ですわ!

 昼休み、いつもの場所。いつものようにいつものメンバーが集まり楽しくしゃべりながらご飯を食べる。けれど、今日はいつもと違うメンバーが一人。


「おーっほっほ、わたくし一条・セントレア・シアヌスですわ!」


「はい、こちら、俺と椎名さんがやってるゲームで入ってるグループのリーダーです。青春のためにわざわざ特定して押しかけてきたみたいなので、仲良くしてあげてください!」


「改めて言われるとわたくし、ストーカーみたいですわね」


「見たいというか、やってることはストーカーだと僕は思うけどね?……まぁここには本物もいるけど」


「よろしくね、一条さん」


「よろー、せんっち?しあっち?うーん、せれあっち!」


「せれあっち!わたくしあだ名付けられたの初めてですわ!やったーですわ!」


 無邪気に飛び跳ねるセントレア。どこがとは言わないけどすごいね、うん。こう、ばいんばいんとね?流石お金持ち。持つもの持ってるな。


「ぐぬぬ、私じゃ勝てない……」


 八重さんから黒いオーラが。大丈夫だ、人間の価値はそこじゃ決まらない。例えば、あくまで仮の話だが、全ての人がセントレアさんほどのサイズだったらそもそもサイズという概念がないだろうし、その世界で八重さんのような人が居たらそれは大きな価値を持つ。要するに多様性なんだよ。大きいからいいとかそういう問題じゃない。


「だから、八重さん気にするこたあない」


「とか言って彩雫くんしっかりと視線固定されてたもん!」


「いや、あれはしょうがないだろ。な、楓」


「僕に言われても。まぁ椎名さんは分かってるみたいだけど」


「金髪、巨乳は、至高。つい目が吸い寄せられる」


「おーっほっほ!このわたくしの美しきボディ、存分に見るがいいですわ!」


「だめ、やっぱり、失格。恥じらいがないと」


「ガーン、ですわ!」


 なんか不思議な感覚だ。椎名さんも人前で話せるようになったしセントレアもいる。ゲーム内で話している感覚になるけどここはリアルで八重さんに楓、高宮さんもいる。ちょっと前じゃ想像もできないほど騒がしくなった。


「せれあっちって一条グループっしょ?ボディガードとかなくてだいじょぶなん?」


「大丈夫ですわ。遠隔で犯罪係数が100超える人は排除されてますわ!」


「うちの知らない間にドミネーターの開発がされていたなんて……」


「冗談ですわ!」


冗談かよ、わかりにくいわ。


「……一条家絡みだと裏で本当に開発されててもおかしくなさそうだからね」


「作ろうとしたけど無理でしたわ」


 やろうとはしたんだな。


「実際は大きな犯罪集団になるほど報復が怖くて手を出してきませんわ。ですので裏世界で手を出すなという情報が回っているはずですの。加えて、多少の寄付をして最新鋭の防犯カメラを多く設置しているので大丈夫ですわ」


 なるほどな。つまりこの辺りは日本でもトップクラスのセキュリティになったと。これが一条家の常識か……底が知れねぇぜ。


「んじゃー安心だねー」


「ですわ!」


「うーやっぱり、安心できない!その大きな、大きな胸!いつ彩雫くんが魅了されるか!さ、彩雫くんは私のものなのに!」


 いや、八重さんの物でもないし魅了もされないよ?多分。……あの胸はブラックホールのように吸い込まれるような魔性の魅力を秘めているからな。とはいえ、俺はそこまで見境がない男じゃない。そう、どこかの腹黒イケメンと違ってな。……なんだよ、事実だろ?


「老若男女問わずわたくしのこのわたくしに魅了されてしまう、それはしょうがないことですの……それが彩雫くんであっても魅了されてしまうのは仕方のないことであり、彩雫くんの自由ですの!」


「ぐ、ぐぬぬ」


 リアルでぐぬぬとかいうやつ初めて見たわ。


「いや、ほら、ゆりっちにも魅力はあるっしょ?でしょ、さいだっち?」


 おれ?!


