25話:迷子
25話:迷子
『はーいみんな〜! 今から絵本を読むよ〜!』
修道服を身に包む一人の女性の言葉が室内に響くと、数十人といる子供たちが笑顔で女性の元へと集まる。
子供たちの見た目はボロボロな布切れを着ていて、その風貌から身寄りのない子供達だということがはっきりと分かる。
『シスター! 今日はなんの本を聞かせてくれるのー?』
『今日はね、我らがこの世界の創造神※※※※※様を描いたお話ですよ』
シスターがそう言うと「えー」とブーイングが巻き起こる。
『もうそのお話何回も聞いたー!』
『穴ができるくらい聞いたよ』
『それは困りましたね⋯⋯』
シスターがどうしようと数秒頭を悩ませたが、結局そのまま読み続けた。
『それでは、始めますね〜』
絵本の読み聞かせが始まる。
数十人の子どもたちが聞いている中、その集団の中にいた一人の少年は、絵本の内容を聞くというよりも、聞いている子供達を眺めていた。
⋯⋯その姿はまるで、観察している理外の存在のような眼光で。
私に師などおらず、私に愛情や様々な感情もたらしてくれる者はいなかった。
私は生まれた時から王として生まれ、やがて私の事を神と呼ばれるようになった。
ある時、とある親子がこう言ったのだ。
"私の事はいいですから──この子だけは"
生殺与奪の全てを握っていた私は驚いた。
生物とは自己以外の存在を守ろうとするのだと。
私も生物なのだろうが、あまり自分の事はわからない。
生まれた時から人間とは違う力を持ち、同じ見た目をしている者たちが数時間掛ける事を数秒で理解出来た。
気付けば私は⋯⋯様々な人間とやらに崇拝されていた。
祝福とやらを授けると、人間たちは何か貢物のような物を持ってきたり、何か必要なものはないのかと聞いてくる。
そんな生活が何千年も続いたある日、そんな子を思う親の言葉が私に向いた時──私の中にある感情とやらが微かに鼓動を早めたのを感じたのだ。
『神、※※※※※様は世界を救い』
私はその人間たちがいる場所から離れ、身なりを変え、人間の最初である"子ども"というのを観察する必要がある。
⋯⋯私には必要だ。
あの親の眼つき、自分にはなんの力もない存在だと理解しているのにも関わらずああして身を挺する理解不能な行動を。
"知る必要があるのだ"
───
──
─
「⋯⋯⋯⋯」
んー! 何だ今の?
「夢⋯⋯か」
夢にしてはなんかすげぇ酷い夢だったけど。
まぁそういうもんか。
スマホを見るとあら不思議。
「⋯⋯っ!?」
俺は急いでリュックを背負って慌てて玄関を飛び出した。
「はぁ! はぁ! はぁ!」
集合時間は朝の10時。
現在⋯⋯9時40分である。
「やらかしたァァァァ!!!」
***
「あれ、もう10時過ぎましたけど⋯⋯黄河さんの姿はありませんね、小暮さん」
「あぁ、寝坊とかじゃないのか? 冒険者になると、みんな遅刻魔と化すやつが滅茶苦茶多い」
「なんか小暮さんの表情からとてつもない苦労が見えますが 」
「聞くか? 数年前の糞みたいな出来事の話でも」
小暮という一人の男性のこもりに込もった酷い顔をもう一人の女性は察し、慌てて両手を横に振りながら遠慮している。
「しっかし、ギルド長も中々酷な仕事を任せやがる」
「え?」
「共同同行する冒険者の黄河さんの事だが、色々試してほしい事があるってあっただろ?」
小暮にそう言われた女性は「あー!」と思い出してメモを取り出す。
「え? 忘れてたのかよ」
「そ、そんなことないですよ!?」
「すみませんー!!」
手を振りながら煌星が二人の前で止まる。
ゼェゼェ言いながら中腰で深呼吸しているのを見ていた小暮が内心笑っていた。
ほらやっぱり。全身びっちょりじゃないか。
急いできたことが丸わかりだ。
しかし遅刻してきたことを謝るあたり、まだ冒険者の沼に入ってはいないようだな。
「おはようございます、黄河さん」
「あ、おはようございます!」
「自己紹介からさせていただきます。私は小暮敬一と申します」
「私は日野恵です!」
二人の自己紹介に合わせて煌星も軽く頭を下げながら自己紹介を始める。
「黄河煌星です! 大学を辞めたばかりの新参です!」
「知っていますよ。今回はギルドからの正式依頼ですからね、かなりコッチも⋯⋯って、黄河さんは先に報酬をもらっているんでしたっけ?」
「あ、そうなんですよ。売却したアイテムを良い値で買っていただくという条件で」
気の抜けたような笑い声を発しながら頭をポリポリかく煌星。
そして煌星の汗が引くまで待ち、それから5分ほどで今回の依頼について再度打ち合わせを交わした。
「初心者ダンジョンなので、私達からすれば特に問題はありませんが、もし質問や聞きたい事があれば全然言っていただいて平気ですよ」
「もし仮にお二人と離れる形になった場合、俺はどういう風に動けばいいでしょうか?」
「そうですね、逃げれるなら最優先でそうして頂いて、無理そうならあとで渡すポーションや様々なアイテムを駆使して生き残ってもらう形になってしまいます」
「それかなりキツイですね」
「こればっかりは私達も難しくて」
それから10分後。
煌星達の準備が終わり、いよいよあのダンジョンの入口までやってくる。
「あ、新山さん!」
「あ! 黄河さん!」
⋯⋯ん? ギルドの者か。
煌星の後を着いていき、新山の元へ集まる三人。
「お疲れ様です。私は小暮です、新山さんはどこの部署ですか?」
「私は生活安全課です」
⋯⋯? そんなのあったか?
「え? あれ、そんなのなかったような」
「と、とにかく、この水でも飲んで、元気出してください!」
そうして差し出されたのは、今高級中の高級と言われているマナウォーターである。
これ、1本一万円はする超高級品だぞ? それをこんな簡単に差し出すなんて、ギルドの者なのか?本当に?
「どうも」
「あ、新山さん、クランの話なんですけど⋯⋯」
「ちょっと待った」
私は新山という男を睨みつけた。
それもそう。ギルドに属している以上、クランや様々な勧誘行為、仲介などもってのほかだ。
「待て、新山さん⋯⋯貴方明確な違反行為ですよ? 黄河さんが知らないからと言ってそんなこと許されるはずないでしょう!?」
「え? そうなんですか?」
「まぁ! まぁ!色々あるんですよ!」
「いや、しかしだな⋯⋯」
私と新山という男が口論を始めようとしたが、恵がそれを止めた。
「とりあえず新山さんはここで待機してください。私達はとりあえず、依頼が優先です先輩」
冷静さを欠いたか。
後輩に突っ込まれるとは情けない。
「すまない、恵の言う通りだ、俺達三人は一旦依頼をこなすが⋯⋯新山とやら、そこで待機していろ。ギルドの者なら個人番号が登録されているはずだ──逃げてもどうしょうもないだろう」
「あはは⋯⋯」
微妙の空気のまま、三人は新山から離れ、ダンジョンの入口までやってくる。
「何かあったらすぐにポーションを飲むことをオススメします。約束ですよ? 黄河さん」
「はい!」
そうして私達三人はダンジョンに入っていくが、今日が私の命日になるとはこの時──夢にも思っていなかった。
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