第13話 新しい予告状

 ――時計の針が12時を指す頃にお前が大切にしている指輪を頂いていく。

 

 アリエッタの話によると、予告状が届いたのはとある貴族の屋敷だった。

 予告状には前回と同じで、盗む時間帯や盗む物が詳しく書かれており、どうやら今日の夜、ウルフは貴族の屋敷に現れるみたいだ。

 

『うわ~でっかいね』

 

 そして夜。

 俺たちは、予告状が届いた貴族――サド・マル―ラの屋敷に着くと、照明に当てられた建物に息を飲んだ。

 貴族だから当然お金はたらふく持っている。お金があるから俺が暮らしている所よりデカくて綺麗な屋敷に住んでいる。

 大人数寝泊まりしても問題なさそうな二階建ての屋敷。真っ白な外壁と青の煙突付きの屋根。

 とてもじゃないが俺が稼ぎでは暮らすことはできない。

 塀から見える庭も無駄に広い。俺の家より何倍もデカいからテンションが下がってしまった。

 その庭には大勢の人が灯りを持ってうろうろしていた。

 おそらく全員、盗人を捕まえるためやってきた王国騎士であろう。

 さて俺もここに混ざって盗人を確保するぞ……と思うがそういうわけにはいかない。

 俺は王国騎士でもなく、通報した貴族の関係者でもない。そんな俺が屋敷に入ったら盗人と間違えられて確保される。

 そもそも屋敷門に王国騎士が見張りをしている。まず入ることもできないだろう。

 それに俺は昨日王国騎士団の誰かに殺されかけた件もある。

 これ以上王国騎士と接近するわけにはいかない。

 なので屋敷門から少し離れた場所で俺は足を止めた。

 

「ここからはお前一人で行ってくれ。俺は外で待機しているから。万が一ウルフが物を盗んで外へ逃げたら追いかける」

「分かった。勝手に帰らないでね」

「帰らねえよ。まだお前から報酬もらってないし」

 

 俺は腰に着けていたバッグに手を突っ込み、掴んだ物をアリエッタに渡す。

 

「中に入る前にこれを両耳につけてくれ」

「ん?……これってイヤリング?」

『いいなぁー兄貴からのプレゼント欲しいな。私骨だったのに』

 

 ブーブーと文句を言っているリムを無視して、俺はチェーンの先端に石がついたイヤリングの説明をする。

 

「これはデンツウ石っていう特別な石がついたイヤリングだ。これをつけていれば離れている俺と会話ができる。屋敷に入ったときこれで室内の状況を教えてくれ。あとウルフを見つけた時もこれで連絡しよう」

「分かったわ」

 

 イヤリングを両耳につけているアリエッタに一応言っておく。

 

「壊すなよ? それ高かったんだから」

「いいじゃない。男がケチだとモテないわよ」

 

 そう言い残すとアリエッタは屋敷へ歩いて行った。

 そこは、壊さないわよってツッコむところじゃないのか?

 思っていた返事と違う言葉が返ってきて俺は戸惑ってしまった。

 まさか壊す気じゃないよな。本当に高かったんだからな……?

 やはり渡すべきじゃなかったと後悔をしながら、彼女を見送った。

 

「……」

 

 しばらくアリエッタの背中を見ていた。

 屋敷門を通って、屋敷の中に入って彼女の姿が見えなくなっても俺はずっと屋敷のほうを見ていた。

 

『兄貴!兄貴!』

「……あ?あーリムか。なんだ?」

『どうしたの?ぼーっとしちゃって?そんなにイヤリングが心配なの?』

「別に心配じゃないが……やっぱり心配か。だけど別にそのことじゃないんだ」

『?』

「なんであいつ制服が着ないんだ?」

『制服……?』

 

 この国を守る王国騎士団には組織の一体感を出すため服装が指定されているはず。

 ここで見張りをしている王国騎士もそうだ。

 屋敷門の前で門番をしているやつも庭にうじゃうじゃいるやつらも皆、同じ服を着ている。

 長袖のシャツに黒いスカート。男だったら長袖のシャツにネクタイを巻いて、下は黒いズボン。そして胸には王国騎士の証明である盾の勲章。

 しかし同じ王国騎士団であるアリエッタが着ていたのは黒いワンピース。

 それがなんだか違和感だった。

 彼女のことだから、周りと同じ服を着るのが嫌だからわざと違う服を着ているのかもしれない。もしかしたら彼女の体型にあったシャツとスカートがなかったのかもしれない。

 

「……たぶんサイズの問題だな。あいつ小さいし」

『サイズ?何の話?』

「いや、なんでもない。さぁアリエッタから連絡が来るまで待つか」

『了解だよ!兄貴』

 

 俺は「気にしすぎだな」と自分に言い聞かせて、アリエッタからの連絡が来るのを待っていた。

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