KBSN

「がーーーーーんですわ!わたくしも勉強会したかったですわ」


「ですわと言われてもねぇ」


「うん、誘おうとしたのに、「勉強ですわー」って、走って帰っちゃうから」


「気が走ってしまいまして……」


「それにスマホも見てないだろ?」


「え、そんなことは……充電切れてましたの」


「これが、セントレア、クオリティ」


「不憫だよなぁ」


 セントレアは金持ちでいい遺伝子を持っている。それはゲームで聞いてたけど、正直一条グループほどの大貴族様とは知らなかった。そりゃあ、頭良くて運動神経もよくて羨ましい限りで。と、言われるだろう。


 セントレアは努力型の人間だ。


「セントレアさん、僕とか八重さんと同じタイプだと思ってたよ」


「それが違うんだよなぁ」


「ん、セントレアは偉い子。でも私より頭いい」


「わたくしはのうきんではありませんもの!」


「そう、わたしはのうきん!ふふん」


「いや、そこで誇るなよ」


 努力は総じて見えにくい物だ。よくあるだろ?お母さんに勉強辞めてゲームをしてた途端にあんた勉強しなさいって言われること。反論しても自分が言う努力なんて誰も信じないし、自分でもそれが他人から見て努力したと言い切れるのか自信がない。結局のところ努力なんてものは他人から見た指標にすぎない。つまりセントレアは努力なんてしない天才だと思われてしまう。


「わたくしは絶対に八重さんに勝ちますわ!そのためには勉強!そして勉強ですわ!」


 努力型は不憫ってことだな。それにセントレアは実家が実家だ。凡人は自分より優れている人を自分を守るために天才と称する。そして一部の天才は自分が負けた言い訳に本物の天才には勝てなかったという。努力で負けたとは思いたくないからだ。誰もが自分の行動に意味がなかったと思うことを嫌がるからな。そのために一条家の令嬢だから天才で当たり前だという言い訳を作られてしまう。


「じゃあ今日も多分勉強会するけど来る?」


「そうですわね……遠慮しておきますわ!行きたい、とても行きたいですわ。でもやっぱり勝負する機会なんて久しぶりですのでわたくしちょっぴり本気で行きますわ!」


「前の学校じゃできなかったのか?」


「努力は不憫、さっき彩雫さんがつぶやいていた通りですわ。わたくし勝負が、一番が好きなのですわ!ですが、わたくしが一番を取ると皆さん勝負を捨てるのですわ!そんなのつまらないじゃないですの!」


「なるほどな、じゃあ八重さんはいい相手かもな。ああ見えて負けず嫌いだし、そもそもなんでこの学校にいるのかわからないくらい頭いいし」


 八重さんも勝負相手がいるのはいいことだろ。


「いいなぁ、俺も勝負したいわ」


「じゃあ、私と、テスト、勝負する?」


「いや、椎名さんとやってもねぇ?」


「……絶対負けない」


「いや?流石に今回は勝てるって、なんか他のことにしようぜ」


「お?何々?さいだっち勝負してぇの?」

「やろうぜ」

KBSN騎馬戦!」


 サッカー部の三馬鹿ぁ!高宮さんかと思っただろうがよ!何、そんな俺らと騎馬戦したいの?最近言ってこなくなったから飽きたのかと思ってたよ。


「やらねぇって」


「え、やらない、の?」


「やらないんですの?」


なんでお前らそんなにやる気なの?


