我らが制作した対人有機生命体

釣ール

どのように自立するか

創罪くれいるは複数の人間を殴り倒していた。

 技術を持つ創罪達「アラミックス」は戦闘訓練と競技で実績を積んだプロ集団である。

 AI技術とは別の訓練方法で表に出る試合では抑えているものの、それらのデータを合わせてシミュレーションを行い続け、国境を超えた戦闘能力を有している。


 ただし、先ほども言ったように力を表へ出すときは抑える必要がある。


 時代によって過激な戦闘は慎むように規制がある。

 マーシャルアーツやカンフー映画で実写が少なくなったのも全世界でそれらがスーパーヒーロー作品のみに許されるほどに世界はナーバスなのだ。

 しかし紛争や闘争は終わらない。


 創罪は少年時代に競技を観戦し目を輝かせていた。

 そして等身大の自分が競技へと漸く参戦できるようになった。


 しかし納得のいくジャッジばかりではないとはいえ、合法的に戦えるのは性に合う。


「ふん。

 物足りなくはないが、納得できない。」


 シミュレーション空間が元の狭い部屋に戻る。


「創罪!また派手にやってくれちゃって。」


 今度はどこも壊していないと創罪はアラミックスメンバー 里中さとなかに伝えるが、メンテナンスをする羽目になったと理由をまくしたてられた。


「これは創罪一人のラボじゃない。

 データ回収の目的を勝手にスパーの相手にしないでほしい。」


「ああ。

 対人有機生命体を作るためのデータ。

 俺達は実験体でしかないってことか。」


 そうじゃないと里中は自分も元は戦闘訓練を受けたと過去を語り始める。


 創罪達は二◯◯二年に生を受け、二十一世紀を迎えて浮かれた先人に待ち受けている希望なき現実と理不尽に自分達も巻き込まれた。


 それぞれが生き残りをかけて新時代と旧時代の狭間を生かされている。


 だからこそ創罪にとって拳と脚を使うことには夢と希望を進むための生きる目的でもあった。

 勿論喧嘩目的でも、ストリートで威張りちらす為でもない。


 戦闘人間と呼ばれた平和の隅で力を自慢し合う派閥が金と女でのし上がり、技術と男もそこに入るようになった。


 武力中心の人間が科学界隈で幅を利かせてしまったから追い出され、家族や友人関係を形成しても愛せるのは科学の結晶である生命体のみ。

 そして生命体はひたすら自由を奪われ現実世界に適応させられる。

 それは戦闘人間達もそうだった。


 人間への憎しみが拭いきれず明るく振る舞うこともできず、かといってろくな仕事も賃金もないのに労働讃歌の腐った日本で地道に生きるのも違う。


 ラボでメタバース空間を形成し、実戦に近い戦いで生き残り、そのデータを対人有機生命体にインストールする。


 とっくに破綻した戦闘人間コミュニティはそれぞれが創った技術の結晶を崇めるために分裂と乱立を繰り返し、日常生活でよろしくやっていた。


「少し外へ出る。」


 里中ははいはいと相槌をうって研究に没頭する。

 いずれ里中とも戦うかもしれない。


 アラミックスの連中とはソリが合わない。

 自立して取得中のこの技術を上手くマネタイズしてまた合法的に何かを殴りたい。


 倫理感を守れと強制されるのは理解はできても納得は出来ない。

 正しさと時代の作り方が人類史上何も変わっていないからだ。


 そんな世界で経験する画一的な幸せなんて現実的ではない。

 道徳感がただただ狂っているだけだ。



 ああ…ああ!

 不条理を殴りたい!


 今や対人有機生命体に愛情を注ぎ腑抜けている奴らも戦う辛さから逃げることに成功し、まだ二十一歳前後なのに考えは化石と化している。


 いや、もう二十一前後か。

 知らないうちに洗脳されて何年か経ってしまった。


 規制の関係で対人有機生命体もどこで暮らしているのか分からない。

 この怒りをぶつけられる相手は他チームの最愛の子供でおる対人有機生命体だけだ。


 乱立した戦闘人間達の技術力にはどうしても優劣が発生してしまう。

 なら弱そうなそいつらを嗅覚で当てて戦うしかない。


 戦闘人間達は武力による関係以外に解決策を見出せない。

 ノーベル賞を取れたかもしれない金の卵なのに結局、戦いを放棄できない不器用さを対人有機生命体に利用される形になるのだ。


 腐ってる。

 そして創罪も他者に対してはシビアだが、メンバーと制作しているアラミックスの対人有機生命体もなんだかんだ仲間として認めれている。

 認めてしまっている!

 はやく技術を盗んで立ち去りたいのに。


 創罪は路地裏でドラム缶を粉々に蹴りで破壊する。

 意思のない物質を破壊しても意味なんてないのに。


 だがこの世紀末では下手に動けない。

 氷山の一角だが三十もの戦闘人間達が乱立したラボはある。

 そのなかで自分がある程度拮抗して戦える対人有機生命体はどこにいるのだろう。

 そのラボのコミュニティを壊したいからだが。


「こ こ に い る よ。」


 突如声がした方へ回し蹴りをする。

 勿論陽動だ。

 気配のする前方に左ストレートを当て、相手を仰け反らせる。


「やっと見つかったか。

 ストレス発散装置!」


 こんな動きができるのはラボメンバーに追跡AIを搭載させ、いつでも差し向けられるように設定された対人有機生命体だけだ。

 プライバシーなんてあったもんじゃない。



「格闘技でヒール役者をやったことがあるのなら、大人しく路地裏の皆様方を楽しませられるようにやられてくれない?」


 正義のつもりの奴がなんかいっている。

 対人有機生命体は武力の結晶。

 戦闘者に技術を持たせるとこうなる。


「まあいい。

 性能…確かめさせろ!」


 創罪は対人有機生命体が自身と同レベルの技術だと分析する。

 競技で王座戴冠した雰囲気があった。

 ランカークラスかトップクラスの奴がインストールしたのかもしれない。


 興行では有望株のかませ犬にされ、インタビューでは適当に答えていた創罪だったが、こいつにだけは負けたくなかった。


 ただただ創罪はもがいて、対策をし、人間を超える力と戦っていた。

 なあに。

 ただのガラクタだ。

 いずれ自分も愛してしまう存在。


 戦い、疲れて、また戦って…


 いつのまにか創罪は大の字で倒れ、誰かの子供のような存在の対人有機生命体に勝った。

 やがてこのデータも利用される。


「ぐっ…おえっ…」


 口から血を排出した。

 負けたとは思えないくらい手応えがあったのに。

 それでも創罪は楽しめたからかストレスはなかった。


「やっぱりここにいたか。」


 助けもはやいな。

 GPS機能は監視ばかりのマイナスイメージだけでなく、昔の特撮ヒーロー並みの救護を期待できる安全装置でもあったようだ。

 一長一短だが。


 助けに来たのは里中で、肩を抱かれて路地裏を去る。


「技術をどうするつもりかしらないけれどさあ。

 簡単じゃないんだ。」


「簡単なら物にしたいという発想はない。

 俺は俺の戦いをここから自立して奴らへ挑みたいだけだ。」


「そうかい。

 複雑だよね。

 自分達は。」


 まだ対人有機生命体は乱立した敵の崇拝対象であり子供だ。

 ここで根をあげるわけにはいかない。


 簡易点滴で回復しながら、恩も恨みもあるアラミックスラボへと帰るのだった。


 納得…いかない一日になってしまっただけだ。

 そう日記に書いておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

我らが制作した対人有機生命体 釣ール @pixixy1O

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