第3話 アリエッタのお願い
俺が仲裁に入り、今にも襲いかかりそうだった金髪少女の動きを抑えたことによって騒ぎは収まった。
暴れる金髪少女を羽交い締めする際に彼女の拳が顔面に当たって、右頬がズキズキと痛みを感じる。
『さすが兄貴、惚れ惚れする活躍っぷりだったよ!』
「……ほんと苦労したよ」
殴られた右頬を撫でながら、俺はテーブルの向かい側に座っている金髪少女を見る。
艶があって腰まで伸びている金髪。前髪は白いヘアピンで留めている。
綺麗な白肌に緑がかった瞳はパッチリ二重。
整った彼女の顔立ちは今は不満気な表情を浮かべており、酒を注文することができなかったことに対して「もぉー何なのこの店……私20歳なのに」と落胆していた。
黒いワンピースを着た身体はほっそりとしており、背丈も低め。これが子供と間違えられる理由だと思う。
『じぃ……よしっ!勝ったっ!ねぇねぇ兄貴あの子より私のほうがおっぱい大きいよ!』
なぜか優越感に浸っているリムに「どうでもいい」と言いそうになったが、また不機嫌になってもめんどくさいので「良かったねー」と軽く返事をする。
何でも屋の仕事を始めるために、俺は金髪少女に話しかける。まずは目の前の少女が探している依頼者、アリエッタなのか確認。
その前に――
「すみません。ミルクを一つ。あとこいつにニガニガ茶を」
ここは酒場だから何か注文しないと迷惑だろう。
俺は看板娘を呼び止めて、飲み物を注文する。硬貨を払おうとすると金髪少女は不満そうに頬を膨らませてこちらを睨んでくる。
「私、お酒がいいの」
「酒はダメって言われただろ?」
「お酒じゃないと嫌だ!お酒を持ってきて!私にピーチソーダを一つ」
「わがまま言うな。お前はニガニガ茶で我慢しろ。俺が奢るから」
「嫌よ!そもそもなんでよく分からないお茶を飲まないといけないのよ!」
「ニガニガ茶はゲキニガ草で作られていて、子供には絶対飲むことができないと言われているお茶だ。大人のお前にはピッタリだと思ってな」
「いますぐ持ってきてニガニガ茶を!」
彼女も納得したことだし、俺は「お願いします」と言って飲み代を支払った。
『兄貴、ちょろいね』
「同感だ」
けらけらと笑うリムに頷いていると、突然金髪少女が「ははーん」と得意げな顔を見せてくる。
「さてはあんた私の美貌に見惚れて口説こうとしてるんでしょ? でも残念だったわね私は一杯奢られたぐらいで落ちるような安い女じゃないの」
「は?」
『え!?兄貴そうなの?』
思い違ったことを言う金髪少女と勘違いして『浮気だ浮気だ』と腹を立てるリム。
なんでそうなるんだよ……と呆れてしまった俺はため息をつきながら「違う」と否定する。そして持っていた一枚の依頼書を見せて、目の前の彼女が今探している依頼者かどうか確かめた。
「これ見覚えはないか?」
「あ、これって私が送ったやつ!もしかしてあんた……何でも屋!?」
「あぁ。俺は何でも屋のトモヒコだ。送ったということはお前がこの依頼の依頼主だな」
目の前の彼女がアリエッタということが分かると、頭の中から『やったね兄貴!』とリムの喜びが聞こえてくる。
探し人が見つかったことだし何でも屋の仕事を始めようと、早速依頼内容を聞き出そうする。
しかしアリエッタは「ふふふっ」と不敵な笑みを浮かべていた。そして机の上に乗って、腕を組みながら俺を見下ろす。
突然奇抜に走るアリエッタに唖然としてしまった。
わざわざ机の上に立つ必要があったのか?と疑問に思ったがツッコミを入れず、黙って彼女を見ていた。
「待っていたわ何でも屋トモヒコ! 私があんたに依頼したアリエッタよ。王国騎士団に入団している超エリートなんだから!」
「王国騎士団?」
首を傾げていると、リムは『兄貴知らないの~?』と馬鹿にするように笑った。
『だったら私が教えてあげる♪ 王国騎士団っていうのはね、セリア王国の治安を守るために結成された組織なんだよー悪党をやっつけて多くの人を助けているから「
一言余計だ。
それに国に住んでいるんだ。王国騎士団のことぐらい知っている。
俺が首を傾げたのは、アリエッタが本当に王国騎士なのか疑っているからだ。
さっきまで看板娘と喧嘩をして、今は机の上に立つというお行儀の欠片もない非常識っぷり。
こいつがセリア王国を守っているのか?
信じられなかった。しかし疑ったままじゃ話は進まない。
「それで超エリートの王国騎士さんは俺に何をしてほしいんだ?」
俺が問いかけると、アリエッタは机から飛び降りる。床に着地すると彼女の金髪と黒色のワンピースが揺れた。
「それはねー!」とアリエッタは嬉しそうに声を出す。
向けられた眼差しは何か良からぬことを企んでいそうな感じがした。
「私のために罪人になってほしいの」
「は?」
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