10話:日常
『で、あるからして⋯⋯』
いつもと変わらない日常。
一番後ろの左端で頬杖をつきながら窓の外に映る景色を眺める日々。
この生活は嫌いではなかった。
何気ない日常が幸せだと誰かから聞いた気がする。
そしてそれを俺は理解しているつもりだ。
⋯⋯これからもそうだ。
何気なくこの平和な時間が流れて、このまま平穏に過ごす⋯⋯そんな日々。
『いやー、でよ!』
『なんだよ?』
そうそう、こういう日々だよ。
友達とどうでもいい話で盛り上がって笑う⋯⋯そんな大学生活。
まっ、そんな時代はとうの100年前に過ぎ去った話ではあるか。
そう溜息混じりに窓の外に見える沢山の森林と立ち並ぶビルを眺める。気付いたら講義が終わっており、時間ももう昼過ぎだった。食堂に行き学食を喉に通し、午後はバイトへと向かう。
バイトが終わればもう真っ暗の21時。
そして帰りに肉まんを食って家に帰宅。
キッチンでひとり寂しくインスタントラーメンを食って風呂入って速攻寝る⋯⋯こんな生活が続いた自分がまさか冒険者をするなんて予想だにしていなかった。
「あら、黄河さん、お久しぶりですね!1週間くらいでしょうか?」
「お久しぶりです三神さん」
ステータスカードを通してから一週間が経った。
今日は朝からガッツリスライムと少し奥まで入ってレベルを上げる日。
準備は念入りにしてきた。
ギルドの二階でしっかりアイテムを購入し、非常用のガントレット、そして軽装な服装とその上に安め素材の鉄プレート。
⋯⋯まぁ初心者らしい装備だ。
金はあるが何処までかは分からない現状、生活費に回した方がいい。
「そのご様子だと⋯⋯今日は少し奥に入りそうな装備をしていますね」
「そうです、完全に奥へとは行きませんが、やれる限りやるつもりです」
「そうですね、慎重は大事です! 頑張ってください」
再度あのゲート前へと移動し、どこまでも続きそうな草原エリアとまた到着した。
「本当⋯⋯まだ二回目だけど、まさに始まりの一階って感じがぷんぷんするな」
そして前回狩ったスライムエリアを通り抜けながら数体のスライムを狩る。レベル上がったせいか、それとも気配察知を覚えたのか⋯⋯スライムがいる方向が何となく分かる気がする。
20分ほど歩いた先にある草原に見合う森が見え始める。
「おぉ、マジでデカイ森だ」
広大な樹海。
それが真っ先に出てくるような自然豊かな景色と広さが自分の目の前に広がっていく。
俺はそのまま意を決してその広大な森林へと足を踏み入れる。
「すげぇな、これが初心者ダンジョン⋯⋯。ここまで広いと他のダンジョンがどれだけヤバイか想像もつかないんだけど」
それから暫く森を直進しながら10分程経過した時、俺の気配探知に何かが引っ掛かった。
「この感じ⋯⋯人型か」
ゲームの王道雑魚モンスター⋯⋯ゴブリン。
「ケケッ!」
「本物だ」
まず真っ先に出たのは本物かの確認だった。
そして次にクルのは──鼻が曲がりそうなほど臭う体臭だった。
「ゴホッ、ゴホッ、とんでもないくらいクセェなゴブリンは」
こんなんで戦わないといけないなんて無理だぞ?
⋯⋯よく冒険者たちは当たり前のように戦えるな。
まるでドブのプールの真ん中に放り投げられた気分だよ。
「まぁ良いや、今日はレベルを上げる日だから、ゴブリンを狩れるだけ狩っとくか」
俺はリュックから前回と同様に槍を抜き、切っ先を少し前へと伸ばしながら構えた。
「キキ!」
ゴブリンが突然腰に携帯しているスリングのような物を手にして石を取り付けている。何か嫌な予感がした俺は構えるのを止め、一旦距離を取る。
「おっ、まじかよ!」
次の瞬間、スリングに付けた石をこちらへと連続で飛ばし始める。
バックステップで距離を取りながら木を盾にして、攻撃を凌ぎながら森を駆け抜けてゴブリンの視界の死角へと飛び込んで剣を振るうかのように上から首目掛けて振り下ろす。
ゴブリンの断末魔が聞こえた直後、縦に泣き別れ、身体は煙となって消えていく。
「よしっ!上手く行った!」
マジでステータス様々だ。
しかしこのステータス、数値化出来ないものか⋯⋯。
「おっ、ドロップ品は⋯⋯極小魔石(中)か」
ゴブリンからはスライムと違ってワンランク上の(中)が出てきた。
この極小魔石は魔力がほんの僅かしか入っていないが、(中)になると若干増えるらしい。
「ゴブリンをもう少し狩れれば⋯⋯金ももう少し多く貰えそうだな」
腰を落として魔石を拾いながら俺はそう呟いて100均物のポーチに投入する。
「死体処理の必要がないから楽でいいな」
ダンジョンって、本当どんな仕組みで生まれているんだろう。
まぁそんなことは今いいか。
「とりあえず、ゴブリンと初遭遇な訳だけど、結構知能ありそうだな」
ソシャゲで戦ったようなコブリンはでたらめな適当に振り回す程度の剣しか使ってこなかったが、今戦ったゴブリンは投石やこちらを慎重に狙うくらいの知能が備わっているわけだ。
「舐めているわけではなかったが、かなり慎重に戦わないとな。ステータスも数値化されているわけではないし、あの威力だと、一発当たっただけでも怪我しそうな勢いだったから」
それから俺は慎重に探索をしてみようと今いる場所から直進するのをやめ、今いる場所から広がるように動いていく。
「確かダンジョンでは採取の依頼なんかもあるんだったよな」
冒険者は依頼を受ける事もできる。
生産職の人を始めとした色々な人が、俺達冒険者にこれが欲しいと依頼したりする事ができる。
まぁ採取は戦えるやつからすれば効率が悪いから多分初心者や安定を狙った社会人の人たちが主にやる依頼だと三神さんから教わった。
「まぁちょろちょろ見当たる草とか漁ってみるかー、基本は一番大事だ」
前回同様、午後の15時過ぎまで狩り続けた。
戻って三神さんに確認してもらうと、極小魔石(中)だけでも89個という結果になった。
かなり三神さんに褒めてもらった。
初心者、それもソロでゴブリンをここまで倒して慎重にやれる冒険者はあまりいないのだとか何とか。
俺は素直に嬉しくてモチベーションがかなり上がった。
ちなみに今日の収益は前回同様2万円以下くらい。
最初は疑問が生まれたけど、どうやらスライムの粘液がかなり高値だったようだ。
まぁ誰でも落とす奴が高かったら財政おかしくなるよな、そりゃ。
「査定ありがとうございました。それじゃあ」
「あのっ!」
そう踵を返した時、背後から三神さんが慌てて声を掛けてくる。俺はすぐに振り返って用件を聞く。
「どうしました?」
「レベルは上がりましたか?」
「え?あぁ⋯⋯上がったと思います」
「ですよね、だとしたら⋯⋯初心者ダンジョンはもう大丈夫だと思いますので、後は通常のダンジョンで始めていけば問題ないと思います」
うーん、まぁそれもそうか。
もうすぐ、レベルも上がりづらくなってくる頃だし、そろそろ他のダンジョンについても調べていかないとな。
「そうですね、三神さんの言う通りです。近々別のダンジョンにも顔を出してみようと思います」
俺は軽く頷き気味に言葉を返し、そのまま踵を返して家に帰った。
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