ですわ

「おはよう」


「あ、彩雫、おはよう」


「三矢くん、おはよう、もう大丈夫、なの?」


「あぁ、ただの風邪だしな。薬飲んで寝たらすぐ直るって」


「ふぅん?本当に?それ以外の要因もあるんじゃない?」


「え?いや」


「おはよう、彩雫くん!よかった!」


「おう!おかげさまでな」


「ちょ、ゆりっちちょま、はや……ふぅ、さいだっちぃゆりっちの看病どーよ?さいこうっしょ?」


「最高だったわ」


お粥めっちゃうまかったわ。しかも色々と溜まってた洗濯とか片付けもしてもらっちゃったし。


「でっしょー?うちも前に看病来てもらった事あんだけどーまじ秒で病気治ったし?ゆりっち女神っしょってか?嫁にほしいって感じ?」


「わかる」


「あったね薬と寝る以外の要因」


「うっせえ」


「うらやましい、うらやましい、とても、うらやましい」


「って言われてもな?椎名さんももし体調崩したら看病してもら「私も、三矢くんのおうち、行ってみたい」」


「あ、そっち?」


「きょ、杏華?!もしかして彩雫くんを!」


「私も、友達の家で、遊びたい、だめ?」


「それ、まじありよりのありじゃね?来週からテスト期間だし?さいだっちの家で勉強会とかよくね?」


「うん、したい」


「じゃあ決定ねー。残念だったねーゆりっちもかえでっちもさいだっちの家独占できなくて」


「べ、別にそんなこと思ってないもん!」


「……ほんとかなぁ」


というか、独占って俺の家なんですけど。


「まぁ勉強会は良いけど。一人暮らしだから家族もいなくて来やすいだろうし」


「じゃーけってー、良かったねしいなっち」


「うん!やった、楽しみ」


青春に憧れてたからな、椎名さんが無邪気に喜んでいるのを見るとホッとするよ。……これが母性?


「そういやさ話変わるけど、今日学校の様子ちょっと変じゃない?なんか校門に黒塗りのバカでかい車あったし」


「リムジンっしょ?なんかーどっかのお金持ちが来てるみたいな?」


「あー金髪の美少女がいたみたいでなんか話題になってるね」


「ふーん、こんな学校に何のようだ?」


「私も見たけど制服着てたし転校してくるんじゃないかな?」


「まじか」


 この学校頭悪くはないけど、かと言っていい所もないぞ?しいて言うなら私立で校則がめちゃくちゃ自由なことぐらいで。金髪おっけーだからここに決めたってわけじゃないだろ?


「まぁ、僕たちとは関係ないんじゃないかな?」


「うん、お金持ち、価値観の、違い、正反対。友達にはなりにくい」


「でもー同じクラスかもよー?」


「まぁありえるけどそんなアニメ見たいなことあるわけないじゃん?」


『キーンコーンカーンコーン』


「あ、じゃあ私たちは教室もどるね。じゃあね彩雫くんみんな!」


 八重さんと高宮さんが教室に戻り、騒がしかった教室も皆が席に座るのに比例して静かになっていく。


 ……


 …………


 ………………


 時が進むと比例して同時に静かになった教室が少しずつ喧騒をとり戻す。


 あれ?伊木先生が来ない。いつもならもう来るはずだけど……


『ガラガラ』


「ごめんね遅れちゃって、色々とあった物だから。えー今日は皆さんに重大発表があります!」


 ま、まさか!


「先生が結婚?!」


「いやいや三矢、先生っしょ?そりゃないだろ?なぁ?」

「そうそう」

「ちょ待ち、結婚詐欺っていう線もあるっしょ?」


「そうね、先生はもう行き遅れる寸前……あり得るわね」


「シクシク……先生は目から涙があふれて止まらないので帰ります」


「ほら、彩雫が始めた物語でしょ?うまく収めてよ」


「いやだってなぁ。ちょっと楓が納めてよ。得意だろ?」


「はぁ、先生。皆がからかうのはそれだけ慕われているいい先生ってことでしょう?それに、既に時間遅れているのにさらに遅れてしまいますよ?」


「さらに遅れて?!月城くんまで……」


『ガラガラッ!』


「先生!わたくしを忘れるとはいい度胸ですわ!……およよ、わたくし泣いてしまいますわ」


 き、金髪美少女!


「ご、ごめんなさいね?ごほん!えーとこちら、このクラスに転校してくる事になった……」


「一条高校から転校して参りました、一条・セントレア・シアヌスですわ!オーッホッホッホ!」


 一条高校……日本で1位2位を争う企業、一条グループが作ったセレブ高校。わざわざそこから転校してきた一条と名前の付く女性……ご令嬢じゃねぇか。え、まじ?これなんてラノベ?


「どうして皆さん盛り上がらないんですの?!わたくしのような美少女が転校してきたら盛り上がるものじゃありませんの?!」


 ちょっと超展開についていけてないですね。それに何か無礼を働いて闇に葬られたくないしな?いくら美人に飢えたバカな男子高校生でも危機感を感じるだろ。


 おい、禿田お前美少女好きだろ、行けよ。とアイコンタクトを送ると……


 確かにここで引くのは男が廃るなぁいっちょ行くか。と言いたげに苦虫をかみつぶしたかのような顔をした。グッドコミュニケーション!


