第6話 暗殺者
リムが叫んだので、俺は咄嗟にうつ伏せになった。
地面が石レンガで出来ているので膝が擦りむいてヒリヒリしたが、後ろから気配を感じたので、痛みを我慢してすぐさま立ち上がりその場から距離をとる。
振り返ると、そこにはローブを着た人が立っていた。フードで深く被っているので顔は分からない。手には人を殺すには申し分ないロングソード。その剣を見た時、初めて俺はこいつに首を斬られそうになったと気づいた。
『兄貴~大丈夫?』
俺は首を触ってちゃんと繋がっていることを確認した後、「あぁ、大丈夫だ」と答えた。
『よかった~私が叫ばなかったら今頃、首と体が離れ離れになってたよ。ユーアーテッドだったよ』
「デッドな」
『やっぱり私がいないとダメダメだね。兄貴は』
リムは調子に乗っているが、こいつの言う通りさっき危険を知らせてくれなかったら、俺は首を斬られて命はなかった。
「お前のおかげで助かった。ありがとうなリム」
『どういたしまして!でも兄貴が感謝するって珍しいね』
「そりゃお前に助けてもらったからな。感謝するのは当然だろ。それでどうだ?ありがとうって言われて嬉しい気持ちになったか?」
『うーん……やっぱり兄貴に言われるなら、ありがとうというより大好きって言われたほうが嬉しいかな』
「それを言うぐらいなら死んだほうがマシだな」
『ひどいっ!そんなに嫌なの!?……じゃ死んじゃう?ちょうど兄貴を殺そうとしている暗殺者がいることだし。死ぬときも一緒だぜっ兄貴!』
「……やっぱり死ぬのもお断りだ」
22歳になったばかりだ。まだまだ人生を謳歌したい。
そのためにはこの状況をどうにかしないといけないな。
リムとの会話を一旦やめて、落ちていたほうきを拾って武器にする。心許ないが素手よりかはましだ。
俺はほうきを構えて目の前の敵を睨む。
「いったい誰か知らないが、こんな場所で戦うのは立派な犯罪だぜ。小さい頃に習わなかったのか?刃物を人に向けたらダメだって。いいのかな~?王国騎士団に言っちゃうぞ~」
『そうだそうだ!王国騎士はとっても強いんだぞ!チクっちゃうぞ!いーけないんだ、いけないんだ騎士団に言っちゃお』
どうしよう……全然ビビらねえぞ
「ひぃぃぃぃぃごめんなさい」と逃げることを期待したが、暗殺者は武器を構えたままだ。
「……破壊神リム。まさかそんなところに隠れていたとはね。でもここまでよ。あんたは私に殺されるの」
暗殺者の口が動いた。女性の声だ。
うん?……リム?
「おい……リム。もしかしてお前の友達か?あいつ殺すとか言ってるぞ……喧嘩しているなら早く謝ったほうがいいぞ。どうせお前が変なこと言ったから怒ってるんだろ?早くごめんなさいして許してもらえ」
『私は悪くないよ。そもそもあの人と友達じゃないし』
「でもあいつはリムって呼んでるぞ?」
『本当に知らないんだって。私に喧嘩する友達なんかいないんだから』
悲しいこと言ってるよこの子。
「じゃなんでお前を狙っているんだよ?」
『うーん、たぶん私が破壊神だから狙っているんじゃない?』
「破壊神?」
なんか暗殺者も破壊神リムって言っていたな。
恐ろしい言葉だからスルーしていたけど、どうやら触れないといけないらしい。
「破壊神ってあれだろ?すげー昔に英雄様が封印したやつだろ?確か全てを破壊尽くして世界を滅亡しかけた」
『えへへへへ。なんか照れちゃうね』
「……その破壊神がお前なの?」
『そうだよ』
「……」
『ひどいんだよ。皆寄ってたかってイジメてさー長い間私を壺に閉じ込めちゃうんだよ!でも兄貴はひとりぼっちの私を助けるために壺を割ってくれたんだよね。かっこよかったなーまるで白馬の王子様みたいだった♡』
「……」
きっと言葉を失うってこういう事を言うのだろう。
声が出ないまま俺は口が開いて固まっていた。
俺が憑いているこいつは霊じゃなくて破壊神……?
『一緒憑いていくね兄貴♡』
「ああああああああああああああああああ!」
俺は叫びながら持っているほうきで自分の頭をポカポカと殴る。
もしかしたらリムと離れることができるかもしれない、そんなことを思いながらほうきの竹で出来た部分でひたすら殴る。しかし無駄だった。
『あ、兄貴、いきなりどうしたの!?』
「どうしたのじゃねえ!お前そんな危ないやつだったのかよ!出ていけ!今すぐ俺の身体から出ていけ!」
『嫌だよ!私は助けてもらってから兄貴に一生兄貴に憑いていくって誓ったんだ。兄貴だって「リムお前は俺の女だ。一生俺から離れるな」って言ってたじゃない!』
「言ってねぇよ!勝手に捏造してんじゃねえ!」
『へぇーそんなこと言うんだ~命の恩人に向かって。私が教えてなったら兄貴死んでたんだよ』
「うるせー!そもそもお前がいなければ俺はこんな目に遭っていないんだよ!この疫病神!」
『破壊神だもん!』
俺がリムと口喧嘩をしている隙を狙って暗殺者は動き出す。
一瞬で間合いを詰めてロングソードで俺の武器を真っ二つに斬った。
「うおっ!」
不意をつかれた俺はそのまま尻もちをついてしまう。
「ずいぶん破壊神と親しげね。やっぱりあなたも殺したほうがいいかしら」
無様に座っている俺を暗殺者は見下す。そしてとどめをさすために剣を振り上げる。
『兄貴、避けて!』
避けてってこの状態じゃ避けられないっての!
俺は斬られたほうきを暗殺者に顔めがけて投げつけた。咄嗟に投げられたほうきを避けるため暗殺者は後ろに飛んだ。
その隙に俺は立ち上がり、戦闘態勢に入る。
『兄貴逃げないの?』
「逃げたいけど、たぶん追いつかれる」
『たしかに兄貴体力ないもんね』
「うるせー」
俺は暗殺者を睨んだ。
やつは次の攻撃を仕掛けるために剣を強く握っていた。
「おいお前! 喧嘩売る相手を間違えたな。俺は第12回腕相撲大会で準優勝したという実績がある。多少だが腕っぷしには自信がある!」
『まぁ、その大会兄貴以外全員年寄りだったけど、準優勝っていうのは変わりないよね!』
「……」
こいつは絶対追い出してやる。
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