2年1組 VS 2年2組 決着ッ!

「ご、ゴッドハンド!ぐあああああ!」


 き、決められた……。だが、まだあきらめるには早い。まだ半分くらい時間は余っているはずだ。


 キックオフ!楓が早速、無理やり射線を通し俺にパスを渡してくる。なぜ?俺?え?ドリブルしろって?楓の方がうまいじゃないですか?いや、違う!楓の本領は俺の援護!つまり、俺は何も考えずにドリブルをすればいい、あとは楓が合わせてくれるはずだ。good communication!


「彩雫くん!頑張れ!彩雫くん!頑張れ!」


 八重さんが俺を応援してくれている。


「が、頑張って、あ、相棒!」


 し、椎名さんが応援してくれている!


「ガンバ―さいだっちあとついでに月城ー、あとあとついでに1組ー」


 高宮さんも雑に熱を入れて応援してくれている。


 ……ん?あのー八重さん1組の応援全然してなくないですか?高宮さんもついでだしな?1組かわいそうに


「そ、そんな、馬鹿なぁぁぁぁぁ!」


「くっそおそおおおおおお!」


「ぐあああああああ!」


 1組のやつらが倒れていく……!ちゃ、チャンスだ!


「ま、まだだぁ!お前にッ八重さんはやらん!うおおおおおおおお!」


「さ、彩雫!危ない!」


「ひょいっと」


 最後に立ちはだかった、娘の結婚相手が来たクワトロ・バジーナのようなセリフを吐く男がスライディングを仕掛けてくるがボールを浮かして抜く。こえぇミスったら足削られててもおかしくなかったぞ?だが、これであとは、ふらふらしてるキーパーのみだ。イナイレが好きみたいだからな、敬意を持って返そう。


「ペガサスショット!」


「うおおおお!三矢ないっしゅー!」

「ないっしゅーはサッカー部以外使わないっしょ。ナイスシュート!」

「八重さんパワーぱねーわ」


 いえーい、ハイタッチハイタッチ。いや、まじ八重さんパワー凄いね。てかうるさ!モブの声がうるさすぎてマジ何言ってるかわからんわ。近所迷惑だからね?最近そこらへんディープなとこなんだから気を付けようよ?苦情たくさん来たら学校が困るでしょ?


「彩雫、やるじゃん」


「お前、全然出番なかったね。八重さんパワー強すぎて」


「……ねぇ彩雫。僕目立ちたくないの知ってるよね?」


「そりゃあね?」


 女子が苦手な癖にイケメンだからな。イケメンはイケメンで視線は集めるわでめんどくさい所がある。いや、あるんだろう。今も声を出して応援してる奴こそいないけど楓のこと見てるやつは多いしな。


「でも、それ以上に僕が負けず嫌いなことも知ってるよね?」


「……そりゃあね?」


 何てったって負けず嫌いな俺の親友なんだからな。しょっちゅう争ってるし。テストの点数とかね?全敗だけど。


「じゃあこの試合決めた点数で勝負しよう、はい、スタート」


「ちょ、まじ?」


 あちゃーあいつやる気になっちゃったねこりゃ。楓がやる気を出すことは基本ない。激レアだ。ヒヒイロカネくらいでない。楓はいつも無難に何でもこなすがそれでも大体平均だ。何でも平均いつでも平均……それすなわち平均以上のずば抜けた能力を持っているということになる。簡単に言えば手加減してうまく調整してるってことだからね?アニメかよ!でもそれくらいの能力が楓にはある。


「くそっ、俺らの花を2輪ももって行かれて、試合にも負けるわけにはいかない!へ?」


「っとごめんね?」


 キックオフしてすぐに楓がボールを取る。


 蝶のように舞い蜂のように刺す。何らかの上級者が最適なルートを最適な動きで進んでいくからこそそのように見えるんだろう。楓がそうだ。あーあ、1組終わったよ。でもこれは俺との勝負でもある。負けるわけにはいきません。勝算はある。


「はい、とりあえず、1点。引きわけ、だね?はぁはぁ」


 こいつは何でもできるけど体力だけはミジンコレベルだ。しいて例えて言うならスキルコピーできるけどステータスは元のままのスライムみたいなものだ。さっきみたいな動きはもうできない。だけど、まだ油断はならない。


「先っきのはまぐれだ……まぐれに決まってる!」


 楓の超プレイがいい薬になったからか、時間が解決したのかは分からないが1組が調子を取り戻す。


 元は1組の方が一歩上手だ。すぐにディフェンスラインを抜けられる。


「くらえ、俺たちの憎しみと嫉み!ファイヤートルネードシュート!」


 す、鈴木止めてくれ!


