球技祭開始
「ーーーというわけで、怪我だけはしないように球技祭を楽しむこと、以上!」
高宮さんと初めてご飯を食べた日から1週間後の球技祭当日。曇ったおかげで比較的涼しく、最高の運動日和……な、はずなのに教室は真夏のような熱気に包まれている。
「っしゃ、早速行こうぜ!」
「うぜうぜ!」
「俺らに続けー!」
サッカー部の三馬鹿を先頭に球技祭、負ける訳には行きませんとみな一様に盛り上がっている。
「八重さんの試合始まるぞ!」
「いや、俺は高宮さんを!」
「「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」」
あ、全然球技祭関係ありませんでした。というか……
「俺らも初戦だろうが、見に行く時間なんてないぞ?黒板見ろや」
「くそぉ!」
悔しいのはわかる。俺も八重さんや高宮さんに応援頼まれてたのもあるけど、試合見たかったからな。
ほかの学校のことは知らないが、俺らの学校の球技祭は全てトーナメント戦で行われる。初戦で負けても負けは負けで、敗者復活戦があるから、最低でも2試合は行うことになる。即ち、よほど運がない場合を除いて1回は応援できるはず。
試合に前向きになった三馬鹿を連れ、俺たちの
「オィオィ、先輩を待たせるんじゃねぇよ」
「もしかして緊張してちびっちまったんじゃねェですか?」
「「ヒャッヒャッヒャ」」
何だこの世紀末は?え、モヒカン?うわ、筋肉すごっ北斗の雑魚かよ、怖えよ。
「おうおう、やんのかぁ?」
【生田のメンチを切る攻撃】
「あァん?てめェ何言ってやがんだァ?」
【ミス】
やべぇぞ、先輩キレて……
「準備運動しねぇと怪我しちまうからよぉ、やんのはそのあとだよ。ヒャッヒャッヒャ」
い、意外といい人ー!
「いっちにーさん死ィ―、にぃにっさん死ィ!」
準備運動手伝ってくれてるし、ただのいい人でした。
準備運動を先輩の指示のもと終わらせ試合前の最終作戦会議を行う。といっても授業とやることは変わらない。
「試合開始の宣言をしろ!磯野!」
「試合開始ィィィィィィィィィ!」
「さぁ始まりました我ら2年2組の一試合目、解説はベンチの三矢彩雫と……」
「月城楓がお送りします」
はい、僕たちはベンチです。8人制の試合で俺らは11人、つまりベンチが3人いるわけだが、一人欠席のため僕たちがベンチですと。まぁ、これには理由がありまして。委員長がなんか「作戦があります」とか言って「月城くんは出たくなければ試合に基本出なくてもいいので、1組と戦う時は全力を出してください」という他力本願な作戦を楓が受け入れたのと互いに勝てば次の試合がもう1組と戦うことになるので力を温存するためにもこうなってる。
「いやぁアデランスの楓さんこの試合どう見ますか」
「こりゃ女房を質にいれてでもみなあかんでって何やらすの?今どき筋肉マンのネタとか誰もわからないって」
「そりゃそうか」
「で、この試合は結構簡単に勝てるんじゃないかな?」
「え、なんで?」
「まぁ見てたらわかるよ」
……
……
……
「ピピー、試合終了です」
「グワァァ!俺たちが負けるだとォ!」
いや、よわっ。8対0……圧勝じゃねぇか。むしろ先輩達よく最後まで楽しんで戦ってたな。萎えてしまっててもおかしくなかったぞ。笑顔で握手してるし、めっちゃいい人達じゃん。
「彼ら、裁縫部だから別に運動神経良くないし、サッカー部いないから……」
そんな筋肉あるのに?!まて、裁縫……もしかしてただのコスプレ集団か!
「へッ、コスプレこそが我が人生、ここで負けようと人生に一片の悔いなしッ!」
うん、まぁ勝てたならいいか。1組は勝つだろうしここで負けたら俺ら不完全燃焼だったしなそうならなかっただけね?
