スリーサイズ

「楽しかったな」


「うん!ちょっと前の私じゃ想像もできないくらい楽しかった!」


 打ち上げ終わり俺は今、八重さんを家まで送っている。


 というのも……


「もう遅いしー?ゆりっち可愛いからさーさいだっちが家まで送ってあげなし」


「え」


「やった!彩雫くん、ありがとう」


 楓と帰るだけだったからいいけども、帰ってもゲームやるだけだし、ちょっと遅れるくらいいいんだけどもね?


「うちとーしいなっちはー月城に送って貰うしぃ気にしなくておけね」


 ……という訳で見送り中だ。


「いやーまさか合同でやることになるとは思わなかったな」


「鳳花が最初に企画してたみたい」


「ふーん、それなら納得だわ。なんかもう決定事項みたいに話が進んでたから。高宮さんスペック高いよな」


「多分、月城くんも絡んでるよ?」


「なるほど、あの2人が組めば最強か」


 気配りの鬼高宮さんと人心把握の鬼楓の2人だ。隙が無い。絶対に敵に回したくないわ。


「ふふ、あの2人ってどこか似てない?」


「そうか?今日とか高宮さんはいろんな人と話してたけど、楓はずっとひとりでにやにやしてたぞ?いや、だからか」


 まず、共通してるのは腹の底が見えないことだろ?あと顔が整ってること。あとは性格か。今の楓を見たら性格は似てないかもしれないけどな。俺と出会う前の楓は確かに高宮さんと似てるかもしれない。


「月城くん何があったの?月城くん教えてくれないから……」


「いやーあいつにとっては黒歴史だからな。いつまでたっても言わないと思うから言っちゃうけどあいつ今でこそ性格悪いけど、まぁ根はいいだろ?」


「うん!」


「んで、頭良くて顔もいい、人付き合いは上手いってんでまぁモテてたんだわ。でも、性格悪いからさ調子乗って女遊びしまくっててな?別に何があったってわけじゃないんだけど、ちょっと素性の悪いギャルとかに囲まれて女の世界の怖さを知ったってわけ。だからほら、女子苦手なのはみんな気が付いてると思うけど特に高宮さんは警戒してるでしょ?」


「少し腑に落ちたかな……私にはちょっと優しいかな?って思ってたんだけど、生まれ持ったものに振り回される。私と過去の自分を少し重ねて見ていた」


「そうかもな、あいつ根はいいからな」


「随分と信頼してるんだね?」


 八重さんなんか笑顔が怖いですよ?


「ま、親友を信頼しないでどうするってね」


「椎名さんも信頼してるみたいだけど?」


「椎名さんは俺の兄貴で相棒だからな、皆の兄貴になってるのには驚いたが。生き生きした椎名さんが今日は見れたからいいけど」


「正直、最初の頃はたまたま彩雫君とつながりが出来て付いてきているだけで友達の友達くらいの関係性だと思ってた。でも関われば関わるだけ椎名さんの人柄に引かれるのが分かった」


「そうなんだよな。俺も相棒を信じてるとはいえゲームはゲームだろ?もしかしたらっていう疑念はあったんだけどさすぐに「アプリコットはゲームもリアルも変わらないな」って気が付いたよ」


「すぐに仲良くなってたもんね?」


 おっと、なんか寒気がする。おかしいな。


 八重さんの言う通り俺らはすぐに仲良くなれた。付き合いだけで見たらもう数年になるんだ。リアルで話してもこう、”ビビッ”っと来るものがあったからすぐに仲良くなれたんだろう。でも、それを言うなら八重さんもだな。気が付いたら一緒に飯を食べて、こうして八重さんの家に向かっている。


「八重さんの家ってこっから近いの?」


「うん!ここまっすぐ行って右に曲がった所にあるコンビニの近く」


「あーその近くか」


 いつも学校出て別れてたけど案外近いな。実家がそこなら高校まで徒歩圏内だし通いやすいだろうから羨ましいわ。


「この学校地元のやつらも多いけど誰か近くに住んでたりするの?」


「貝田さんが近いかな?他にもたくさん」


「そりゃいいな、なんかあったら助けてもらえるし」


「彩雫くんの地元は隣町だもんね。そういえば、どうして一人暮らししてるの?」


「あれ?言ってなかったっけ?うちの両親に青春のためにも金は出すから高校生で一人暮らし絶対したほうがいいって追い出されてさ」


「青春のためにも?随分と、その、個性的なご両親だね?」


「気を使わなくていいよ変な親だろ?漫画家とラノベ小説家の夫婦が変わってないわけないし」


 まだ、お前がいると邪魔だからとかいう理由の方が納得できるけどね。なんだよ青春のためって。ラノベじゃないんだから一人暮らししててもなんもないだろ。


「彩雫君のご実家は創作一家なんですね?ということは彩雫くんも?」


「まぁ、小さい頃から手伝ってたからできなくはないな。けどゲームの方が楽しいし特にやってない。八重さんの家はなんかすごいって聞いてるけど」


「すごいなんてことは……ただ伝統があるというだけ」


「ふーん?伝統があるってのが凄いと思うけどね。何やってるの?」


「色々かな?華道に茶道、料理に武道」


「なるほど。だから八重さん何でもできるんだ。まだまだ知らないことは多いな。正直こういう話題って振りにくいし」


「何でも聞いてくれていいのに……え、スリーサイズ?上から」


「言ってないよ?!言わなくていい言わなくて」


 聞いてもよくわからんし。


「彩雫くんシャイなんだから……家ついちゃった」


 ここって……


「すご」


 馬鹿広い日本家屋、さ、さすが伝統ある家……手入れ大変そう。


「お手入れはお手伝いの方がやってくださるから」


 お手伝い。


「ま、じゃあ俺も帰るわ、またな」


「さ、彩雫くんちょっと待って!」


「ん?」


「えっと、今日ね、言われたの……八重さんすごく楽しそう、良かったって。……今の笑顔の八重さんの方がいいねって」


 それはいい事だ。俺は、いや、多分高宮さんも八重さんが皆の前でもそのままの八重さんでいられるように気を付けてきた。それが少しでも実を結んだということ。


「ありがとう、彩雫くん」


「いや、実際俺は何もしてないよ。ありきたりなセリフだけど変わったならそれは八重さんの行動の結果だろ」


「ううん、傘を貸してくれたあの時、彩雫くんの笑顔を見て……私は変わることが出来た。彩雫くんと出会っていなければ私は未だにつまらない人生を送っていたはず」


 真面目な……皆からみた理想の八重さんに戻り言う。そして、満面の笑みを浮かべて口を開く。


「彩雫くん……本当にありがとう」


「お、おう」


 不覚にもドキドキしてしまう。いつもの、ひまわりが咲いたかのような楽し気な笑みとは異なる……色々な感情を、思いを乗せたにへらとした笑顔。清楚な雰囲気を待っとった八重さんのその笑顔は仮面をつけた姿もまた八重百合だと思わせる程に鮮明に脳裏に焼き付いた。


「こ、こっちも毎日楽しませてもらってるし……ま、今後ともよろしくな」


「う、うん!」


「そ、それじゃ俺は帰るわまた明日」


 手を振りながらその場をささっと後にする。


 ついつい逃げ出すように別れてしまった。未だに心臓がどきどきしてる。いったん深呼吸しよう


「ひっひっふー、よし」


 はっくしょん、あーさみぃ、帰ろう。

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