「そんなシュート簡単に止められる!ゴッドハンド!大切なことを教えてやんよ、憎しみと妬みに囚われてる限り俺らにはかてない!」


 鈴木がアニメの主人公に見える。


「彩雫くーん頑張って!」


「かえでっちもガンバー」


「三矢くん、頑張って」


「そんなこと言ってもよ、八重さんたちが応援してるのは俺ら1組でもっ、ましてや2組でもない!たった1人だ!そんなの羨ましいだろうがよ!」


 1組のモブが言った。


「最初は羨ましかったさ。でも、そんなもの無意味っしょ?重要なのはただ1つ、友情だ!三矢行け!」


 主人公交代の時間だ!主人公は俺だ、それを見せてやる!スロースロークイッククイックスロー緩急をつけたドリブルでまず1人。だが、血走った目でこちらを睨む2人組が行く手を阻む。


「こっからは行かせん!」

「何としても守り通す!」


 ちっ、さすがに厳しいか。


「彩雫」


 さすが楓!俺がパスしたいところにビタでいる。見せるぞ俺らのコミュニケーション!


「楓!」


「彩雫!」


 ワンツー。


 サッカーに詳しくない人に説明するとパスしてパスし返すことだな、うん。上手くハマれば一気に抜ける……が、そのためには言葉を交わさずに相手と意思疎通し、行動を合わせることが必要になる。でも俺は合わせる必要は無い。楓が勝手に合わせる。


「よし、ナイス楓」


 馬鹿め、チームのためとはいえ敵に塩を送るとはなぁ!っしゃこのままシュートを!っく、


「かっこいい所見させてたまるかぁぁぁ!」


 くそ、クワトロ・バジーナみたいなやつにボールを弾かれた!ボールは?!


「想定通り……ありがとね彩雫!それ!漁夫の利シュート……これで2対1僕の勝ちだね?」


 試合的には3対1。時間は残り僅か。


「っち、負けたが、でもナイス!これでもう逆転されることはないだろ」


 だが、1組の士気はとどまることを知らなかった。まぁ、結局3対1でホイッスルが鳴り試合は終了したんですけどね?でも、楓を必死に抑えて、チャンスを作ろうと頑張っていた。何かが違かったら負けていただろう。GGグッドゲーム


「月城、やるじゃん」

「な、まじ普段から本気出してないのもったいないっしょ」

「サッカー部入れし」

「俺は信じてたぞ!」

「やりますねクイッ、僕の想定以上でしたクイッ」


 楓がチームメイトに囲まれている。何てったって今日のMVPだからな。珍しく楓が戸惑っている。激レアだ写真撮りたい。


 あ、高宮さんが今撮ってたな後で貰おう。アイコンタクトで尋ねる……おっけーみたいだ。手で丸を作っている。


 楓もアイコンタクトを送ってくる。えっと、助けて?借りはあるな。ふむ……放置でいいか。変なところで八重さんに対抗意識もやして感情のままに動いた代償だ。まぁ、たまにはこういうのも悪くないだろ。あいつも本気で嫌がってはいないしな。こういう熱い友情に慣れていないだけで。


「彩雫くん!お疲れ様、すごいかっこよかったよ?最後のほう惜しかったね?」


「最後は楓に持ってかれちゃったな」


「でも、ちゃんと活躍、してた」


「ありがとう。高宮さんは?」


「鳳花ならあっち……1組の所」


 なるほど。


「八重さんはいいの?」


「私は彩雫くんと話したいから……それに鳳花に任せておけば何とかなるから」


 高宮さん最強のギャルだからね。最強のギャルは気遣いも人間付き合いも全てが最強だし任せて置いたら何とかなるのはわかる。


 でも、泣いた男たちが高宮さん囲ってるの傍から見てると異様でしかない……お?1組が近づいてくる。


「三矢くん、ごめん!そして2組のみんなありがとう」


「え、いきなり何?」


 1組男子が揃って頭を下げてくる。目立っているのか「なんだなんだ?」と周りの注目を集める。


「俺たちは、醜い精神に支配されていた。でも、この試合を通してもっと重要な物を学ぶことが出来た」


「気にすんなってお前らだって最初からわかってたろ?ちょっと迷子になっただけだって」


 鈴木……


「確かに初めはもっと純粋に2輪の花に触れていた。いつからか俺らと同じクラスに……身近にいることを当たり前に感じそしてそんな当たり前に驕ってしまった。でも、2組が気づかせてくれた。八重さんと高宮さんの笑顔が、そして俺らの友情が、青春が、思い出が。重要なものは他にもいろいろあるって。嫉んでいるだけじゃ発展はないって」


「ふっ、想定通りでしたね、これからも共に青春を楽しみましょうクイッ」


「あぁ、よろしくな」


 うん、青春だね。


「じゃあ、俺たちは行くよ。すぐ試合だろ?俺らの分まで頑張ってくれ」


 あ、連チャンか……体力0無理ぽ。


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