26話:デジャブ
「では、行きましょう」
俺はそう意気込む日野さん、小暮さんと共にダンジョンの入り口を開ける。
「それじゃ⋯⋯」
全員の足がダンジョン領域に踏み込んだ瞬間──ビリビリと入口に火花が大量に散る。
突然のことに意味が分からなくなった俺達は戻ろうとしたのだが⋯⋯上手くは行かず、結局ダンジョンへと入ることになった。
「⋯⋯はぁ」
やっぱりここ、ユニークなんじゃねぇの?
うん、やっぱりなんか条件があるんだよ──きっと。
「あれ?」
隣に居た二人に「やっぱりね?」と聞こうと顔を向けると──誰もいない。
急速に不安が込み上げて来る。
「これ、また墓場じゃん」
やっぱり俺の目の前はあの時と同じ墓場であり、しかも二人共いないという始末だ。
ということは⋯⋯条件がやたら狭いってとこか?
とりあえず戻れないか試してみる。
⋯⋯無理。
「前回となんか違う。ていうことは⋯⋯今回は攻略しないといけないワケか」
どういう理屈でこうなっているのかは気になるところだが、とにかく今回は攻略しないと家に帰れないらしい。
「というかそういえば、新山さん⋯⋯俺を騙そうとしていたのかな」
現状そんな事を考えるべきではないのだろうが、小暮さんたちの反応を見るに、やってはいけないことのようだったし──詐欺紛いのことをしようとしていた事がほぼ確定となってしまった。
「はぁ⋯⋯」
思わず溜息が出てしまう。
何処かで新山さんと会った気もしなくもないからか、なんか寂しい気持ちでいっぱいだ。
⋯⋯ま、そんな事は今はいいか。
顔を上げ、墓場を見渡す。
こういう緊急性を要するダンジョン⋯⋯例えばクリアするまで誰も出れないなんかのダンジョンで、数カ月も過ごさないという場合があったりする。
なので今回は小さい規模ではあるが、五香さんがマジックバックを特別に貸してくれた。
⋯⋯まさかこんな事態になるなんてあの人も思っていなかっただろうけど。
「今回はたかが墓場⋯⋯なんて思わず、しっかりと色々把握しなきゃならんな」
クリアするまで帰れないのほぼ確定だし。
もし仮に数カ月も篭もるってことを想定すると、安全エリアと危険エリアの両方を把握しなければならない。
「一旦はキラーラビットしかいないわけだし、少し散歩するか」
まずは一番最初に見えるキラーラビットさんたちが見えるエリア。
やはり何処を見ても変なところはないし、いるのはすばしっこいウサギのみ。
とりあえず⋯⋯ここはユニークだと仮定するなら、今のレベルではまずい。少しでもレベルを上げなければならない。
「来い──」
今なら誰も見ていない。
俺は生成量が上がったことによって最初から短縮して金のナイフをイメージする。
「ピ?」
見えるウサギを狩ろうとした瞬間──初見の時とは違う動きを見せてきた。
可愛らしいウサギの目が突如悪魔じみた笑みを浮かべ、こちらに向かって迫って来たのだ。
これには思わず俺もビビり、飛び退いてウサギの動き観察する為に来た道を戻りつつウサギを引き寄せてどんな動きをするのか確かめる。
こういうのはゲームで活きてくる。
決まったパターンをするモンスターにカウンターを決めたり、こちらの手札でいいものがあれば適宜使ってこちらの流れに乗せるというのも先輩ゲーマー達から習ってきたことだ。
「あの舐め腐ったホラースマイルの割には大したことなさそうだな」
数分攻撃は万が一の時にやってくる攻撃のみいなし、他の攻撃は一切せずに、キラーラビットの動きを見続ける。
「ピィッ!」
ん〜。
突っ込んできて軽く攻撃を試みようにも⋯⋯俺とのリーチ差がありすぎてどうしようもないってところだろう。
