10話 暗殺者とデートなう

 裏路地を抜けて大通りを歩く。

 俺は道案内をしながら、何で暗殺者と一緒に買い出しに行かないといけないんだよ。と疑問になっていた。

 確かにここはレンガの建物が無数に並んでいて迷いやすい。でも俺に武器屋の場所を聞くか?さっきまで「殺す」とか言っていたんだぞ。

 ちらっと横目で見ると暗殺者は串焼きの露店を見て、


「美味しそうぅ!早く変態野郎をぶっ殺してお肉食べに行こうと」


 と興奮しながらとんでもないことを言っていた。

 こいつ殴ってやろうかな。と思ったが返り討ちにあうのがオチだな。

 大通りを10分ぐらい歩くと武器屋に着いた。


「ずいぶん汚い店ね」


 入店した直後、失礼なことを言いやがる暗殺者。

 この武器屋は行きつけだからやめてほしい。

 出禁になったらどうしてくれるんだ?と一瞬心配になったが。武器屋のおっちゃんは「汚くて悪かったな!」と笑っていた。


「でも品揃えはここら辺じゃ一番なんだぜ!」

「それじゃ一番高いやつをちょうだい」


 暗殺者はローブからパンパンに詰まった巾着をテーブルに置いた。置いたときドーンと凄い音が鳴っているので、中に入っているのは硬貨だろう。


「お釣りはいらないわ!」

『うわーすごい!あの人、お釣りはいらないって言ったよ。かっこいいなー!私も一度は言ってみたいなー!』


 別にカッコよくないだろ?お釣りはいるだろ?


「おー姉ちゃん太っ腹じゃねえか!」

「ふふんっボーナスが出たから」

「おぉ!そうか!それならリッチなお嬢ちゃんにピッタリなものがあるぜ!」


 武器屋のおじさんはご機嫌になりながら、一本の武器を持ってくる。

 それは柄の部分に赤い宝石が埋め込まれた剣だった。鞘にも宝石がいっぱい付いている。


「これが店で一番高価な武器だな。柄についてある赤いやつは「レッド・クイーン」って言われていて、滅多に採れないんだぜ」

「うわー綺麗ね。気に入った!これちょうだい!」

「まいどあり!」


 暗殺者はキャッキャッと嬉しそうに剣の握り心地を確かめている。

 それを見ていた俺に、武器屋のおっちゃんは話しかけてきた。


「おいトモヒコ、おめぇも隅に置けねぇな。いつの間に彼女作ったんだ?」


 違います。彼女じゃありません。


「でもなんで店の中でフード被っているんだ?もしかして恥ずかしがり屋か」


 違います。暗殺者だからです。

 ……とは言えず、俺は「あははは」と愛想笑いをするしかなかった。

 武器を買い、俺たちは路地裏に戻ってきた。


「さぁ、さっきの続きをしましょ?私の新しい相棒レッド・クイーンがあなたをあの世へ送ってやるわ!」


 良い買い物ができた暗殺者は剣に名前を付けるほどご機嫌だった。

 はやく試し斬りをしたくて仕方がないらしい。


「相棒の錆となりなさい!」


 暗殺者は俺に突っ込む。

 俺は死にたくないので「懐」と言って【破壊】を発動。

 剣はパキッと枝のように折れる。


「ああああああ!私のレッド・クイーンがぁぁぁ!」


 ということで俺たちは再び武器屋にやってきた。

 暗殺者は砕けた刃を見せながらクレームを言っていた。


「ちょっとすぐに折れたんだけど!これ不良品じゃないの!」

「お嬢ちゃん。その剣は美術品だから強度はあんまり良くないんだ。戦闘で使うならこれが良いぜ。カタカタ鉱で作られた剣で、強度も切れ味も折り紙付きだ。噂によると岩も真っ二つにできるらしいぜ。お嬢ちゃんは特別にこれを安く売ってやる!」

「それ頂くわ!」

「毎度32万4000ゴールドだ」

「はい」


 硬貨と引き換えに、剣を受け取った暗殺者。

 振り心地がいいのか、「おぉぉ!なかなかいいわね」と嬉しそうに素振りをしていた。

 良かったね。

 彼女のことを見ていた俺に、また武器屋のおっちゃんが話しかける。


「おい、今夜はお楽しみか?ちゃんとエスコートしろよ」

「……あははははは」


 武器屋から出た俺たちはまた路地裏。そしてバトルが再開する。

 もういい加減にしてほしい。


「さぁ変態野郎。この32万4000ゴールドの剣で真っ二つにしてあげるわ!」

「なぁ……もうやめとけって」

「うるさい!覚悟しなさい!」


「32万4000ゴールドぉぉぉぉぉ!」と大声をあげながら、暗殺者は俺に向かって走った。

 なんで値段を言うんだよ?


「……懐」


 パキッ


「あ」


 再び武器屋にて。3度目の来店。


「こいつを殺せる武器ください」


 どんな注文してるんだこいつは!?

 暗殺者は俺を指差していた。


「おう、それならちょうどいいのがあるぜ。この剣なんだけどよ。この剣に斬られたやつは強い呪いにかかって激しい頭痛と幻覚に襲われながら死んでいく魔剣なんだ。どうだ?48万ゴールドで売ってやる!」


 なに恐ろしいものを薦めているんだ?クソじじぃ!