~~~~~~
「彩雫くん、応援行きたかった……」
「ま、しゃあないっしょ。次どうせあるしー」
鳳花と学校でしっかり話すなんて少し新鮮。今まで話してこれなかったけど、鳳花が彩雫くんたちとご飯を食べるようになって、私と鳳花が仲がいいのが露呈してからは隠す必要もないと話すようになった。
「それじゃ始めるわよ?ピー」
「うっし、そっこーあるのみっしょ!ライトニングドリブル!っしゃあ、とりま2点!」
試合開始直後の得点に場が盛り上がる。とはいえ、盛り上がってる理由は、私にはない脂肪がブルンブルンと揺れているからというのが大きいでしょうけど。ははは、つらい。っとと、そんなこと考えてる場合じゃない、今は試合中集中しなければ。
「八重さん!」
「うん、パス!」
いい感じ。バスケはチームスポーツ。もちろん鳳花みたいな個人プレーもいいけど、私はあまりしたくない。悪いわけじゃないけど、私っぽくないから。
相手は年下でバスケ部も少ない。オブラートに包まずに言うとあまり強くはない。こちらにはバスケ部もいるし鳳花もいる。勝つのは簡単。とはいえ、これは学校行事。
「八重さん、後ろ!」
「あっ、ごめんなさい」
「ピピー」
ボールを取られてそのままゴールを決められる。とはいえ、スローインして試合を再開するとまもなくしてうちのクラスがゴールを決める。ハイタッチ。はぁ、彩雫くんの試合見たかったな。
「八重さんナイスシュート!」
「ゆりっち、ナイスー。ちょ、もっとテンションあげてこー?」
「はぁ、優勝するならまだまだ試合をすることになる。体力は残しておくべきでしょ?」
「変わらないねー、ゆりっちは、まじめちゃんじゃーん」
「真面目ちゃんですよ、人は早々変わらないでしょ?」
「ちょ、どの口が、さいだっちの前じゃゆりっちかわ……」
「鳳花さん、パス!」
「ハイよー!シュート!いえぇえーい!ナイスパスー」
そうだ試合中集中しないと。
……確かに私は変わったかもしれない。
「八重さんナイスパス!」
でも、本当に変わったのかな。例えば今鳳花と話してる時…本当に素の姿かと言われたら違う。結局人の目があることを意識して自分を偽ってしまう。
「ほかっちドンマイドンマイ」
「ほ、鳳花ちゃん、八重さん、が、頑張って!」
「しいなっち、応援あんがとー!」
鳳花は手を、ついでに大きな2つの脂肪をぶんぶんと振り椎名さんの声援にこたえる。椎名さんに集中が集まりその視線に耐えられないと言うように視線と比例して顔が下に向いていく、首折れないわよね?
でもそんな椎名さんが応援に来てくれた……あの子は自分を偽らず自分の気持ちを今声にして出していた。さっきから私は考えていることを声にしたことはある?ないわね。
「ゆりっち、たまには決めるのも悪くないっしょ?ほい、パス」
残り時間5秒。鳳花ったら、3Pシュートを狙えってことね。彩雫くん、あと鳳花にもお勧めされた白子のバスケ、目立たない主人公が周りの色が強くて使いにくいキャラクターをうまく薄めて新たな色を作り、混ぜていく過程、面白かった。その中の緑の人が放った3Pシュートはよく覚えている。狙って……今!
「ピピー!試合終了!」
「八重さんすごーい!」
「ゆりっちさっすがー」
まぁ3Pシュートは元から邪魔が無ければ5割狙えるのだけど。バスケ漫画を見たからか失敗するイメージがわかなかったし、こんなものかな?
結果は15対6。最後に3Pシュートで決めたからか盛り上がりが凄い。
「ちぇーゆりっちに見せ場持ってかれちゃったー」
「鳳花がやれって言ったんでしょ?」
「べつにー?3ポイントとは言ってないけど―、うちが言ったのは決めてよってだけだしー」
「八重さん!すごいかっこよかった!」
「ね、ね!さすが八重さん!」
「うおー八重さーん!」
「可愛いよ、八重さーん」
「ふふ、ありがとう」
「八重さんってなんでも出来るね!」
「いえ、私だって出来ることしか出来ないですよ?」
……人が、途切れない。ブラックホールのようにどんどんと吸い込まれてくる。ブラックホールも大変ね。勝手に集まってきて離れていかないんだから。
「ちょっと、鳳花どうにかできない?」
「あちゃーここまで膨らんじゃうとうちじゃキレない限り無理かなー?イレイサーもこうなるとねー?」
そうよね……ここまで人が密集すると声も通らないし、そもそも統率が取れないから解散させるのも難しい……いわゆるデッドロック状態ね。
でも、そろそろ彩雫くんの試合が始まる。それだけは何があっても見に行かないと……
どうしよう。
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