砲撃



サヴァス率いる魔王軍の艦隊は、リ・ヘイダの程近いところまで迫っていた。




遠目にリ・ヘイダの街並みが見える。



サヴァスは全身を覆う鎧を身に纏っていた。



オリハルコン製の鎧には複数の魔法が付与されており、水中歩行、火体制、即死耐性、速度向上などがある。




「そろそろね」



サヴァスは呟いた。



先の大戦では勇者に半殺しにされ、その傷は長い間癒えなかった。



結局完治した頃には戦争は終わり、魔王は討ち取られ姉が新たなる魔王として君臨した。



そしてサヴァスも己を研鑽し続けた、もう誰にも負けぬように。



魔王の実妹は無能だと言われぬよう。




その強さは今や"刻針"序列一二位まで上り詰めた。




負けるはずがない。





サヴァスが呆然と景色を眺めていたその時だ。





リ・ヘイダの方向から凄まじい勢いで赤い流星らしきものが向かってくる。



「なにっ!?」



それは瞬きの間に、サヴァスの近くにいた船に直撃する。



凄まじい爆音と閃光が辺りを包んだ。




それが命中した船は、跡形もなく吹き飛んだ。



辺りに燃え盛る木片と残骸、焼けた肉の香りが瞬時に鼻をつく。




「リ・ヘイダからの攻撃です!」


「見れば分かるわよ!」



サヴァスは思わず配下を怒鳴りつける。




「この距離で魔法を直撃させるの!?」



リ・ヘイダは目視できるとはいえ、かなり遠くの方だ。



魔法の射程圏外のはずなのだ。



それにこの威力ーーなかなかの高位魔法だろう。




「相当腕の良い魔法使いがいるみたいね」



サヴァスの知る人間では、真っ先に勇者パーティーの魔法使いの顔が浮かんだ。



あのレベルの魔法使いならできる可能性がある芸当だ。




サヴァスが思考を巡らせているうちにも、次々に火球が放たれる。


その度に一隻の船が毎回吹き飛んでいく。




「五番艦、六番艦消滅! あ、二番艦もっ!!」


「見れば分かると言っているでしょ!」



サヴァスは配下に苛立ちを覚える。



「対魔法障壁はどうしたの!?」


「もう起動準備に入っています!」




対魔法障壁ーーこの艦隊の魔法攻撃に対する防御システムで、サヴァスが乗る旗艦を中心に強力な結界を展開できる。



結界魔法を込めた魔石を複数掛け合わせたものを船に搭載しているのだ。


これを起動すれば、艦隊全域に結界が張り巡らされるという算段だ。




そうこうしているうちに、艦隊を覆うように結界が展開される。




「これで一安心っ......」




と思っていたのだが、火球は容易く結界を突き破って更に船を破壊する。




「嘘っ、魔法以外の攻撃を通す代わりに魔法防御力を強化しているのに!?」



まるで薄いガラスの様に破壊されてしまった。



「まずいです、このままでは陸に着く前に船が全滅してしまいます」


「そうね......こんなの想定外よ」



サヴァスは人差し指を噛む。



彼女は、不安や苛立ちを覚えると自分の身体を噛んでそれを抑える癖があった。




指から血が滴る。



頭が上手く回らない。




「お行きになってください」



配下はそうとだけ言った。


もう部下を見捨てないと誓ったーーなのに。



「確かに私だけならっ......でも」


「このままでは全滅です、貴方様は我々の仇を取ってください!」


「......そうね」




暫くの沈黙の後、サヴァスは言葉を続ける。




「こんなふざけた真似した暫定魔法使いは絶対に殺す」



サヴァスはそういうと、船から身を乗り出して海へと落ちる。



しかし、鎧に付与された魔法のおかげで水面に立つことができた。




次の瞬間。



サヴァスが乗っていた船に火球が直撃する。



凄まじい炸裂音と飛び散る火花が辺りを包んだ。



「接近戦なら魔法使いには遅れなんて取らない」



サヴァスは水面を蹴り付けて、全力疾走する。



リ・ヘイダ目掛けて最短一直線にだ。




「この代償は払わせてやるわ!」




彼女の背後には、全隻の船が海の藻屑へと成り果て、水面で燃え上がっていた。

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