先導



ゼア帝国 南方 カーマダイン領




帝国において貴族以外が領地を持つなど、本来あり得ない事だ。



ただ一つの傭兵一族を除いて。





カーマダイン領にある城壁に囲まれた堅牢な屋敷。



そこが、カーマダイン家の総本山だ。




「ほーん」




優しそうな美形な青年がそう呟いた。




「そんな強いんだ? そいつら」




彼は年齢的に言えば20代中盤ほどだろう。


しかし、彼から放たれる覇気は年相応とは思えない。





彼こそが、カーマダイン家当主。



ルクス・カーマダインだ。




かつての魔族との大戦では、幾人もの大魔族を葬ってきた人類有数の猛者だ。




「なんで逃げてんだよ、一族の顔に泥を塗りやがって」



ルクスは手に持っていた報告書を目の前にいた双子の少女に投げつける。




リ・ヘイダで敗走したロロとララだ。




「仕方がない。相手は高位の悪魔の群れだった」


「私達にはどうにもできない!」


「それに逃げるのを決めたのは私達じゃない!」



双子の発言を聞いたルクスは静かにため息を吐く。




「ギルのやつ......老いぼれたな」



ルクスはそう言うと、座っていた豪勢な椅子から腰を上げる。



「んで その悪魔と僕どっちが強い?」


「勿論ルクス様」


「でも数の差で押し負けると可能性がある」



それを聞いたルクスが再びため息を吐く。




「何処の勢力なんだよ、そいつら」


「少なからず魔族ではなかった」


「スラン王国とライジア王国を襲っている勢力とは同じと思われるけど、それ以上は......」


「帝国国防省も捜査はしているけど、なんもわかってないからな」




ルクスは思考を巡らせる。



請負人アンダーテイカーを派遣するか」


「あれを?」


「あの人でもどうにかできるかわからない」


 

 


カーマダイン家には鉄の掟があり、一族から逃げ出したものは徹底的に追い詰めて殺害するというものがある。




男と駆け落ちした一族の女を殺害した時、小さな赤子を抱いていた。



その子供は、名前を与えられず使い捨ての道具として扱われてきた。



しかし生まれ持った天性の戦いの才能。それにより今の今まで生き残ってきた。




その強さは当主たるルクスを上回っている。




ついた通り名は、請負人アンダーテイカー



名前を与えられていない彼女にとっては、それが名前と言っていいだろう。




だが、裏切り者の子供だ。その戦果は当主であるルクスのものとして処理されてきた。




「あいつは僕を恨んでいる。ちょうどいい......ここで処理しとこうか」



ルクスはにんまりとした笑みを浮かべた。

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