第2話 何でも屋トモヒコ

 俺の仕事は何でも屋である。

 何でも屋とは文字通りの何でもする人のことである。

 犬の散歩やら屋敷の掃除やら鉱石集めやらモンスター退治やら雑用から明日筋肉痛になるハードな仕事まで、依頼者の頼みごとを引き受けて報酬をもらう。

 この国は悩む人で溢れている。それを解決させてあげるのが何でも屋の仕事だ。

 突然だが、何でも屋の宣伝をさせてほしい。 


 トモ!ヒコ! トモ!ヒコ! トモヒコ!

 何でも屋トモヒコ!

 何でもやります!何でも屋トモヒコ♪

 あなたの困り事をずばっと解決! 何でも屋トモヒコ♪

 はやい・やすい・ていねい!何でも屋トモヒコ♪


 ご依頼の方はこちらの住所に依頼書を送ってください!

 住所は、セリア王国12番通りアカサカ445

 今ならキャンペーン実施中♪気軽に送ってきてねー♪


 ――雲ひとつない青空の下、今日も俺は何でも屋として人助けをしていた。


「トモヒコちゃんいつもありがとうね~いつも助かっているよ」

「ああっ♡」

「坊主お前のおかげで早く終わったぜっ!ありがとなっ」

「ああーっ♡ いつでも助けになりますっ!」

「お兄ちゃん、タマを探してくれてありがとうっ!」

「あああああっー♡たまらないこの快感」


 腰の曲がったお婆ちゃんの代わりに買い物をして、黒く肌焼けた漁師のおっちゃんの船を綺麗にして、その後は三つ編みの少女が飼っている猫を探して、困った老若男女を助けまくった。

 ん? なんで俺が何でも屋になったかって? 

 それは皆が笑顔になってほしいから。

 満面の笑みで「ありがとう」と感謝されるために俺は人助けをしているのだ。


『兄貴ってキモいよねー』


 何でも屋の報酬を手にした俺が気分よく鼻歌を歌いながらセリア王国を歩いていると、突然リムが罵倒してきた。

 せっかく上機嫌だったのに気分を害され「なんだよ」と睨みつける。


『だってさー兄貴ってば感謝されると変な声出すんだよ。ああっ♡って!兄貴が変な声出すからあの女の子ドン引きしてたよ。ねぇ、何でああっ♡って変な声出すの? もしかして興奮してたの?兄貴って変態なの?』

「誰が変態だ。あと女の子が変な声を出すんじゃね。……別に興奮しているわけじゃねぇよ。ただ嬉しくて自然と声が出てしまったんだよ。お前も分かるだろ? 相手にありがとうって言われたら嬉しい気持ちになるじゃないか?」

