椎名杏華の隠されし能力

「よっし、椎名さんの応援しに行くか!」


「そうだね、1回戦八重さんと高宮さんの試合優先したし」


「あー絶対ドッジは負けないからあとでもいいとか言って優先したけど、うちのクラスってそんな強いん?」


「ほら、うちのクラスバカが多いから、サッカーとかバスケとは違ってほぼ全員素人のドッジは素の身体能力が出て……イレイ、貝田さんもいるし」


 なるほど、バカ力にやるゴリ押しか。バカというのは良くないかもな。うちのクラスは素直なやつが多い。それはノリの良さからして分かるだろう。小賢しいことを考えないからこそ素直な力が身につく。


 ちなみにバスケは1回戦敗退です。


 え、サッカー?負けたよ!0対3でコールド負けだよ!


「椎名さん端の方でしょんぼりしてないかな?」


「最近貝田さんと話してるのは見るから大丈夫だと思うよ?」


 そうなのか。貝田さん俺にはちょーっと当たり強い気がするけど、アニメネタとか乗ってくれたしオタク気質同士で気が合うだろうから以外でもないか。正直俺らと以外話してるの見たことなかったから安心する。……これが母性。


「彩雫、流石にそれはちょっときもいかも。誰かに聞かれて椎名さんの耳に入って引かれてもしらないよ?」


「んや、こんな会話いつもしてるから大丈夫」


「ならいいか」


 いいのいいの。こんなもんで引かれるわけがないからな。安心してほしい。安心していいのかわからないけど。


 さてさて、少し遅れちゃったけど試合はどうなってるかな?


 ………………


 …………


 ……


「ところでさ、あれって椎名さんだよね」


「せやな……隣に貝田さんもいるし」


「僕の目がおかしいのかもしれないけど、椎名さんきもいくらいの動きで全部避けてない?」


「せやな……回避性能レベル5付けてるんだろ」


 おぉ、まじで当たらない。相手が強かったのか自分コートには残り2名、貝田さんと椎名さん。とはいえ、相手もコートには2名。そのうち1人と外野の1人がうまい。今少し見ただけでもわかる、経験者だ。その経験者が連携をしつつ投げる弾丸サーブを椎名さん目掛けて投げるが、当たらない。


「まじか!椎名さんやるじゃん!」


「多分、貝田さんに投げるとボールをキャッチされるから椎名さんを狙ってると思うんだけど……」


 当たらないと。


 おぉ、避ける避ける。


「くっそ、何で当たんないのよ!」


「ちょっと、口悪くなってるよ?」


「そんなこと言ったって……あっ」


 冷静さを見失ったのか今までと比べると勢いの劣った球を椎名さんがキャッチする。


 ボールをおどおどと貝田さんに渡そうとするが……拒否。あるよねーボールキャッチした人が投げないといけない暗黙の了解みたいなのあるよねー


「椎名さん行けー!」


「椎名さんファイト―」


「お、気付いたな」


 ふんす!と気合いを入れて……投げる!ボールは空高く舞い優しく外野のチームメイトのもとに!ってダメじゃん。性格的にパスはしないだろうから、運動神経ェ。避けるのは出来ても投げるのはできないと。


 ボールは外野から貝田さんに回される。


「おぉ、貝田さんすげえな」


大谷かよってくらいすごいスピードで投げるじゃん、キャッチも出来て球も投げられる、二刀流ですか?