「あー、一条さんよぉ?一条高校ってぇと通うだけでステータスになるほどのガッコだろ?なのにどうしてわざわざうちまで来たんですかい?」


「おーっほっほ、知り合いと合うため等色々理由はありますが……楽しそうだったからですわ!」


「楽しそうだったぁ?」


「ですわ!ですので、皆さんぜひともわたくしと気軽に接してくださいまし!」


「あー俺らにゃお偉いさんのルールとかわからねぇがそれでもいいってんならいいけどよ」


「?当たり前のことですわ。むしろわたくしがわからないことがありました教えてくださいまし」


 こ、これはまともな人なのでは?


「「「「「「うぉぉぉおおお!」」」」」」


 そうと分かったとたんこの盛り上がり用だよ。わかるけどね?この時期に編入してくるとか普通じゃないからね、普通じゃない時期に普通じゃないこの学校に来る奴が普通の可能性は低いけどさ、もうちょっとね?ごまかすというかさ、ね?


「ちょ、これ、他のクラスのやつ嫉妬もんじゃん?」

「俺らマジラッキー」

「一条さん……綺麗だ」


「ねぇねぇ、一条さん。一条高校ってどんなとこなの?」


「八重様に劣らぬ美貌……八重様と対立しうるかも……それだけは回避しなければ」


「一条さんって一条グループの?」


「おーっほっほ、これぞ求めていた反応ですわ!ですが、わたくし聖徳太子ではありませんの一つずつお願いしますわ!はい、そこの方!」


「一条高校ってどんなところだったの?私実は憧れてたんだよねー」


「そうですわね……まずごきげんよう症候群はありませんわ」


「え、無いの?!」


「ないですわ。あれはアニメの中だけですの。やっていることは普通の学校と変わらないと思いますわ。わたくしのこれは素ですわ!おーっほっほ!そこの方」


「一条さんって一条グループの?」


「ですわ!次ですわ!」


「一緒に遊びに行けたりするのー?セントレアちゃんって呼んでいい?」


「むしろ望むところですわ!わたくしに関して一条家が絡むことは基本的にないと思いますわ。ですので、是非普通のちょっとお金持ちな女の子として見てほしいですの!次」


いや、女の子って年齢でもないけどな?にしても皆凄い盛り上がりだな。高宮さんの言う通り同じクラスになったけど、まぁ深く関わることはないだろう。


「一条さん、いやセントレアさん……許嫁とか彼氏。いや、知り合いってどなたか聞いても大丈夫っすか?」


 おい、鈴木もしかして!?お前惚れやすすぎじゃない?!将来壷とか買うなよ?金貸さないからな?


「べっ、別に彼氏とかそういうのじゃありませんわよ!そうですわね……実はわたくしも名前を知っているだけで顔は知らないのですが、三矢彩雫くんと椎名杏華さんはどちらですの?!」


……


…………!?


「へ?俺?いやいや、一条家のご令嬢とのつながりなんかないぞ?なぁ椎名さん」


「うん、ない、と思う」


「お、おい、鈴木大丈夫か!」

「鈴木!勘違いかもしれないっしょ?諦めるには……」

「ぐふっ、た、確か、に」


 そうだ、勘違いの可能性が高い。椎名さんと俺と一条さんとでつながりがあるってことだろ?そんな関係な……いや、待てよあの「おーっほっほ」というテンプレお嬢様高笑い、そして一条・・シアヌス。


「気が付いたようですわね!そう、わたくしこそセントレアですわ!ソーダ、アプリコット!おーっほっほ!」


「セントレア!?ちょ、なんで?」


 てか、ここでゲーム名高々に叫ぶのやめてもらえます?!あと、本名をゲーム名にするんじゃありません!


「おーっほっほ、言ったじゃありませんの。楽しそうだったからですわ!」


え、椎名さんなんか知ってた?


「何で、この学校って?それに名前、も?」


 椎名さんも知らないならゲーム内でセントレアさんに言ったわけじゃなさそうだ。どっかでミスって身バレしたか?


「おーっほっほ、一条グループの力を舐めてもらっちゃ困りますわ!それくらいちょちょいのちょいですわ」


「いや、個人情報」


「……ダメ、でしたの?」


「う、ううん、大丈夫。会えて、うれしい」


普通はダメだけどな?でも、俺らに会いたくて来てくれたわけで……そんな”シュン”と落ち込むのやめてくれ。クラスメイトの俺を見る目が冷めたものになってるから。


「良かったですわ!わたくしソーダとアプリコットの話を聞いていて羨ましかったのですわ!わたくしだって青春したいですの!だから、その、改めて……お友達になってくださる?」


「もちろん!仲間だろ?あ、でもゲーム名で呼ぶのはなしな?ちょっと恥いから」


「ん、友達。ゲームでも、お世話になった、し、私と違って、セントレアは、変わらない」


 これはまた賑やかになりそうだ。


「メディーック、メディーック、鈴木傷は浅いぞ!」

「ちょ、死ぬな、鈴木ー!」

「燃え尽きたぜ真っ白にな……」

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