めようと頭の中で声が聞こえた気がした。
今戦ったから分かるだろう?と。
ヤツとは次元が違うのだ。
お前が勝てる存在ではない⋯⋯と。
「あーうっせぇ!!」
泣き言言うな俺様よ。
なんの為に冒険者になったと思ってる。
金を楽に稼いで、この世の全てを選択出来るようにする為だろ。
だがこれは必要事項だろう。
これを突破してようやく本格的な金儲けができるってもんだ。
「ここで大量の金が見つかりましたとか言えば⋯⋯この代償が報われるってもんだぜ」
自分が苦し紛れを言ってるのは百も承知だ。
だが、勝つには「気合い」が大事だと言ってる意味がようやく理解できた。
自分の両頬が釣り上がるのを感じた。
両目を凝らせと。
全力で見開いて立ち上がり、両足に力を込める。
「レッツ根性⋯⋯!!」
勝てば二重の意味で金が貰えるぞ。
一生分のな!!
そして俺と騎士──双方が走り出し、更に激しい肉弾戦が始まった。
激しい殴り合いをしている中、奴は俺の攻撃を避ける事を一切しなかった。
身体で俺の一撃を貰いながら迎え打ち、俺は極真で鍛え上げた身体で⋯⋯文字通り気合いと根性で奴の拳を受ける。
正真正銘の馬鹿げた行為。
だが俺にはそんな事どうでも良かった。
このなめ腐った騎士様がウザったくてしょうがなかった。絶対に負けてたまるかと俺は必死に耐え、そして一撃をお見舞いする。
⋯⋯そんな戦いが5分近く行われた。
「ハァ、ハァ」
「⋯⋯⋯⋯」
バカタレが。
なんの為に習ったと思ってるんだアホタレが⋯⋯!
『お前も強くなれよ』
「あの人みたいに⋯⋯不動の強さが欲しかったからだろ」
戦いの末、結局俺は一撃を貰った直後──くの字に曲がって壁に打ち付けられ、起き上がれず、跪いていた。
「ハァ、ハァ⋯⋯戦え」
クソッタレが。
「戦え、まだ動くぞ⋯⋯俺の身体」
そうだ。死ぬくらいなら⋯⋯こうしてた方がマシだ。
ドクン──。
「まだやれるぞ、騎士様。どうだ? 善良な人間をボコす気分は」
ドクン、ドクン。
「やばいな、本格的に死が近づいているぞ」
心臓の音がうるさい。
高血圧で先に死にそうだ。
過呼吸気味になる自分の体を見ながらも、俺は尚騎士様を睨み付けた。
こういうのは根を上げた方の負けだ。
「⋯⋯⋯⋯」
なんだ? コイツ俺をそんなじっと見つめて⋯⋯何がしたい?
「おいおい騎士さ──ッ」
⋯⋯ソレは間違いなく本能だった。
ナニカが遠くから迫ってくるのを感じて、俺は身を伏せた。
嫌な予感がしたとほぼ同時に身を伏せた。その結果、激しい轟音と共に、何かが壊れる音が神殿中で鳴り響いた。
小中学生の時に行った防災訓練のように頭を両手で守る事数十秒。
ようやく音がおさまりきったのを確かめてから俺は体を起こす。
「⋯⋯え」
そこには──予想外の光景が俺の目に焼き付いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます