第11話 新たな依頼

『兄貴おはよう!朝だよ!』


 太陽の光と脳内に聞こえるうるさいリムの声で、ソファーに寝そべった身体をゆっくりと起こす。

 家に帰ってからすぐに寝ようと横になったが、全然眠れなかった。

 昨日突然襲ってきた暗殺者。あの時は破壊神の力のおかげで命は助かったが、リムの話によると、暗殺者は盾の形をしていた勲章をつけていたらしい。

 盾形の勲章、それは王国騎士団の一員の証。しかも金色ということは王国騎士団ではかなり上の地位ということになる。

 なんで王国を護る王国騎士が俺を狙っていたんだ?

 その答えはすぐに出た。


『爽やかな朝にはやっぱりラジオ体操だよね~いち、に、さん!』


 おそらく破壊神リムのせいだ。

 だけど何で暗殺者はリムが俺に憑りついていることに気づいたんだ?

 リムの姿は見えないはず。俺もこいつの姿は見たことない。

 でも俺を見て「破壊神リム」と言っていた。

 ……まぁ、そんなこと考えても分からないよな。とりあえず面倒なことに巻き込まれていることは確かだ。


「はぁ……疲れが取れねぇな」

『そりゃそんな固いソファーで寝ているからだよ。いい加減ベッド買ったら?』

「うーん……ベッドか」


 首をこきこきっと鳴らしながら、部屋全体を見る。

 俺が住んでいる家は一人で暮らすには十分な広さだ。ソファー・机・本棚と最低限必要な物しか置いていないので、ベッドを置けるスペースはある。

 しかし悲しいことにお金がない。

 ぐぅ~

 まぁ、暗殺者のことやベッドのことは後回しだ。とりあえず飯だな。昨日から食ってないからさっきから腹が鳴りっぱなしだ。

 露店でリンゴでも買いに行くかと外出しようとすると、ドンドンドンと外から誰かが扉を叩いていた。

 あくびをしながら扉を開けると、


「何でも屋トモヒコ! このアリエッタ様がわざわざ来てやったわよ!」


 そこには腰に手を当てて偉そうに立っているアリエッタの姿があった。

 昨日酒場で会った自分勝手の暴力女と分かった瞬間、扉をバタンと閉める。


「なんで閉めるのよ!?」


 しかしアリエッタはすぐに扉を開けた。むむむっと睨まれている。


「悪い。悪夢だったからつい閉めてしまった」

「だれが悪夢よっ!」

「それで、何か用か?というか何で俺の家を知っているんだ?まさか俺のストーカーか?」

「何であんたみたいな芋男を私がストーカーしないといけないのよ? ここに依頼書送ってくださいってポスターを掲示板に貼っていたでしょ?そこに住所が書いていたの」

「なるほど。それで何の用だ?」

「もちろん依頼するために来たの!トモヒコには私が金の盾を獲得するまで手伝ってもらうんだから!」


 俺は昨日のことを思い出す。アリエッタの無茶苦茶な依頼のことを。


「……俺は罪人にはならねえぞ?」


 前もって言うと、アリエッタは「ふふふっ」と自慢げな笑みを見せた。


「その必要はないわ!実は昨日の深夜、屋敷に盗人が入ったって通報があってね。トモヒコにはその盗人を捕まえる手伝いをしてほしいの。どう?この依頼なら問題ないでしょ?」

「分かった。そういうことなら引き受ける」

「感謝してよね。トモヒコは捕まらないように代わりの罪人を見つけたんだから」


 なんで俺が感謝しないといけないんだよ?

 少しイラっとしたがそれを抑えて、昨日起こった盗みの詳細を聞き出そうとすると、リムの声が聞こえる。


『ちょっと兄貴……そんな簡単に引き受けちゃっていいの?アリエッタちゃんも王国騎士団って言うこと忘れたの?私的には今は王国騎士に関わらないほうがいいと思うんだけど?』


 確かにリムの言っていることは正しい。

 昨日俺を襲った暗殺者が王国騎士団の誰かである以上、襲撃されるのを避けるため、できるだけ王国騎士から離れたほうがいいと思う。

 しかし依頼を断るのは何でも屋のモットーに反することになるのだ。


「そういえばお前には言っていなかったな。何でも屋トモヒコはどんなやつからでも、どんな依頼でも引き受ける寛容な何でも屋なんだよ」

『でも昨日罪人にならねえって断ったよね?』

「……」

『あれ?兄貴聞こえてる?昨日断ったよね?』

「……俺を襲ったあいつの正体も分かるかもしれないしな」

『あ、無視した』

「それにもし罠だったとしてもお前がいる。まぁ、何とかなるだろ」

『いや~ん。兄貴ってば急にプロポーズ?もちろん答えはイエスだよ』


 なんでそうなる?


「なにブツブツ喋っているの?気持ち悪いわよ?」


 小声で喋っていると、アリエッタは首を傾げていた。

「何でもない」と答えて依頼について話を聞こうとすると、俺の腹からもう限界だと低い音が聞こえる。


「その前に飯食いに行っていいか?俺昨日から何も食べてないんだ」

「……仕方ないわね。それじゃ喫茶店に行きましょ?そこで食べながら依頼のことを話すわ。もちろん男のあんたが奢りね!」

「……なんでだよ?」

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