英雄人形
昔々、ある異世界の住民が、ある男の
男は日本の広告関係の下請け企業に
ですが、仕事にやりがいを感じていませんでした。
この手の広告動画は
その上、効果もはっきりしないので、商品の売り上げが伸びても、アプリの利用者数が増えても、男が広告を工夫したおかげという話にはなりづらく、誰かに
男は気づいたら異世界にいました。
召喚される直前まで何をしていたのか思い出せず、本当に“気づいたら”異世界で横になっていました。
そこは天井に木の
体を思うように動かせないので、目と首だけで周りを
しかし、男は突然の出来事に頭が
しばらくしてから、
書かれている文字はミミズがのたくったようでしたが、不思議なことに、男には何となく意味が分かりました。
『
つまり、「目が見えるか」と書かれています。
男は同じ調子で、続きを読んでいきました。
紙の説明によると、異世界人たちは彼女らの世界で1000年前に活躍した英雄の
この新しい肉体は、異世界人たちが作った人造人間に、何年もかけて魔術的な調整を
肉体の準備が
と、そういうことのようです。
異世界人が男に何をさせたがっているのかは書かれておらず、日を改めて
紙には、男が古語を読める理由も書かれていました。
この異世界で英雄だった頃の記憶が、この世界に戻ってきたことでよみがえったのだろう、この世界でしばらく過ごせば、記憶がさらに鮮明になるはずだ、とのことです。
(これは夢だな)
と男は思いましたが、そう思うと何だか先の展開が気になって、大人しく異世界人たちの介護を受けることにしました。
男がリハビリ生活を送る部屋はどこも窓が閉め切られて、ろうそくの明かりしかありません。
こんなに薄暗いのは、男の肉体が日光で
実際、男は全身を
食事は野菜が少なく、肉ばかりでした。
味付けのおかげで美味しくはありましたが、風味も食感も男には
世話役たちは男のことを「バンガロン様」と呼びました。
男は最初、日本人としての名前を名乗って、世話役たちにもそう呼んでほしいと思っていましたが、「バンガロン様」と呼ばれ続けている内に、もうそれでいいやと思うようになりました。
世話役たちが言うには、ここはチェルマーシという国の貴族の別邸だそうです。
どうやら国王が誰かに殺されて大変なことになっているようですが、詳しい事情はなかなか聞かされませんでした。
異世界の事情も気になりましたが、男の関心を引いたのは、世話役の女たちです。
どの女も若く美しく、かぐわしい
男がひとりで服を着替えたと言っては褒め、男が正しいマナーで食事をしたと言っては褒め、男が異世界の言葉を順調に思い出していると言っては褒めてくれるのです。
男は彼女たちの褒め方をわざとらしいと感じながらも、悪い気はしませんでした。
「バンガロン様、どうかお聞きください」
男が異世界に来てから1ヶ月
「先王様は人徳に
しかし、野蛮な異民族が先王様を殺して王位に
にもかかわらず、奴らは酒池肉林の日々で、チェルマーシの民に重税を
我々もひもじい思いをしながら、いつここが見つかって殺されるか分からず、眠れぬ日々を送っております。
バンガロン様、無力な我々をどうかお救いください」
現在の君主が暴君なのと異常気象は関係ないのではないか、と男は思いましたが、この世界に魔術があるのは確かですから、そういうこともあるのかもしれない、と思い直しました。
国が
「力になりたきは山々なれど(力になりたいのは山々ですが)」
男が話すチェルマーシ語はまだぎこちなく、古語
「
「ありがとうございます、バンガロン様! ありがとうございます!」
スメルドはすっかり感激しました。
「バンガロン様、どうか我々の
「総大将?」
「
男はこれが夢である可能性も忘れて、
総大将を引き受けるということは、自分の責任で戦争をするということであり、直接的にせよ間接的にせよ、少なからぬ人を殺すということです。気が進むはずがありません。
しばらく
「けだし、あたうべからず(私に総大将なんて
「恐れながら、
スメルドは
世話役の女たちもまた、
断れる雰囲気ではありません。
ここは異世界であり、そういう倫理観で動いている世界。
男に共感してくれる人は誰もいません。
「されば、
それから1週間ほど
「演説はわたくしが代行いたします。ですが、戦闘開始の号令だけは、バンガロン様ご自身になさっていただかなくてはなりません」
「戦闘開始の号令?」
「わたくしが合図しますので、『
間もなく馬車が止まりました。
スメルドが先に外に出て、男に言います。
「少し明るいですが、日は
男が馬車から出ると、
ずっと部屋に閉じ込められていた男は、初めて見る異世界の風景に目を
すぐ目の前に待機する兵士たちは、
男は兵士の総数を聞かされていませんし、数え方も分からないので、(すごく多いなぁ)と
「
スメルドが言ったとおりに男が右手を挙げると、ガチャガチャと
兵士たちが手に持った
「
スメルドが
意味が分からないと、演説は長く思えます。
男は、いつ自分の出番が来るのだろうかと内心そわそわして、何人もの兵士たちから注目され続けているこの舞台から逃げ出したいと思いましたが、何とか
演説を
「
実際、これは「バンガロン様」だけが使える魔法であり、スメルドたちが男をこの世界に召喚した
人造人間に
兵士たちは
その
城壁の上には
「お疲れ様でした」
戦いが始まったばかりにもかかわらず、スメルドが言いました。
男が不思議に思い、質問する言葉を探していると、それより早く、言葉を
「バンガロン様のおかげで、戦いはすでに勝ったも同然です」
その直後、男がばたりと音を立てて倒れました。
スメルドが腕輪を操作し、人造人間に埋め込まれたもう1つの術式を作動させ、肉体と
「残酷なようですが、こんな強大な力、
「
<英雄人形、完>
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