「まぁね」


「……例えば?」


「頭いいとか」


「セントレア、前に、学年1位、って」


「料理がうまいとか」


「お店、開ける、くらい作れる、って」


「所作とか」


「ご令嬢でしょ?できるんじゃない?」


「……えっと美人」


「いやぁ、せれあっちも美人っしょ」


おい、高宮さんはどっちの味方なんだよ。


「……」


くそ、なんか、なんかあるか?あ、愛が重い?だめだ、うーん。


「じゃあ、勝負とかどうかな?ちょうど今テスト期間だしテストで点数高かった方が勝ちで」


 あ、それは……


「おーっほっほ、勝負、いいですわね!」


「やる!絶対負けない!」


 知ってた。セントレアは勝負事好きだからな。ゲームやってるのも優秀すぎて何事も簡単にマスターして勝負にならなかったから上には上がいるゲームにハマったかららしいし。俺らからの前評判でたいそう持ち上げられてる八重さんとの勝負なら、血が滾ってしょうがないだろう。


 めんどくさいことになるってのは一度置いておいて、この勝負だいぶ見物じゃないか?正直どっちが勝つのか予想が付かない。


「テスト、うぅ、その話はよくない」


「あれ、椎名さんって勉強もしかして」


「に、苦手。興味ない、こと、覚えられない」


 まじか、勉強できると思ってたわ。言われて見たらログイン時間俺より長いし勉強してないことは自明の理だったかもしれない。


「ち、ちなみに前回の順位は?」


「……184位」


「駄目じゃん」


 うちの学校では廊下に全員分の順位が貼られる。だから最下位が誰か分かるようになっている。比較的頭のいい、いわゆる進学校だからこそランキングをつけることで生徒のやる気を引き出しているわけだが、じゃあ最下位が何位かというと大体200位くらい。つまりほぼほぼ最下位だな。


「ちょ、しいなっち!せめて、赤点回避しないとやばやばじゃん。しいなっちもうちらのこと先輩って呼びたくないっしょ?」


「う、そ、それは」


「てわけで、勉強会今日からやるしかないっしょ!いいっしょ、さいだっち」


「別にいいぞ」


 ちょうど八重さんに片付けしてもらったばかりだしな。


「セントレアはどうする?」


「行きたいのはやまやまなのですが、男性の家にお邪魔するのだけはお母さまに止められて居るのですわ……」


「あー、お嬢様だしー色々噂されたら困る的な?」


「い、いえ、そうではないのですが……これは一条家のちょっとした秘密ですのでご内密にして欲しいのですが」


「ち、ちなみに、秘密を、洩らしたら、どうなるの?」


「記憶消去を……」


「じゃ、じゃあいいかなー」


「冗談ですわ。身内の恥ですのであまり言いたくはないのですが、父が母を家に招いた際、自分を抑えられずに……そ、その結果わたくしがいるということですわ!」


「あーね?わかるわー男は信用ならないっしょ」


「さ、彩雫くんもそうなの」


 ここで俺に振る?!いや、否定できないところはあるけどさ。そもそもオタクなんてかわいいキャラクターのために生きているわけで……


「そうじゃないと思いたいけど衝動的なものに突き動かされちゃうのが男だし、な?楓」


「うぐ、そ、そうだね。ほら、女性だってイケメンを見たら「さっきの人イケメンじゃなかった」とかやるでしょ?」


「そうですの?」


「私はやらないかな」


「私、も」


「だよねーうちもやんなーい」


「……」


 ドンマイ楓。ここは例外ばかりだったみたいだ。


「あ、僕お腹がすいたな。ね!彩雫も早く八重さんのお弁当食べたいでしょ?」


 ここまで慌てる楓も珍しいもんだな。もう少し見ていたい気もするが助けてあげるとしよう。


「そうだな。八重さんの弁当毎日食っても飽きないし」


「本当にお弁当貰ってるんですのね」


「おうよ、マジ美味い。そうだ、セントレアも料理は詳しいんだよな。ちょっと食ってみる?いい八重さん?」


「え、いいけど、彩雫くんのは彩雫くんの!食べるなら私の方から、はい」


「玉子焼き、美味しそうですわ!はむはむ、これは白醬油がいい味を出していますわね」


「使ったのは薄口醬油なんだけど」


「え?」


「え?」


 間違えるんかい。


「わたくし和食は普段作らないもので正直あまり詳しくないのですわ……うぅ、穴があったら入りたい」


「これこそセントレアだね」


「うん、生で見れて、ちょっと、嬉しい」


「なになに?どーいうことー」


「いやね、セントレアああ見えて天然で残念なところがあってな」


「うん、重要な所で、変なミスする」


「あー理解理解。でもあんま意外じゃないっしょ?アニメとか漫画だとあぁいう系のキャラは落ちてこそ輝くみたいな?」


「そうなんだよなぁ、実はちょっとこうなるの楽しみにしてた」


 お金持ちで金髪美少女が屋上の狭いスペースのそのまた狭い場所に頭をうずめて恥ずかしさにうなだれている光景は正直面白い。


 結局、5分くらいしたころに八重さんが慰めに入るまでうなだれていた。

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