だが、間違いなく言えるのは──このキラーラビットだけでも通常の初心者ダンジョンで出てくるようなモンスターの範囲は超えているということだ。
しっかり俺の動きを見てもいるし、しかも追えている。
初心者ダンジョンならそこまで知能を持ったモンスターもほとんどいないに等しいだろう。
「ビィィィ!!!」
「⋯⋯ん?」
可愛いらしい見た目からは想像できない程の、汚く高い音が広がる。
何か嫌な予感がした俺は、金のナイフではなく、槍を掴んだ。
「なんだ?」
すると前方からうざったいほどの数の──キラーラビットがやって来た。
おそらくそこら辺にいた同胞を呼びこむ合図だったのだろう。
俺の背筋が無意識に凍りつく。
「こりゃ面倒なことになった」
いくら一個体が微妙でも──こんだけ何十体もいたら、脅威だな。
「広範囲魔法とか習得していない俺は中々キツイ仕打ちだ」
素早いコイツらから逃げるのは中々至難の技だろう。
戦うしかないということだ。
「やるしかねぇな」
俺は懐にあるステータスカードを眺めた。
「ん? 槍術の他に謎のスキルを覚えてる」
そこには《※※式槍術》という新しいスキルが書かれてあった。
他の項目は見る暇がないのでとりあえずしまう。
「さて──」
槍を構えた瞬間、何か技でもないのだろうかと思考を巡らせていると、突然頭の中に振り方や動き方などが一気に叩き込まれたような頭痛がした。
「うぐッ──」
自分ながらこんな時に頭痛はやめて欲しいのだが、内容が終わったのか、頭痛はピタリと止む。
「⋯⋯すげぇ」
一度頭に入ると、動作や必要な知識が全て思い出せる。
これが⋯⋯スキルの恩恵なのか?
「ははは」
自分でも呆れているのがわかる。
そりゃ世界のトップ層が冒険者を欲するのが理解できる。
なんだこれ? まるで武神にでもなった気分だ。
「ただ、この槍術の名前が分からない」
有名な槍術って感じがしない。
一体何なんだろう?
この槍術は207からなる戦闘方式をとっている武術らしい。
そしてそれを極めると──最終的に1から10式と呼ばれる奥義のようなもの昇華されるようだ。
「数字が全てではない、か」
今使えるのは──。
「ピィィ!!」
煌星は突然入ってきた槍術に関する知識に集中しすぎて、キラーラビットの事を完全に忘れるほどの集中力を見せていた。
その隙を感じたのか──キラーラビットたちは一斉に煌星へと襲い掛かった。
うじゃうじゃと迫りくるキラーラビットたち。
一方煌星は、持つ槍から黄金色の火花が少しずつ全身に迸り始めていた。
その火花は煌星の全身を最終的には覆い、煌星の瞳は──黄金の瞳へと変化させていた。
金髪に、黄金の瞳。
まるで黄金の獣だ。
ゆっくりと煌星は腰を落とし、助走をつけて前へ走り出す。
その姿はまるで無意識。
感情すらその瞳には映らない。
煌星が少し助走をつけてすぐの事、思い切り左足で地面を蹴った。
するとそのまま前に行くのかと思いきや──後ろへと飛び跳ねる。
空中に浮いた煌星は尋常ならざる力で槍を握りしめる。
槍は輝きだし、煌星はそのまま空中からキラーラビットが集まる場所へと投げつけた。
「第五式──
地面へと着弾した槍は大爆発を起こし、その爆風はこの辺りにある墓場全てを吹き飛ばすほどの威力を持っていた。
「あれ?」
地面に着地した煌星は地面に刺さっている槍と大量に並び、バラバラとなっているキラーラビットを見つめ、目をぱちくりさせる。
「一瞬できるかな──なんて思ったらこんな事に」
自分でも不思議なくらいスムーズに行ってしまったようだ。
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