『うーん……ありがとうって言われたことないから分からないや』

「そうか……それじゃ俺の身体から出て行ってみるといい。そしたら俺が感謝の気持ちをこめてお前にありがとうって言ってあげるから」

『ん?私厄介払いされてる?』


 ちっ……バレたか。

 どうにか誘導してリムを追い出そうとしようとしたが失敗に終わった。

「別にそんなことないよー」と言ってもリムは『私は絶対出て行かないからね!』と殻に閉じこもってしまった。いや……俺の身体に閉じこもってしまった。

 これ以上何を言っても無駄だなと思った俺は口を動かすのを止め、次の依頼に取りかかる。

 今朝届いた一枚の依頼書に目を通しながら、依頼者が待っている酒場へ向かった。


 ※※※


 手に持っている依頼書で分かった情報は送り主の名前と待ち合わせ場所だった。

 送り主、依頼者の名前はアリエッタ。待ち合わせ場所はジジという名前の酒場だ。

 依頼者が待っている酒場は何度も行ったことがある場所だったので、迷うことなく目的地に着くことができた。

 酒場ジジ。

 かなり好評な飲み屋で、この国の住人が酒を求めてやって来る場所だ。

 なぜ店の名前がジジかというとその酒場の店主の名前がジジ・コッシュだから。

 その店主が作るご飯は超がつくほど美味しく、酒を飲まない人でもご飯を食べにジジへ足を運ぶ。


『兄貴、ここに次の依頼者がいるの?』


 話しかけてくるリムに「そうみたいだな」と返事をした後、扉を押し開ける。

 扉に付いてある呼び鈴がちりんっと鳴ると酒場で働く看板娘たちが入り口に向かって「いらっしゃいませ」と元気に挨拶をした。


「いらっしゃいませー!おひとり様ですか?」


「……」


 うお……相変わらず可愛い娘がいっぱいいるな。

 看板娘たちの可愛らしい笑顔につい見惚れてしまった。

 ジジは酒も美味い、ご飯も美味い。それに加えてここで働く看板娘たちは皆清楚系で可愛い。顔が整っていて体つきスタイルも良く、着ている衣装は肩が出ていて男心をぎゅっと掴んでいた。

 なのでここは飲食のためではなく、看板娘たちに会う目的で酒場に来る客も少なくない。

 俺も虜になっている一人。ミニスカートから見えるふとももが最高。

  

『……ねぇ。兄貴ってば!』

「え?」

『何鼻の下伸ばしているの!? フィアンセである私がいるっていうのに!それは浮気だよ! 浮気はダメなんだよ!』

「うるせぇなーそもそもいつから俺とお前は結婚することになったんだよ?」

『心臓ドキドキさせちゃって、どうせおっぱいを見てドキドキさせているんでしょ?兄貴のえっち!ド変態!私だってそこそこあるんだからね!』

「知らねぇよ!お前の胸の大きさはどうだっていいんだよ。そもそも俺はおっぱい派じゃなくて、どっちかといお尻のほうが……」


 はっと我に返る。

 リムが怒り出したせいで周りが見えなくなってしまった。正面を見ると一人の看板娘が苦笑いをしていた。

 そうか……周りからはリムこいつの姿は見えないんだよな。


「ごほんっ……失礼っ。ああ、おひとり様だ」

「え?あ、はい。分かりました。お、おひとりさまでーす!どうぞご自由に、お好きな席にお座りください」


 一人の看板娘が深く頭を下げると、急いで厨房へ走って行ってしまった。


「俺から逃げているように見えるんだが気のせいだよな……?」

『気のせいじゃないよ……兄貴から逃げているんだよ。おっぱい派じゃなくてお尻派の変態兄貴だから』

「そもそもお前が変なことを言うからだろ!」

『ふーんだ! 浮気した罰が下ったんだよ』


 生意気に言っているリムに苛立ちを感じたが、俺は落ち着きを取り戻そうと一息入れる。

 今は依頼が優先だ。なぜか不貞腐れているリムを無視して、この酒場で待っている依頼者、アリエッタを見つけるために足を進める。

 広い建物の中で多くの客たちが顔を真っ赤にさせて談笑をしていた。

 美味そうな料理を片手に、豪快に酒を飲む客の姿を見て、一瞬「すいませんお酒をください!」と注文しそうになったが今は仕事中ということで、自分の唾をゴクリと飲んで我慢した。

 誘惑と戦いながら依頼者を探しているが、なかなか見つからない。

 俺は頭を掻きながら、周りを見渡すと、


「だから私はお酒を持ってきてって言っているの!」


 どこからか怒鳴り声が聞こえてきた。


「ですから20歳未満のお客様にはお出しできないって言っているじゃないですか?」


 騒がしい方向へ向くと金髪の少女が看板娘と揉めていた。


「私は20歳超えているの!」

「嘘はいけません。どう見ても子供じゃないですか? その外見でごまかせると思っているんですか!?ここに来るならもうちょっと胸と身長を大きくしてください」

「きいいいいいっ!このアリエッタ様をバカにするとは良い度胸ね! あんた表に出なさいよおおおおおお!」 


 え?今アリエッタって言ったか?

 顔を真っ赤にさせている金髪少女の口から探している依頼者の名前が出てきた。


『兄貴っ! あの人をはやく止めないと!』


 リムの一言に、「お、おう」と頷くと、俺は睨み合う二人のほうへ向かった。


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