第12話 犯人は狼…?

 盗みの被害に遭ったのはグレディン一家の屋敷。

 一家の主、ギーク・グレディンはこの国で洋服店を数店舗経営してぼろ儲けしている商人である。

 昨夜盗みに入られた時、屋敷には商人のギーク・グレディン。その妻と息子2人、それと雇われた召使いが4人いたらしいが、全員ケガはなし、それどころか誰一人盗人の姿を目撃していないらしい。


「盗まれたのは……むっしゃ……金の延べ棒……はむっ……昨夜、被害者が金庫の開けると……はむっ…入っていたはずの金の延べ棒がいつの間にか中になくなっていたみたい……うーんここのハンバーガーは別格ね♡」

「……」


 喫茶店にやってきた俺は空腹を満たしながら盗みの詳細を聞こうとしたが、アリエッタのせいで集中できなかった。


『アリエッタちゃん……すごい食べるね。破壊神もビックリだよ』


 アリエッタが座ってる席にはハンバーガーが塔のように高く積まれている。

 俺を含め喫茶店にいる客が唖然としている中、こいつは挟まれた肉をじっくり味わいながら食べていた。


「誰も……むしゃ……盗人の姿……むしゃ」

「おい……食べるか、喋るかどっちかにしろよ。別に取らねぇから」


 アリエッタはゴクッと飲みこむと、食べるのを止めて昨夜の出来事を話す。


「誰も盗人の姿は見てないんだけど、事件が起きる前に予告状が被害者宛てに届いたみたい」

「予告状……?」

「そう、予告状にはこう書いていたの……時計の針が12時を指す頃、金庫の中身を頂いていく、って」

『随分丁寧に書いているね。よっぽど捕まらない自信があるのかな?』

「その予告状を届いたときに、被害者は王国騎士団に通報しなかったのか?」

「うん、誰かのいたずらと思って通報しなかったって言っていたわ。でも12時過ぎに気になって金庫を開けると中身は跡形もなくなっていたってわけ」


 ……なるほど。

 話を聞いた俺はサンドイッチを一口。そしてミルクを飲む。


「うーん……まずは盗人のことを調べる必要があるな。今の情報だけじゃ捕まえる難しそうだ。とりあえず飯食べたら被害に遭ったグレディンの屋敷に行ってみるぞ」


 俺がそう言うと、アリエッタは視線を下に向けて言いにくそうな顔をする。そして「あはははは」と空笑いをした。


「実はトモヒコに会うまでに屋敷に行ったんだけど……ちょっと色々あって被害者を殴っちゃって……もう屋敷に行けなくなっちゃったの」

「……は?」


 どうなったら被害者を殴ることになるんだよ。

 俺は呆れて声を失ってしまう。これで「テヘペロ」とか言い出したらこいつに一発げんこつをお見舞いをしているところだった。

 俺の冷たい視線に耐えきれなかったアリエッタは急いで言い訳を始める。


「だって……あいつが「騎士団ごっこは家でやりなさい」って言ってきて……それでカッとなっちゃって……つい」

「つい……じゃねぇよ」

『さっそく出鼻をくじかれたね、兄貴』

「で、でも、盗人の名前は知っているのよ!」

「知っているのか?」

「えぇ、ご丁寧に予告状に名前を書いていてね。名前はウルフ」

『ウルフ?……犯人は狼なの?』


なわけあるか。おそらく本名を隠すための偽名、コードネームみたいなものだろう。

しかし予告状といい、コードネームといい……


「ウルフは楽しんで盗みをやっているみたいだな。予告状とかわざわざ手がかりを残すなんて自分が不利になるだけなのに」

「それは私も同感だわ。でも楽しんでいるということはまた盗むためにどこかに出没する可能性があるってこと。つまりウルフをチャンスが出てくる」

「もし快楽のために盗みをしているなら、また予告状を出すはずだ。予告状が届いたら王国騎士団に通報するように注意喚起をする必要があるな」

「それは大丈夫。もう王国騎士団がしているわ。それにウルフの手がかりを見つけつために私以外の王国騎士が聞き込みをしている」

「仕事が早いな。さすがエリート集団」

「まあね!」

「それじゃ俺たちも聞き込みをするか!」


「分かった!」とアリエッタが頷くとハンバーガーをがぶがぶと食べ始める。

彼女の食べ方は品の欠片もなかった。まるで数日間も餌を与えられなかった獣のように口周りについている汚れを気にせずに食材を両頬に詰めて飲み込んだ。

そして瞬く間に、塔のように積み重ねられたハンバーガーはアリエッタの胃袋の中に消えていった。


『すごい……一瞬であの量を食べちゃったよ』


こいつの胃袋はどうなっているんだ?と思いながら俺はサンドイッチを食べる。

ちなみに朝飯の会計をした時、俺は二度とこいつには奢らないと誓った。

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