27話:加速し始める化物スキル

 刺さる槍を抜く。

 煌星の力強い一撃の元に刺さった破片が槍に触れ、冷たく清潔な短い音が耳に入って来る。


「なんだこのスキル、強すぎない?」


 たった今使ったばかりだというのに、異様なまでにその強さが発揮されてんじゃん。

 スキルってそんな凄いものなのか。


「もうこれで家に戻ったあとに槍の勉強はいらないかな」


 ⋯⋯それは調子に乗ったかもしれない。

 ちゃんと勉強しないと。


「さて魔石を拾おう」


 一応マジックバックには、容量ギリギリまで魔石を入れる予定だった。この際だ⋯⋯熟練度とレベルを同時にゆっくりでも、少しずつ上げていく時間だと思っていこう。


 魔石を拾っていく。

 散らばった魔石を拾い終えるのに10分はかかった。

 ここまで多いとアシスタントが欲しくなってくる。

 中々しんどい。

 

 溜息と共に俺はマジックバックに魔石を詰め終わると、ステータスカードを取り出す。


「ん?」


 俺は思わずステータスカードを3度見くらいした。

 "レベルが全く上がっていないのだ"


 全く理解できない。

 通常レベルというのは、モンスターを倒した時に発生すると教本に書かれていたはず。

 どんな生産職や高等職と呼ばれるモノでもレベルという概念は変化しないはず。


「ランサーのレベル値が異様に高いとか?」


 いやそれはないな。だったら世にいるSS冒険者は何なんだって話だ。


「現時点で考えられる可能性は2つ」


・ユニークダンジョンだからレベルではない何かが発生している可能性。

・そもそもこのダンジョン自体が経験値を発生させていない


 違うのは別の事象が起きている起きていないかの違いだけ。モンスターはついでで、報酬やその道中に隠された秘宝なんかが付いているために経験値がついていない可能性もあるだろう。


「⋯⋯⋯⋯」


 前言撤回。

 おそらく経験値が発生していない可能性が最も高い。

 前回からレベルが上がっていないのだから発生していない可能性が最も高そうだ。


「さて、それでは黄金くんの方は⋯⋯っと」


───

《黄金操作》熟練度23.6%

└生成した金を操作する事ができる。

・熟練度の差によって操作出来る事が変わる。


─熟練度一覧─

〈形状操作(可塑性)〉5.6%

〈硬度操作〉10.6%

〈堅牢操作(剛性)〉16.4%

〈強度操作〉30.1%

〈延性操作〉6.2%

───


「んん!?」


 なんか小難しい言葉が増えてる⋯⋯。

 やっべ、正確な意味を知らねぇ。

 硬度操作は、硬いでいいだろ?

 形状操作はそのままで、堅牢⋯⋯剛性⋯⋯?なんやそれ。

 強度と硬度の違いがあんまわからん。

 駄目だ、俺が馬鹿過ぎて有効活用できなさそうだわ。


「しっかし、なんで俺はこれを活かせているんだ? これだけ数値が伸びてるってことは⋯⋯それだけ使用しているからだと思うんだけど」


 俺は考える。

 自称天才(笑)の俺はいくつか思い当たるのが通常の流れなのだが、全く何も思い付かない。


「駄目だ考えても仕方ない」


 諦めだ。

 とりあえず一つ分かったことは、この金を操作するという能力に⋯⋯熟練度が上がることによって何か法則を無視する力を付与する事ができるって事だろ?要は。


「どう見ても化物じゃねぇか。俺がプレイヤーの一人なら絶叫モンだな」


 まぁ、有り難いことに? ここはリアル生活でございまして、精一杯イキらせてもらいます。

 綺麗事はあとあと。


「だが、こんなに値が上がるには理由があると思うんだよなぁー」


 とりあえず拾い終わったし、一旦飯を食いますか。

 以前と同じ光景な為、飯を食った場所を見つけるのは苦ではなかった。

 それから1時間近く⋯⋯俺はクソみたいな墓場をおかずに卵焼き弁当を口にする。


「うんめぇ、これでいい女か爽やかイケメンが盛り上げてくれたら最高に勇者って感じがしていいんだけどな」


 現実的にそんな事は無理なのは重々分かっているのだ。

 理想くらい吐かせてくれ。


 ちなみにだが、飯はおそらく一ヶ月以上は耐えられるようにマジックバックに詰めているから、問題はない。

 弁当が100個以上詰められている。

 これもギルド長の計らいで、こういう事態を想定して大量の弁当や飲料水などを詰め込むのが基本らしい。


 「さて、食べ終わったけど」


 先に進むのが正解なのか⋯⋯凄く迷うところではある。

 可能性が限りなく高いと言っても、レベル5でこの墓場ダンジョンを切り抜けることができるのだろうか?


 確かにさっきの槍術であれば色々行けそうなのはなんとなく予想はつく。しかしだ。 

 ファンタジー要素が加わっているのだ。

 いくらこっちが超常の力を手に入れたところで、相手もファンタジーなのだ。


 あのキラーラビットに太刀打ちできたとて、次のモンスターも同じようにいくとは限らないのが普通だろう。

 同じように行くのならダンジョンの意味がないだろうしな。


「あ、お菓子食べよ」


 懐からバットカットというチョコを口に放り込む。

 やっぱり砂糖は偉大である。

 

「んー」


 チョコを転がしながら⋯⋯俺なりに色々考えてみる。

 ここには頭のいい奴が自称天才(笑)の俺しかいないのだから。


 考えること数分。 

 やっぱり俺の中で先に進む事を嫌がっていると感じている。


「この槍術が使える今なら、キラーラビットを大量殺戮することも可能だろう」


 てことはとりあえず──当分の目標は決定だな。


 俺は槍を持って食事エリアから降りてさっきの場所まで戻る。


「先に進みたいのは山々だが、ひとまず殺し尽くすしかないな」


 なぜレベルが上がらないかも不明だ。

 大量にやっつけてレベルが上がらないなんてあり得ないだろう。発生していない前提なら──この先まずい。


「さて、行こうか」


 握り締める俺の目線の先には⋯⋯大量のキラーラビットがこちらに気付いて向かってきていた。

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