第7話 3ヶ月記念日のプレゼント

 拳を構えながら「腕っぷしには自信がある」と言ってみたものの、正直勝てる気はしない。

 戦い慣れた暗殺者と毎日犬の散歩をしている何でも屋。そりゃ戦って勝つのは暗殺者のほうだ。

 しかも暗殺者は剣を持っていて、俺は素手。

「おりゃぁぁぁぁ」と突っこんでも、相手の一太刀で「ぎゃあああああ」とやられるのは目に見えている。

 

『兄貴くるよっ!横に飛んで!』

 

 暗殺者は跳躍する。高く跳んだ彼女は着地と同時にロングソードを振り下ろした。

 それを俺は横に転がって回避。休む暇はなく続けざまに暗殺者の剣が俺の命を奪おうとする。

 凄まじい速度の斬撃が襲う。とてもじゃないが目で追うことはできない。

 

『リンボーダンスするように腰を反って避けて』

「あぶなっ」

『次は道に落ちている金貨をねこばばするようにしゃがんで!』

「ひっ!」

『足狙ってるよ!まるで綺麗な青空へ飛んでいく白鳥のように上へ高くジャンプ!』

「はっ!」

 

 だけどリムのおかげで避けることができた。

 破壊神だからか分からないが、こいつには太刀筋が見えていた。リムは俺が斬られる前に指示を送ってくれている。おかげでどこも斬られることなく無傷だ。

 ただ一つ文句を言わせてほしい。

 

「一言いらねえだろ!」

『そっちのほうが分かりやすいじゃん』

「分んねぇよ。なんだよ青空に飛ぶ白鳥のようにジャンプって?分かんねぇし長いんだよ!」

『じゃ、コマンドにする?↓↘→+Pボタン』

「もっと分からねえよ!あと俺にPボタンはない!」

『あっ兄貴!真っ二つにしようとしているよ!横にヘッドスライディング!』

「うおおおお!」

 

 振り下ろされた剣を横に避けると、すぐに立ち上がり「ちょっとストップ」と暗殺者に言う。

 

「すみません!調子に乗ったこと言いました!実は腕っぷしには自信ありません。カッコつけました!だから命だけはお助け!」


 俺が参ったと両手を上げると、暗殺者の動きが止まった。


「……命ごい?無駄よ。破壊神リムは討伐しないといけない対象なの。もちろんリムを手懐け世界征服のために悪用するあなたもね」

「世界征服?……悪用? なにか勘違いしていないか?俺は別に世界征服とか興味ないぞ」

「そんなの信じると思う?」

「ちょっと待て!一旦落ち着こう。あ、そうだ!ちょうど骨付きチキンを買ったんだよ。一緒に食べながら話しを――」

『チキンあそこに落ちてるよ』

「……」

 

 地面に視線を移すと、買った骨付きチキンは落ちて食べられない状態だった。

 くそっ!3秒ルールはとっくに終わっている。

 ごめんっ肉屋のおっさん!

 

「何がほしい?できるだけお前の要望には答える」

「じゃ大人しく私に斬られて」

「それ以外でお願いします!金はどうだ?……って言っても金はあんまり無いけど。飯ぐらいなら奢ってやるから。俺、旨い店知っているんだ。ユズルっていう店で、おばあちゃん1人でやっているんだけど。そこ安くて美味しいんだ」

「ダメ。死んで」

 

 くそっ……全然こっちの交渉に乗ってくれない。

 さっきから死ねとか言っているし。すごい怖いんですけど……

 戦っても勝ち目はない。逃げても追いつかれてやられる。見逃してくれる様子もない。どうこの状況を切り抜ける?考えろ俺。

 頭をフル回転させていると、『ねぇ、兄貴!』とリムの声が聞こえる。

 

「なんだ?」

『3ヶ月記念日のプレゼントの話なんだけど』

「今そういう場合じゃないだろ!?こっちは死にかけているんですけど!」

『私考えたんだ。プレゼントは何がいいかなって。それでいい案を思いついたんだよね!』

「いい案?」

『兄貴にあげることにした。私の力を』

「……お前の力?」

『テッテレー♪兄貴のレベルが上がった。兄貴のパワーが5上がった、スピードが3上がった』

 

 急に何言っているんだ……こいつは?

 

『そして【神眼】を覚えた。ここから反撃開始だよ兄貴。目を閉じたまま神眼って言ってみて』

「……しんがん?どういうことか説明しろよ」

『いいから私を信じて。助かりたいんでしょ?』

 

 リムの声色が変わった。さっきまで陽気だった声と違って真剣さを感じる。

 こいつの力、つまり破壊神の力。全てを破壊尽くして世界を滅亡しかけた恐ろしい力だ。

 使うのは戸惑うけど、生きるためには使うしかない。

 

「分かった。悔しいが今はリムだけが頼りだ。信じてみるよ」

『うん!』

 

 俺は瞼を閉じた。そして真っ黒な視界で呟いた。

 

「神眼」

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