第8話 神眼
うおっ!見える、見えるぞ!
「神眼」と唱えてから瞼を開けると全てが見えるようになった。
目で追うことができなかった暗殺者の剣さばきが、相手の弱点や急所が、勝ちへの方程式が、今の俺にははっきりと見えていた……というのは冗談である。
神眼を発動して見えたのは、
「白だ」
「……?」
俺の言葉に暗殺者は首を傾げる。
『どうやら成功したみたいだね!』
「成功したって?」
『神眼だよ。兄貴には透けて見えてるはずだよ』
「見えてるってお前……これって」
パンツじゃねえか?
今俺の視界には暗殺者の下着が見えていた。
神眼を発動させて瞼を開けると、暗殺者が着ていたローブが徐々に透け始め、次にローブの下に着ていた長袖のシャツと黒のスカートが消えて、そしてお腹から足までの白肌と下着が露わになっている。
「フリル付きの白か。ずいぶん可愛いのを履いてるんだな」
「ん?……なっ!」
俺が呟くと、暗殺者は恥ずかしそうに手で股を押さえていた。
『ふっふっふ……説明しよう!神眼とは私と兄貴の愛が芽生えたことによって使うことができる必殺技なのだ!私の力を付与された兄貴は透視能力を使えるようになって相手のパンツを見ることができるんだよ。お尻派のエッチな兄貴にはピッタリだよね♪』
「ゴミ能力じゃねえか!神眼って言うからなんかこう……相手の動きが止まって見えるとか、未来が見えるとか……そういう凄いのを期待したんだぞ」
『いやいや、勝手にそんなチート能力期待されても困るよ』
「どうやって役に立たせるんだよ。戦いの最中にパンツを見てどう暗殺者に勝つんだよ?」
『そりゃ……その……まぁ、兄貴なら上手く活用するでしょ』
「丸投げになるなよ!」
『でも神眼、気に入ったでしょ?』
「え?うん、まぁ……気に入らないって言ったら嘘になるな。俺も男だから……ちなみに下着は透けないのか?」
『透けないよ。童貞の兄貴には刺激が強すぎるから』
誰が童貞だ。
『でも目を凝らすと見えるかもね』
「マジ?」
『嘘だよ』
イラっとして思わず「……ちぃ!」と舌打ちをしてしまった。
ピュアボーイの俺をからかいやがって……真に受けて目を細めたのがバカみたいじゃないか。
『神眼は発動してから20秒経ったら解けるから』
本当だ。
リムの言う通り、さっきまで透けていた暗殺者の服装は元に戻り、白かったパンツと素肌は見えなくなった。
暗殺者はまだパンツを隠すために股を押さえていた。フードで隠れているが恐らく羞恥で顔を真っ赤にさせているだろう。
俺を殺そうとした罰だ。ざまみろ。
「……殺す」
「?」
「……殺す殺す殺す殺す殺す!変態野郎は絶対に殺す!すぐに殺して目を抉る!」
こわっ!
震えた声を出した暗殺者は凄まじい殺気を放っていた。それは破壊神リムじゃなく、俺に向けられたものだった。
「はあああああああ!」
暗殺者は絶叫しながら間合いを一瞬で詰めた。そして俺の首を刎ねようと水平にロングソードを一振り。
『しゃがんで!』
リムに従って姿勢を低くすると、俺の代わりに建物の外壁が斬撃の餌食となった。
ちらっと後ろを見ると、壁には深い傷跡がつけられていて、背筋に悪寒が走る。
嘘だろ?……何で斬れるんだよ。
『やばいね……さっきよりも速くなっている。こりゃ兄貴斬られちゃうよ。アハハハ……どうやら怒らせたらいけない人を怒らせたみたいだね』
お前のせいじゃないか!と思ったが、ツッコミを入れる余裕はなかった。
俺は暗殺者から離れるために背中を向けて路地裏を駆ける。
人通りが少ない路地裏より人がいる大通りに移動したほうがいい。大通りに行けば暗殺者は追ってこないはずだ。
俺は必死に走る。足を止めた瞬間俺は殺される。そんな危機的な状況でも『兄貴っ!兄貴っ!』とリムはうるさかった。
「な、なに!?」
『実はプレゼントがもう1個あるんだ』
「プレゼント?天国への片道切符か!?」
『違うよ、私の力だよ。さっきの【神眼】はおふざけみたいなもの。本当のプレゼントはこれから』
そのおふざけのせいで、こっちは死にかけているんだぞ!
『ここで問題です!私は何の神だったでしょう?』
「バカでマヌケでイビキがうるさい神!」
『もぉーそんなひどいこと言うならプレゼントはあげないよ。私は破壊の神。今から渡すのは破壊の力だよ。テッテレー♪兄貴のレベルがまた上がった。兄貴のパワーが3上がった、スピードが――』
「それいいから!」
『兄貴からの好感度が24上がった』
上がってねえよ。お前への怒りが48上がったわ!
『兄貴は【破壊】を覚えた。さぁ、この力の発動条件は『
「……え?」
俺は力を使うのを躊躇してしまった。
破壊の力。全てを破壊し尽くす力。
今からそんな恐ろしいものを使うのか、俺は怖くなってしまった。
『兄貴!後ろ来てるよっ!』
「くそっ!」
悩んでいると、背後から暗殺者が斬りかかろうとする。
俺は置いてあった拾ってバケツを後ろに投げるも、暗殺者は壁走りで回避。壁を蹴って最速で斬りかかる。
くそっ……怖いとか言っている場合じゃねえ!助かるためにはこれしかないんだ!
「かいっ!」
唱えたが神眼のように服が透けて見えたり、特別なことは何も起きなかった。
暗殺者の俊敏な動きに反応ができず何もできないまま、俺は斬られるのを待つことしかなかった。
刃物が自分の首に近づくとき、ゆっくりに見えたような気がする。それでも体が動かない。
俺はやられると思い、目をつぶる。
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