「さいだっちこりゃやるしかないっしょ?」

「そうそう」

「また逃げんの?」


「はー!?いいよ。やるよ、やってやろうじゃねぇか!」


「おーっほっほ、騎馬戦いいじゃありませんの!負けませんわよ!彩雫さん、杏華さん我ら、歌を忘れたカナリアの力見せつけてあげようじゃありませんか!」


「ん、頑張る」


 っしゃ俺らのチームワークとくとご覧あれ!




 ~~~~~~



 グラウンド


「さぁやってまいりました、場所はここ聖櫻高校グラウンド。解説は僕、2年2組帰宅部月城楓と」


「同じく2年2組アイドル研究部の早口でーす」


「正直僕だけでも良かったのですが……」


「MCはアイドルの仕事でもあるので任せてください!」


 いや、ただ研究してるだけで君はアイドルじゃないですよね。ていうか、名前早口っていうのか、早口さんか、うん覚えた。


「というかさ……なんで俺が上なの?!」


「おーっほっほ、彩雫さんが挑まれた勝負だからですわ!」


「ん、下は任せて」


「おや?彩雫が上に乗るようですね」


「ほぉ、女性2人の上にまたがる三矢くんですか、外道ですね」


 ほらぁ!こうなるに決まってるじゃん!


「私たちがしっかりと支えますわ!」


 いや、バランスだいぶ悪いんだけどね?椎名さんはめっちゃ小柄だろ?セントレアは平均身長の俺より高い、流石ハーフ。今回俺らは向き合いつつ自分の肘を左手で抑え右手で相手の方に置く形で騎馬を作り、そこに俺が乗っている。つまり椎名さんの方にだいぶ片寄る。


 それに、足、特に右足に柔らかい感触が……


「ひゃっ、だ、大丈夫ですわ」


 俺が大丈夫じゃないかもしれない。俺は2人の腕の上にまたがってる形になる、つまりやばい。


「う、うぅ、まだ?」


「ちょ、椎名さん?!大丈夫!?」


「「「うわぁああ」」」


「おーっと試合前に彩雫騎馬たおれてしまいました」


「何がしたかったのー!?」


 うん、こりゃダメだ。一旦作戦会議。……よし。


「さぁ行くぞ!」


 結局、椎名さんが上になりました。そりゃそうですよね。


「両騎馬準備が出来たようですね、それじゃー気合を入れていきましょう。行きますよ?」


『ブオオオオオオオオオオオ!』


 法螺貝がなる。


「っしゃ、突撃あるのみ!」


「ですわ!!」


 と言っても2騎しかいないからな。そんな開戦の合図みたいな法螺貝合わないんですけど。


「さいだっち打倒のためにも悪いけど、椎名さんには死んでもらうっしょ!」


「甘い、よ?」


「な、なにー?!」


「おーっと椎名さん華麗に避ける」


「椎名さんドッチボールでも活躍してたよねー。私正直驚いちゃったもん。その力が騎馬戦でも生きているということですね」


 そうだ、椎名さんの避け力はすごいんだ。俺らはそれを活かすだけでいい。


「セントレア、あまり近づかないで行くぞ!」


「了解ですわ!」


 今回はハチマキ(ネクタイ)を取ったほうが勝ちのルール。つまり掴み合いになりがちだ。だが、掴み合いになった瞬間俺らは負ける!サッカー部に筋力対決して勝てるわけがないからな。なら、ヒットアンドアウェイを繰り返すのみだ。


「椎名さん行ける?」


「任せて、いつも通り」


 結局リアルはゲームと変わらない。俺らはゲームで連携を鍛えてきたんだ。


「すさまじい攻防、騎馬の安定度ではサッカー騎馬が圧倒していますが、ゲーマー騎馬チームワークで対抗しております」


「っふ、残念、外した」


「追え追え!」

「ちょま、逃げられるだけっしょ」

「カウンターの方がよくね?」


「私よくわかんないんだけど、サッカーだって連携するでしょ?なのにどうしてそんな連携に差があるのー?」


「見てたらわかると思うけど、サッカー部はやっぱり声出しとかも重要なんだよね。でも、ゲーマーはいちいち喋らないんだよ。従来のゲームだとそもそもVCボイスチャット入れないことも多いし、彩雫たちがやってるモンハルだとVCはあるけど日常会話しながら遊ぶことが多い、要するに、相手がやりたいことを無意識化で認識できるかどうかなんだ」


「ほーなるほど!だからさっきから声が聞こえるサッカー騎馬とは違ってゲーマー騎馬は静かなんだ!」


「そういうこと、でも、そろそろ決まると思うよ」


「んー?なんで?」


「アイドル研究部ならわかるでしょ?アイドルで重要な要素でオタクがない物」


「あっ、体力!」


「そういうこと」


 っち、そうなんだよ。余計なこと言いやがって。


「セントレア、どれくらい持つ?」


「わたくしは、まだまだ大丈夫ですわ!でも、椎名さんが」


「地面が、恋しい」


「一か八か仕掛けるしかないな」


「それではをやるしかありませんわね!」


「そうだな、以外ないな」


「ん、


「んじゃあ行きますか……」


「「「突撃ー!!!」」」


 説明しよう、とはこれである。え?わからない?突撃は最強ってことよ。ゲームでもよくあるだろ?「討伐時間が間に合わない」って時や、「え、これ勝てなくない?」って時、そんなときに活躍するのが、そう。はい、せーの、”突撃”!!である。突撃すればもし負けても楽しいし、何よりも負けそうでも、活路が見いだせなくても、ワンチャンスを生み出すことが出来る。つまり、突撃は最強。


「さぁ、お見合いの末再び両騎馬接近していきます」


「騎馬戦の練習頑張って来たんだ、その成果見せる時っしょ」

「見せる時っしょ!」

「兄貴、覚悟!」


「これはすごい迫力!砂ぼこりで前が見えないです!」


「どうなったかな?」


 へ、やるじゃねぇか。


「あ、これは!椎名騎馬崩壊してる!」


「早口さんしっかり見てください、彩雫が下敷きになってつぶれることで椎名さんは一命をとりとめています。そして椎名さんが手にハチマキを持ち、掲げている。つまり?」


「勝者チームゲーマー!」


 サッカー部三馬鹿、惜しかったな。もう少し、だ。


「く、くそ!そんなバカな……!」

「俺らが負けるなんて」

「サッカーの大会で負けるだけじゃなく、騎馬戦でも」


 いや、騎馬戦の練習なんてしてるからだろ。


「ヒーローインタビューに行きまーす!三矢選手、感想を、あと最後なにがあったのですか?」


いいだろう、解説してやろう。


「サッカー騎馬はなかなかに洗練されていました、だから最後確実に取れるというタイミングで手を伸ばしてきた。俺たちはそのタイミングであえて騎馬を崩し回避を行うことで相手の不意を突きカウンターをしたというわけです」


「椎名さんの小柄さと元から半分騎馬が崩れてるからできる芸当ですね」


 そういうことだ、さすが楓だ。



 で、何で騎馬戦してるんだっけ?

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