「彼女身のこなしが普通じゃないんだよね……」


 確かに普通じゃない。投げる球はなんか馬鹿早いし、外野が投げたボールが少し逸れてもバレエ選手のような動きでキャッチするし。とか言ってる間にも敵チーム0人に……終わった。


「なんか一瞬で終わったな」


「だから言ったでしょ?負けないって」


 こりゃあ負けないわ。




 ~~~~~




「結果発表おおおおおおおおおおおお!」


 いえーいぱちぱちぱち。


 はまちゃんのモノマネをしながら壇上に立つ校長先生に合いの手を入れる。


「ごほん、えーこれより各競技上位3組を発表していきます。呼ばれたチームの代表は前に来るように」


 サッカーは……3年1組が1位、2年5組が2位、3年3組が3位か。やっぱり3年生が強いんだな。んで、バスケは


「1位2年1組!2年生ながら素晴らしい戦いでした。わたくしも拝見させて、えー、頂きましたがっ中々にいい試合でした」


 八重さんと高宮さんのクラスが何と優勝。いや、ではないな。予測はできたことだけど、2回戦敗退の俺らから見たらすごいことだ。


 代表として高宮さんが校長の前まで歩いていく。へそ出しスタイルに気崩した見た目とは裏腹に八重さんとどこか重なる美しい動作で校長先生からトロフィーを受け取る。だが、再びこちらを向いた時には満面の笑みを浮かべ軽快な足取りでクラスの輪へと戻っていく。


 大抵の男はギャップに弱い。委員長が実はギャルだったとか、クラスでは静かな女子が笑顔ではしゃいでるのを見たときとか、色々とあるがギャルが清楚な瞬間にも弱い。これは男ならいや、女でもわかるよさだろう。


「「「「「うぉおおおおお高宮さーん」」」」」


 だからといって、男どもがうるさすぎるがな。君たちのクラス負けてるんだよ?


 結局バスケの結果は1位2年1組、2位3年5組、3位3年3組。やっぱり3年生が強いな。とはいえ2年生もちょくちょく入っている。1年生は……頑張って!まだドッジと卓球がある!


「ドッジボールの3位、2年4組!」


 はいはい。


「2位!3年1組!」


 サッカー1位だったところか。


「1位!2年2組!」


「よっしゃあ!ナイス椎名さん!」


「う、うん!頑張った」


「貝田さん、の、おかげ」


「いいえ、椎名さんの実力よ。まぁ?私が強かったのも事実だけどね?ムフフ、八重さんにいい所を」


「貝田さん、前行かなくていいの?」


「そうだったわね。あ、でも……ここまでやって言うのもなんだけどあまり目立てないのよね」


 ほんとよ。普通に目立ってたよね。いまさら感あるけど、まぁ事情があるんだろう。となると誰が前に行くんだ?一番活躍してたのは貝田さんだろ?次に目立ってたのは……


「椎名さんか……」


「う、えと」


「椎名さん、その悪いんだけど、行ける?」


 あ、その言い方をすると!


「い、行けます」


 ほらあ!椎名さん困ってる人ほっとけない質の人なんだから!


「椎名さんまじで大丈夫?駄目だったら他の人に頼めるだろ?」


「う、ううん、頑張る」


 行った!校長の前までおどおどと歩いていく。どこか保護欲を掻き立てられるようなその姿に母性を感じたのか多少騒がしかった人達が静かになる。


「2年生ながらよく頑張りました。卓越した技術にわたくし年甲斐もなくはしゃいでしまいました。はい、おめでとう」


「あ、ありがとうございます」


 な、何だ?背中を向けたまま手を上に……はっ、あれはワンピでアラバスタ編の最後にビビと別れる時の!そうか、椎名さんは俺たち全員が仲間だとッ!そういいたいわけか!なら俺たちがやることはただ一つ。


 手を上げよう。


「壮観だな」


「そうだね……」


 俺たちは争い合ったけど仲間だ。それを椎名さんは思い出させてくれた。


 あ、椎名さんちょっと恥ずかしそうだ。


「後ろ向きなら、恥ずかしくない、と、思ったけど、恥ずかしかった」


 でしょうね。


「えー最後に卓球の発表をします」


「3位、1年4組」


 おお、ついに1年生が!頑張ったな。


「2位、1年2組!」


 連続だ。これはもしやもしやだぞ?


「1位、2年2組!」


「あー1年生惜しかったね」


「そうだね」


「あれ?てか2年2組って……うちじゃん」


 お前ら頑張ってたんだな……ごめん。

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