第4話 アリエッタのお願い②
「それじゃ早速計画を教えるからよーく聞きなさいよ!まずトモヒコがそこら辺にいる年寄りを襲う。でも実際は襲うふりでいいから。怪我しないように脅すぐらいで良いから。それで王国騎士である私が登場っ!そして私はトモヒコを捕まえる。そして事件は無事解決。大活躍した私は金の盾への道が一歩近づくわけっ!」
「待て待て待て!勝手に話を進めるんじゃね。俺はやるって一言も言ってねえぞ!」
「……なによ?もしかして不満? あーそうね最近の年寄りは健康のため護身術教室に通っている人が多いからね、もしかしたら返り討ちになっちゃうかも……トモヒコ弱そうだから。じゃ子供を攫うのはどう? 子供だったら反撃されても勝てるでしょ?」
「そういう問題じゃねぇ!なんで俺が罪人にならないといけないだよ!?」
「だから言ってるでしょ?金の盾を手に入れるためだって」
「金の盾?」
俺は首を傾げた。
するとアリエッタは「これが目に入らぬか~!」と言わんばかりの勢いで何かを見せつける。 彼女が持っていたのは銅で造られた勲章。盾の形をしており、真ん中に花の彫り物があった。
「これは銅の盾。王国騎士団に入団した時に貰える勲章よ。任務の時は必ずこの勲章をつけて「私は王国騎士ですよ」って示すの」
「ふーん」
「盾はね、銅の盾のほかに銀の盾と金の盾の3種類あって。任務で大きな功績を残したら銀の盾が貰えて、更に活躍したら金の盾を貰えるの」
アリエッタの目がキラキラと輝いていた。まるで夢を語る無邪気な子供のようだった。
「金の盾を貰えると王国騎士団の幹部に選ばれて、多くの部下をこき使えて給料も増える!何もしないでお金がもらえるという最高な労働環境を手に入れることができるってわけ!」
訂正。彼女の心は欲まみれだった。
『なるほど!金色の盾を持っている人は偉いんだね。勉強になったよ!メモメモ』
「……つまりあれか?お前は自分の出世のために俺に罪人なってくれと言っているのか?」
「そうよ!」
アリエッタは元気よく頷いた。
いや、そうよ!……じゃねえよ。なんて自己中心なんだ。俺にはデメリットしかないじゃないか。
自分で事件を計画して、自分で解決して出世する。こんな外道な考えを持っているやつが王国騎士団でいいのかよ……今すぐにもクビにしたほうが良いと思うが。
『兄貴どうする? 依頼受けるの?牢獄でエンジョイする?』
エンジョイできるわけないだろ!牢獄を何だと思っているんだ。
「それでどう?協力する気になった?」
「なるか!!」
「なんでよ!私の金の盾に対する思いを聞いて、断るって言うの?あんた人の心がないんじゃないの!」
「お前がふざけんなよ!」
イラっとしてしまった俺は彼女の両頬をつねる。
アリエッタが「いひゃい!いひゃい!」と言っているけど関係ない!向こうが依頼者だけど関係ない!
自分を中心に世界が回っていると思っている
「なにが金の盾に対する思いだ!単にお前は働きたくないだけだろ!そんなことのために俺の人生詰んでたまるか!バカなこと言わないで働け!バカっ!」
渇を入れたつもりだったが、それがアリエッタの怒りの火をつけた要因となってしまった。
痛みで涙目になった瞳はきりっと鋭くなる。そして同じように俺の両頬をつねって抵抗をする。
あまりの痛さに俺は手を離してしまった。
「誰に向かってバカって言っているのよ!このバカ!あんた自分でも言ってたじゃない?何でも屋って!何でも屋は何でも屋らしく、何でも言うこと聞きなさい!今あんたがやっていることは職務放棄よ!自分の仕事は真面目にしなさい」
次は俺の番。アリエッタの鼻をぎゅっと握る。
「散々働くたいないって言ってたやつが偉そうに説教するんじゃねえ!」
「鼻はだめっ!めちゃくちゃ痛いから!」
「うるせっ!お前は反省しろ!そして俺に謝れ!」
アリエッタと俺の怒鳴り声は酒場に響いていた。
さっきまで楽しく飲んでいた酒場の客たちは「なんだ?なんだ?」と喧嘩する二人を見ていた。
リムも白熱して『兄貴頑張れっ!負けるな兄貴っ!』と応援していた。
「お待たせしました」
「「……!」」
怒りの沸点が達した俺たちを黙らせたのは……一人の看板娘だった。
看板娘はドーンと机が壊れるんじゃないかと心配になるぐらいの勢いで注文したミルクとニガニガ茶を置いた。
「ミルクとニガニガ茶でございます。あと他のお客様がご迷惑になるのでお静かにお願いします。これ以上うるさくされるのでしたら、力ずくで追い出しますよ」
「「すみません」」
穏やかな声と共に放たれる威圧に怯えてしまう。
謝ったほうがいい。そう判断した二人は謝罪を口にする。
「ではごゆっくり」
「……」
「……」
看板娘が去った後。アリエッタはしゅんと顔を下に向ける。怒られた子供のように元気を失くしていた。
「……とにかく俺はこの依頼は受けられない。牢獄生活なんてご免だからな。それにそんな自作自演で出世してもお前が痛い目見るだけだろ?真面目に人を助けて出世しろ。そっちのほうが嬉しいだろ?金の盾を貰ったとき」
「だって……」
彼女の表情は不満そうだったが、もうこれ以上何でも屋としてやれることはない。
あとはアリエッタの頑張り次第。
「
エールを送った俺は自宅に帰るために椅子から立ち上がる。
酒場から出ようとした際、「にがぁぁぁぁぁぁ!」のアリエッタの喚き声が聞こえる。
見なくても分かる。ニガニガ茶を飲んだんだろう。
「ふっ……まだまだ
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