 暗殺者は「買った」即買いした後、「これで変態野郎を倒せる!」と高笑いをしていた。

 その様子を黙って見ていた俺に武器のおっちゃんは心配そうな顔をしながら耳打ちをする。


「おい……まさかあのお嬢ちゃんと痴話喧嘩か? 女は怒らせると超怖いぞ。平気でナイフで襲ってきやがる。俺も浮気がバレた時な嫁にナイフを向けられてなーありゃ大変だった」

「……あはははは」


 だから違うって言ってんだろ!

 武器を買った後、俺たちは路地裏へ移動。路地裏に着いた後、暗殺者は俺に斬りかかってきた。


「変態野郎ぉぉぉ!覚悟ぉぉぉぉ!」

「懐」


 どうなったか説明は不要だと思うが、俺に触れた刃はリムの力で砕けていった。

 次から次へと自分の武器が使い物にならなくなって暗殺者はきょとんとした表情で沈黙していた。そして腰に装着をしていたナイフを手を震わせながら取り出した。


「こ、こ、こうなったら、おじいちゃんの形見のナイフで」

「やめとけ!」


 形見まで壊したら罪悪感半端ないから。

 俺が止めると、暗殺者は剣を落とし、泣き叫んだ。


「なんなのよぉ?なんで斬れないのよぉ!どうするの?もうお金ないわよ。ボーナス貰ったばっかりなのにすっからかんよ!次の給料日までどう暮らせばいいの!」


 いや、知らねぇよ。

 まるで子供のように地団駄を踏む暗殺者を『なんか可哀想になってきたね』とリムが同情しているが、先に襲ってきたのはあいつだ。自業自得だろ。


「……だから止めたじゃないか?」

「う、うるさい。あなたが私の剣を壊すが悪いんでしょ!」

「……じゃ今からお釣り貰いに行くか?釣りはいらないわって言っていただろ?」

「できるわけないじゃない!どんな顔してお釣りを貰えばいいのよ!そもそも何であなたは死んでなくて私の剣が壊れるのよ!?死ねぇ!さっと死んじゃえ!」

「……死なねぇよ。それじゃ金がなくなったことだし武器屋に行かなくていいよな?じゃ俺は帰るから。お前もさっさと帰りな」


 俺が暗殺者から背中を向け自宅に帰ろうとすると、暗殺者は慌てふためいた。


「ま、待ちなさいよ……帰れってどうやって帰ればいいの?私この道知らないんだけど」

「知るかっ!こっちはお前に殺されているんだ。そこまで親切にする義理はねえよ!そこら辺やつに聞いて帰ればいいじゃないか?」

「……ひっく」


 俺が冷たくあしらうと、暗殺者から鼻をすする音が聞こえる。

 フードで顔を隠れているが、きっと泣いているだろう。

 それを無視して、俺は再び歩き出すと、「まって!」と必死で呼び止められた。


「何だ?」

「こっひはぱんふぅまでみらへぇられているの!このままかえふわけにはいかないわ」

「何て!?」


 暗殺者は泣き崩れていた。何かを叫んでいるが呂律が回っていなくて聞き取れなかった。


『こっちは剣も折られてパンツまで見られているの!このまま帰るわけにはいかないわ!って言ってるね』


 翻訳ありがとう、リム。

 まぁ確かに、わざとじゃないとは言え、神眼でパンツを見てしまったのは申し訳ないな。


「しょうがねぇなぁ……じゃパンツ見たお詫びとして俺の手持ちを少し分けてやるからよ、ほら受け取れ」


 俺は硬貨を親指ではじく。

 飛んだ硬貨はそのまま暗殺者の頭に当たった。


「ひゃくこーるどじゃない!わひゃしのぱんふぅはそんなにやすくないふぁ!もっとよこひぃなさい」


 地面に転がった効果を拾って、また暗殺者は叫んだが、何言っているか分からなかった。


『100ゴールドじゃない!私のパンツはそんなに安くないわ!もっとよこしなさい!って言ってるね』

「泣きながらカツアゲするなよ……それ以上はやらないからな。それじゃ俺帰るからな、またな」

「ひょっとまひなさいよ」


 ちょっと待ちなさいよと止める暗殺者の声を無視して、俺は家に帰る。

 しばらく歩いていると、あいつの泣き声は聞こえなくなった。また襲ってくるんじゃないかと心配になって何度か後ろを振り返ったが襲撃はなかった。もう懲りたんだな。

 今日は疲れた。もう空腹はなくなって代わりに眠気が襲ってきた。

 家に帰ったら即ベッドにダイブして寝るか!俺が決めていると、リムが『ねぇねぇ』と話しかけてくる。


『兄貴、神眼使ったとき見えたでしょ?』

「ん?あぁ、確かに見えたなパンツ」

『パンツじゃないよ! 胸に付けてあったあれだよ?』

「まさかブラも見えるのか?俺にはパンツしか見えなかったぞ!」

「違うよ!そうか……やっぱり兄貴の目にはパンツしか見えなかったか」


 ため息混じりに言うリム。


「じゃあ?お前には何か見えたのか?」

『盾だよ。王国騎士団に入団したらもらえる盾。ほら酒場の時アリエッタちゃんから見せてもらったよね?……でもあの人が付けてたやつはちょっと違ったんだよね。なんか金色に輝いていて綺麗だった』

「おまえ……それって」


 リムの一言に俺は言葉を失ってしまった。

 どうやら今日の夜もぐっすり眠れそうにない

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