11話:受付嬢
「そうですね、三神さんの言う通りです。近々別のダンジョンにも顔を出してみようと思います」
そう言って帰っていく大学生冒険者である黄河くんを見送る。私はそのまま査定に関する書類や他の初心者冒険者用の書類を持って職員室に向かう。
「あら? 友梨休憩?」
「うん、一旦初心者の皆がいなくなったから」
休憩用ソファに座って自前の弁当をテーブルの上に広げる。
すると同じ同僚である梨花が私の隣へとドサッと大胆に座り、私の弁当を見つめ、物ほしそうな目でみてくる。
「はぁ⋯⋯」
私は弁当箱からまだ使っていない箸をつかって卵焼きを梨花に渡すと小動物の勢いで卵焼きを口にする。
「うんまっ!これで彼氏いないは嘘でしょ」
「いや本当にいないよ」
嫌味かコイツ!
私よりも若いからって。
「そういえば、今日対応した⋯⋯黄河⋯⋯なんとかくんって知ってる?」
「黄河くん? それがどうしたの?」
「いやね、他の初心者冒険者からクレームが入ったんだよね」
「⋯⋯え?どんな?」
「その黄河くんが森に出没するゴブリンをドンドン狩っていくから、ゴブリンの出現率が下がってまともに他の冒険者たちが戦えないって話になってるのよ」
「そんな事になってたんだ、私も少し前に他のダンジョンに移ったほうが良いっていう提案をしたところなんだけど」
「あー友梨先輩ナイス!」
調子いい時だけ先輩を付ければいいと思ってるんだから。
「先輩はなんで提案したの?」
「んー、なんか勘⋯⋯かな?」
「どんな? イケメンだった?」
「そんなところで提案するわけないじゃない」
んー、でも確かに⋯⋯。
私は黄河くんの容姿を言語して頭に並べる。
・金髪ウルフ
・筋肉質
・切れ長でクールっぽい細い目
・身長は170と少しくらい
・目鼻立ちも良い
・肌もプルプルだった
・服もシンプルで自分に合ってた
⋯⋯あれ?イケメンなのでは?
私は黄河くんを思い出しながら弁当を食べる。
「あー! 先輩が惚けてる!」
「ちっ、違うよ!!」
確かにイケメンだなとは思ったけど!
「でも先輩、一瞬メスになってた」
「こんな夕方間際にメスっていうのやめて。せめて女でしょ」
「はいはいー女の顔してた先輩☆」
「なんかムカつく」
「というわけで、かなり多くのクレームがあったんで、一応登録アドレスに忠告してもらっていいですかー?」
「了解、そしたら席に戻りなさい」
「なんでですか!」
「そりゃ決まってるでしょ? ⋯⋯私の弁当が無くなっちゃうから」
「ちぇっ」とぶすっとした顔で自分の席へと戻っていく梨花。
でも確かにそうだ。
明らかに初心者のレベルは超えていた。
初めてっぽい雰囲気は間違いなく出ていたし、確実に初心者なはず。
なのにあそこまで初日で成果を出し、二回目の時も、ゴブリンを難なく捌いている様子から見るに⋯⋯かなり有望な冒険者である事は間違いない。
⋯⋯少し調べてみるか。
それから私は食事を済ませたから午後の残り業務をこなし、終業間際の自由時間で軽く黄河くんに関しての調査を始めた。
これには私情を挟んでおらず、ただの天才か、何か別の要因があるのかを調べるだけだ。
カタカタキーボードで打ち込み、画面に出ている情報を確認していく。
「冒険者の名前で見つからないし、顔写真で検索かけても反応ない。まぁ余程の事がない限りはこれで問題ない訳か⋯⋯」
なら彼の過去はどうなんだろう。
私は彼の経歴を見てみる。
「八王子市内の中学校を卒業後、偏差値45の高校へ進学、大学は至って普通のところへと進学してる。何かやってたとかいう記載もないし、両親は⋯⋯幼少期に他界。施設育ち⋯⋯か」
まぁ、何も言うところがないから特別なことではないのか⋯⋯私の深読みか。
「でも、何かを感じさせるんだよね、あの子」
まぁでもあんまり会えないかもね。
ダンジョンの品は、別に入口で預けて査定後指定アプリで取引できる。
「まぁ高々二回案内したくらいだし、きっと数カ月経ったら忘れるか」
私はそう思って、アプリ越しに忠告メッセージを送って帰宅した。
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