ミカケの大魔法使い
* * * *
シリウス達がリ・ヘイダを占領し、魔王軍の軍勢を退けてから程なくして。
ライジア王国の隣国。ゼア帝国にて。
大陸中央の大部分を領土とする大国だ。
ライジア王国とスラン王国の国境線にある街。
ラグア。
スラン王国の壊滅。そして、ライジア王国内で悪魔と未知のモンスターが各地を襲っていると言う情報は、出回っていた。
次はこの街なのではと言う疑念から、不穏な空気が蔓延していた。
「知っているか? ライジア王国まで......」
「あぁ、次は帝国の危ないんじゃないか?」
「帝国は軍事大国だし、なんとか......」
「いや、俺は仕事でスラン王国を訪れてたんだが、あの化け物達は流石に無理だと思う」
「にしても主神シリウスって誰なんだ」
「さぁなぁ」
このような会話があちらこちらから聞こえてくる。
裏路地に横たわって、大通りから聞こえてくる会話を聞いている傷だらけの少女がいた。
ラナだ。
酷い火傷と身体の欠損ーー魔王を倒して英雄とは思えない姿だ。
こんな見てくれで、自分が英雄ラナだと信じてくれる人はいなかった。
「食べないと死ぬ......」
ここ3日何も口にしていない。
お金も信用もない彼女は、食事を手に入れるのもままならなかった。
「やるしかない」
ラナは決意する。
痛む身体をゆっくりと起こすと、大通りへ出る。
人が芋洗いのようにごった返している。
両脇には露天が並び、商人達の呼び込みの声が響きわたる。
自分を可哀想な目で見てくるもの。哀れんだ視線。
それらが癪に障る。
「
ラナはそうした視線を送ってきた一人の男に感覚を鈍らせる魔法をかける。
そのまま、こっそりと懐に手を忍ばせて財布を奪い取る。
男は財布を盗まれたことを気づかず、立ち去ってしまった。
「これで死ななくて済むっ」
ラナの表情に思わず、笑みが浮かぶ。
しかし、あの凄惨な光景が脳裏によぎる。
自分を、大切な人をこんな目に合わせたあのシリウスという女ーーそして取り巻き達は絶対に許さない。
しかし、今の自分ではあの女には絶対勝てない。
だからもっと強くならないといけない。
一つあてはある。
帝国中央にある大森林の奥地に住む、不滅の魔女ヴァリス。
その森林には、彼女が支配する"魔女の国"がある。
正直言って彼女は一対一なら勇者ソーマよりも強い。
そして始祖たる彼女から、魔女としての力を授かる。
これが最短で強くなる方法だ。
これだけ魔法使いとしての才能があるのだ。
魔女として覚醒すれば、"刻針"の序列下位くらいに潜り込めるポテンシャルはあるはずだ。
それでもシリウスには遠く及ばないが、どれだけ身体を酷使してでも強くなるーーそう決めている。
魔女になれば教会勢力から粛清対象となる。
だがそんなのどうでもいい。
殺せるなら、殺してみればいい。
死に体でも世界有数の大魔法使いだ。カーマダイン家の当主でも連れてこなければ、他に遅れは取らない。
だが今は食事と休息が必要だ。
目的を果たす前に体が壊れては困る。
ラナは大通りを歩きながら、宿屋と食事処を探すのだった。
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