12話:レベル5
家に帰ってきた俺はベッドへと即効直行ダイブ。
「あー眠い、早くゲームやりたい」
そうボヤきながら風呂に入ろうか迷う。
いや、先に飯か?
「あーでも明日も講義か」
しまったな。このままではゲームが出来ずに寝てしまう。
俺は息を吹き返した魚のようにガバッと起き上がり、急いでご飯を用意する。
献立は生ラーメンに惣菜コーナーにあったコロッケマン。そしてツナ缶を用意。
「ふふん、我ながら素晴らしい出来栄えだ」
無造作に置いてあるパイプ椅子に座って食事を始める。
タブレットで動画を見ながら食べていた俺だが、初めてダンジョンに行ったことと同じ事を繰り返してしまった。
「あっ、レベルが上がったってのに、ステータスカードを見てなかった」
まるで初日の時のようにリュックから取り出したステータスカードを眺める。
「ん?」
────
黄河煌星(22)
レベル5
職業:ランサー
スキル
《極真空手Lv7》
《障壁Lv1》
《気配察知Lv1》
《槍術Lv2》
――*********************。
《黄金Lv5》(詳細はタップしてください)
────
「もうレベル5か⋯⋯早いな」
まぁゲームも最初はレベルが上がるのは早いしな。
だが、それよりも⋯⋯だ。
「こっちの黄金さんもレベル5か」
まるで自分のレベルについてきている?
まぁそれは気のせいだと信じよう。
「とりあえず詳細の確認をしないとな」
そう言って黄金の詳細をタップする。
────
――*********************。
黄金Lv5(詳細はタップしてください)
Lv1《黄金生成》
Lv2生成量アップ
Lv3生成量アップ
Lv4生成量アップ
Lv5《黄金操作》
────
「whats!? どゆこと?」
やべぇ、嫌な予感しかない。
絶対にヤバイ能力だ、とりあえず見てみよう。
そう無駄口を叩きながら俺はタップする。
───
《黄金操作》熟練度0%
└生成した金を操作する事ができる。
・熟練度の差によって操作出来る事が変わる。
※現時点で可能操作は生成した形状操作のみ。
生成したもの以上に伸ばしたり重くしたりする事は出来ない。
───
「終わってんな」
このバグみたいなスキルは、遂におかしい事を爆発的に言いまくりだしたぞ。
「終わってる」
熟練度次第では操作内容が増えて、形状以上になるって事が確定しているような文だぞこれは。
「マジかよ」
試してみるか。
俺は目の前に金貨を生成してみる。
掌の上にある金貨にイメージを送る。
おそらくこの辺は一緒だと感覚で理解しているから合っているはずだ。
「例えば⋯⋯」
これが出来たら、絶対にヤバイと思った形状をイメージした。すると掌にある金貨が少しばかりの光と共にイメージ通りの形状へ粘土のようにヌルヌル動き始めた。
一連の流れを見ていた俺は、嬉しさと同時に自分の能力に呆れて鼻で笑うしか出来なくなっていた。
イメージしたのは針。
もしこれが出来てしまえば、何時でも攻撃性のある用途にも使えるということになってしまう。
「ははは、出来ちまった」
そんな俺の言葉と共に、金貨だった円形の物が、鋭くイメージ通りの針へと形を変えていた。
「これ、やっぱり⋯⋯本物だよな?」
金貨を変化させたわけだから、小さい縫う針のような小ささではあるが⋯⋯
俺は自分の指の腹を使って針となった元金貨を押し込む。
「やっぱり」
指の腹からは血が流れ、俺は確信した。
「"絶対に人に喋ってはならない能力だ──これは"」
終わっている。
こんな能力⋯⋯レベルを上げれば上げるほど馬鹿げている。
思わず頭を抱えてしまう。
しかし抱えながら俺はクックッ⋯⋯と中二病真っ盛りのように高笑いを始めた。
「はーはっはっはっはっ!!」
⋯⋯もう俺の人生は確定した。
就職? 大学? 知るかそんなモノ。
「こんなの時間が惜しい、大学はここで辞めよう。卒業までの時間が勿体無い」
まぁここまで来て辞めるのは、通常ならイカれている事だが、この能力は⋯⋯本物だ。
しかも、調べた限り、俺みたいな能力を持っている奴は他にいない。
恐らくユニークスキルなのだろう。
なら、まともに就職だの大学だの⋯⋯やる方が地獄に決まってる。
「もう知った事か」
ここまで来たらなるようになれってやつだ。
泰然自若の姿勢でいればいい。
「これで決まりだ」
**
「黄河くん⋯⋯だったな? 中退するつもりか?」
「はい、色々決まったので」
「そうか⋯⋯今年終わってしまえば大卒になれるというのに」
「ええ、しかし気持ちは変わりません」
そう言って黄河は教室から出ていく。
貰った職員は溜息混じりに退学届けの封筒を机に放り投げる。
「彼、中退ですか?」
「ええ、多分冒険者にでもなるっていう考えでは?」
隣で聞いていた職員の一人がそう言うと、貰った職員はハッと気付く。
「それで今まで何人の若い子たちが失敗に終わって露頭に迷う羽目になったことか」
「そうですよ、今じゃ就職の方が変くらいの意見を言う大人や子供が増えすぎです!」
そういう二人の表情は、何処か不安そうにしながらその後も文句の言い合いを漏らしていた。
「あれっ? 黄河じゃねぇか! どうした?」
「お疲れ様です、店長」
店長が黄河の目を見た瞬間、何を言いたいのかを察したのか、すぐに椅子に座る。
「やりたいことが決まったのか」
「はい、色々事情はありますが、冒険者になることになりました」
「そうか、中々良いスキルだったんだな」
一呼吸おいて黄河は軽く2,3回頷く。
「そうなんです」
「その様子だと、もう大学は諦めた様子だな?」
「はい、やっぱり大学は時間がかかってしまうので⋯⋯早めに辞めることにしました」
「まっ、お前が決めた事ならそれが正解だ。俺は応援してるぜ? バイトももう辞める算段がついたってところか」
黄河はまた同じ様に頷く。
「なら、仕方ないか」
店長は笑って黄河にコーヒーを机に置く。
「奢りだ。祝わないとな!」
「ありがとうございます」
「てなると、早めに辞めたほうが良さそうだな。今週で辞めれるようにしておく」
「いいんですか?」
「あぁ。これだけ一途に働いてくれたバイトの子を適当にするわけないだろ?」
「ありがとうございます」
店長はコーヒーを飲む黄河を見て何処か嬉しそうに鼻で笑った。
「どうしたんですか?」
「いやな、人ってやる事が決まると⋯⋯ここまで瞳に活気が漲るんだと思うと⋯⋯なんか面白くてな」
「あぁ、そうなんです。やる事というより、色々やりたい事が出来るようになるという希望ですかね」
「ほう?そんなに良いスキルだったか」
「はい」
それから二人は会話を広げた。
コーヒー片手に入った時の事。
新入りがミスった時の事。
客同士の揉め事で平手を打ちを代わりに貰ったこと。
⋯⋯色んな事で盛り上がった。
「おっ、もうこんな時間か。実質、明日で終わりか」
「ですね。本当に⋯⋯お世話になりました」
「距離はあるかもしれんが、また飲みに来てくれ」
「はい」
店長の明るい言葉に少し恥ずかしそうにしながら答える黄河。
「それじゃ失礼します」
「またな、元気で」
そうして黄河は店を後にし、次の日のバイトを終え、いよいよ冒険者をメインとした1日が始まるのだった。
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