ひーろー伝記？

第2話現状

「いや……ホント勘弁してよ」

俺の名前はクノン=レインリー貧乏男爵家の次男坊、これといった特徴の無い十把一絡げな学園の一年生である。さっきまでは

「なんなんあれ主人公？悪役？ヒロイン？何であんなの居るの？？？」

さっき訓練場で見かけた決闘騒ぎのせいで思考までおかしくなっていたが、少し落ち着いてきた。だが衝撃のあまり脳みそどころか魂までバグったらしい。

「なーんで前世の記憶とか生えてくるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

そう今の俺の頭の中では前世の記憶が絶賛上映中である。あっ中学時代ががががが

「ううぅぅぅ……これ俺かぁぁぁ↑？…………俺だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ↓」

前世と今世の記憶がキレイに繋がったんですけど、精神の分裂なんてことにならなかったのはよかったけど。黒歴史大量生産とかひどくない？

「うん…うん…うん？記憶けっこう抜けてないかコレ？」

転がり回って悶えそうな記憶と、ゲーム、漫画、小説の記憶はしっかりあるのにそれ以外はテキトーなネット知識しかない。自分の名前も顔も年齢もわからないし、家族に関する記憶も無い、友達……トモダチ？？？？

「…いやいやいや…考えない……それよりも現状確認だ」

落ち込みそうな思考を打ち切り、優先すべき現状確認を始めることにする。現実逃避しているわけではない、決して…………

先程の決闘騒ぎについては他生徒の反応からみると、そこまで大事ではないようだが、平民と貴族の対立が学園内だけの話ではすむハズもない。ヘタすれば貴族への不敬罪として捕縛されてもおかしくない。

しかも相手は金縁バッチの高位貴族、その場で護衛に止められず、決闘にまで至っている時点で護衛すら処分対象になっているハズだ。

学園内とはいえ平民と貴族を同列に扱うなんて、建前だとしても入学前のそれぞれの家庭内による事前教育で差がつきすぎる。貴族ならばある程度の経済的余裕および他家への対応を最低限の教養として必要とするため、家庭教師を呼ぶか、家に仕える使用人が教育を担当してくれる。

だが平民にはそんな余裕は無いはずだ、大きな都市にある大きな商会の子供ならばある程度の教育はされているかもしれないが、そういう子供達は貴族への態度について真っ先に教えられる。

平民が貴族関わっていいことなどほとんど無い、精々が大商人などと呼ばれる者が商品の売り込みをするぐらい。酷いものだと見初めた女性を無理に連れていく、そんな話が噂で流れる事もある。

しかも貴族は政略結婚で伝手を作るものだから、我が家のような男爵家ですら何処の家と繋がっているかなど平民には知りようが無い。ウチより下の爵位持ちですら平民にとっては恐怖の対象になっていてもおかしくない。ほぼ地雷である

さらにさらに、貴族の上下関係として寄親、寄り子があるわけで下手に下位貴族と侮っていると、寄親の上位貴族が出張って来る可能性まである。なので貴族ですら他の貴族家に喧嘩など売らない。例外も有ったり居たりするが

「決闘…してたんだよなぁ？」

だというのに、平民対貴族で決闘行われるわ、護衛らしき者は居ないわ、あげくの果てには女生徒が教師を呼ぶまで誰も止めようともしなかった。そもそも決闘なんぞ、貴族家どうしの戦争時に発生する被害拡大を嫌った貴族がはじめた戦費削減の為のもので、別に名誉なんて物は無くそれ用の奴隷が使われたなんて事もあるそうだが、本当かどうかは人聞きなので分からないが。

「なのに、あの二人は教師に𠮟られた程度ですんでいる」

後日、何らかの処分が下されるかもしれないが教師の態度はとんでもないことをしている、と言うよりも呆れの方が強かったように見えた。あれでは重くても数日の停学、軽ければ反省文で終わりそうだ。

「えぇぇぇぇぇぇ…………なぁにコレ？」

常識さんが仕事してない、寝てんの？

「…ここまさか、ゲームか漫画の世界なのか？」

呆然としたまま口から出てきた言葉は、否定したいが前世の記憶の中にある小説設定の異世界転生がしっくりくる。だが…………

「俺…モブ転生ってやつかぁ」

主人公は決闘してた平民生徒だろう、相手の貴族が悪役…いやライバル役か？女子生徒はヒロインだろう。でも原作には全く心当たりが無いんだけど、原作知識によるアドバンテージが欲しかった。

「他にも居るんだろうな…ハーレム要員か…協力者達…あとはラスボスか……うん…地雷だらけだな」

主要キャラ達は、皆何かの天才かつ美形だらけだから警戒はし易いだろう。悪役達も似たようなものだが、こちらは真逆な奴らもいるはずだ。

「ろこつに避けるのは逆に危険だが、地雷には近づかない…今まで認識できなかった危険を避けるのに役立つか……前世の記憶のおかげか」

ここが物語の世界なら、主人公に関わったら下位貴族家なんぞアッサリ潰せる方々に目を付けられかねん。ストーリーしだいでは、あの平民主人公が気に入られて貴族入り、王族入りまでありえる。まじ、常識さん仕事して

「できるだけ主人公には認識されたく無いが、物語の流れが分からないと家族が巻き込まれかねない」

関わりたくないのに、目を離せないなんて……厄介すぎる主役達だ。