第2話 正義の味方、登場

銃弾で少し身体が重くなったくらいか。


ショットガンを片手に警察署を探索していく。この死体邪魔だな。

奥からぞろぞろと警察がやってきてはピストルなんかで撃ってくる。そのおどけた顔は最高に活かしてるな。


最近気づいたことがある。この世の中はしばしば死を知らなさすぎる。

元々人間もサバンナにいる牛や羊と同じ動物だったのだろう。いつライオンなどに襲われ、食われるかもわからないはずだったのだ。

しかしこの国はなんだ。生きていることが当たり前で死に恐怖することを知らなさすぎる。


それだけではない。殺す側もそうだ。

放たれる銃弾のほとんどは掠っていくばかりでなんとも威嚇だけ、殺す側がビビってどうする。

当たったら当たったらで腰を抜かすなど殺人に慣れてなさすぎるな。そんなことでお前らの大好きな国を守れるのか。大概は勝手に座って道を開けるばかりだ。


あるいはあれかもしれない。集団ションベンが揮発してピストルの邪魔をしているのかもしれないな。

試しにショットガンを撃ってみて確かめるとしようかな。


殺人も手慣れてくると刺激が足りない。

今日は新しい刺激を求めて警察署にやってきたのだが、美味しそうな獲物はなかなか見当たらないな。

どいつもこいつも普通ばっかりで、殺したところでなんもつまらない。アリを殺して楽しめるのは幼稚園児くらいだ。


でもたいだいは決まっているものだ。

どんなこともある程度の法則性はあるもので、気づきさえすれば何回も繰り返せばいい。そうさえしていれば安全安心だ。

その怠けゆえのことだろう。お前らはタブーである俺を止めることはできない。もっと監視しておくべきだったんじゃないか?


話が逸れた。決まっているのはそう、殺す相手、、ではない。殺す相手を決める方法のほうだ。もちろん殺す相手にもある程度あるけど。


さてさて、やってきたのは所長室。

中からガタガタと音がするし、避難はしていないようだな。逃げることすらできない臆病者だからこその地位だろう。

やっぱりだ! 机の下なんかに隠れたつもりになっている。そんなとこ今どきの市民でも隠れやしないのに。


銃口を傾けると所長様は余計に震え出した。いい感じに震えながら命乞いを必死にしているみたいだ。演技はうまいな。そこまで命乞いされるとちょっと楽しくなるじゃないか。

こういうのはいたぶりながらじわじわと死に追いやっていき、ついに命乞いをしなくなったときの絶望的な顔を拝むのが鉄則だが、今日はいいだろう。


さて次に向かうのはどうやら拷問室だ。詰問室だっけ? いや、尋問か。ショットガンから出た煙のせいで頭が揺らいでたかな。

まぁなんでもいいけど、やけに硝煙臭いし、廊下が汚くなっているな。そこにいる清掃員からモップを借りてスルスルと。おっと間違えた、これは清掃員だったか。目が不自由だと困るな。


おや、所長様が言っていたことは本当のようだ。

拷問室の前にごついのが何人もいる。そこに親方様はいるようだな。

なんと正直な所長様じゃないか。僕は尊敬するよ。


この先にいるのは親方様、冤罪量産機ともいえるか。この感じは本当にやっていそうだな。それとそろそろ銃で撃ってくるのもやめたまえよ。いいかげん、血の臭いがしなくなるだろ。

ごついのなら銃なんて捨てて殴りかかってくればいいものを。おっと死体に助言しても聞こえはしないか。地獄で合流したら語り明かそう。


皮肉も皮肉だな。善良な市民が尋問された場所で罪人が籠っているのだから。今度は本物の罪人を捕まえたみたいだ。どんなふうに拷問してやろうか。

親方様は俺様に銃弾を三発浴びせるが、どれも外れてしまったな。あとは命乞いばっかり。どいつもこいつも自分のことばっかで情けないな。


それに命乞いとか馬鹿馬鹿しい。お前らは大学出たんだろ?

殺人鬼や人食い熊に「助けてください!」って叫んだり「なんでもするから!」とか「悪人を教えてやるから命だけは!」なんてもさっきあったが、効くわけないだろ。

本当に助かりたいのなら死んだふりのほうが効果的だぞ。まぁだいたいは近づけば勝手に震えてわかるものだが、そういう奴にはちゃんと死んだふりを教えて止まらせたりもしてあげてるよ。


さっき殺す相手にもある程度決まってるものがあると言ったな。この所長様はまさしくそれなわけだが、特徴としては声が人一倍でかく、臭い、あとは気取ってるやつとか……。

ごめん、やっぱりよくわからないな。ただ善人とか一般市民はあんまり気持ちよくなかったというのは覚えている。もちろん罪悪感ではなく、アイツらは「自分が死んでもいい」とあとは数が多いから飽きたのはある。


でもだいたいは悪人が多いか。所長様だって悪人だもんな。

そうそう、この涙目になって震えて必死に土下座。威嚇射撃をすれば漏らすし、身体に溜まっていたものがいくつも出てるな。臭いな。こいつは血も臭そうだ。

ただやはり絶景だ。今まで何人もの泣き顔を喰らってきた? そんな奴がこうやって喚いているのはすごく笑える。ああ、無様だ。

そうだ、このプライドを投げ捨て、動物らしくなったときが一番狂おしい。


つまらないアニメやゲーム、映画よりもこいつの無様を流した方がいいんじゃないか?

いや、もうしているか。


おや、その胸には星がいくつもあるな。いったい何人の市民を免罪に追いやったんだろうな。そんなに楽しいのなら俺も警察になるべきだったかもな。

いや違ったか、きっとこうやって殺す方が楽しいし、お菓子みたいな星のためにわんさか働かされてばかりじゃ気が狂っちまうな。


それに見間違えだった。星だと思ったところから血が噴き出している。そうか、風穴だったのか。やはり目が悪いか。


そろそろ帰るか。

だいぶ体も重くなっちまったし、増援が来たらやっかいだもんな。

今日はこれくらいでいいし、食べ過ぎは健康に悪いしな。帰りにヨーグルトでも買っていくかな。


ああ、たまには正義も味方ごっこもいいかもな。

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