魔族の軍勢



貿易都市リ・ヘイダ近海。




リ・ヘイダがシリウス達により陥落した頃だ。




ほど近い海域に艦隊の姿があった。



それぞれが全長100メートルはある木造船だ。



これほどの大型船は"人類側"には一隻たりとも存在していない。





これらの船には帆がない。



何故なら、この船の動力源は巨大な魔石による魔道船だからだ。



魔石から抽出した魔力を後方に吹き出して、推進力にするのだ。



この技術は人類は持ち得ていなかった。






その艦隊の中心部にある一際大きな船の甲板に魔族の女がいた。




「もうすぐ貿易都市に着きます」



配下の魔族にそう言われた女は背伸びをする。



「そう、意外と遠かったわね」



彼女は随分と立派な衣服に身を包んでいた。



赤髪の髪が風になびく。頭に生えている魔族特有の角は、他の者たちよりも一際大きい。




「勇者は死んだ......魔族の時代は再びくるわ」



女はそういうと、側に置いてあった身の丈ほどある大剣を軽々と持ち上げた。



その華奢な体格からは想像もできない行為だ。




「そうでございますね。サヴァス様」



サヴァスと呼ばれた魔族は、笑みを浮かべる。




少し前の出来事だ。



魔族側の領地に存在する"刻針"から勇者の紋章が消滅したのだ。




魔族側は急遽、人類に反転攻勢を仕掛ける事が決定したのだ。




その尖兵として、派遣されたのがこの艦隊だ。



その任務は沿岸の貿易都市を速やかに占領し、後続部隊の上陸地兼拠点とする事だ。




第一魔道艦隊ーーそれを率いているのがサヴァスだ。




魔族は陸戦では勇者やカーマダイン家、他の少数の強者により、戦争終盤は後退を余儀なくされていた。



だが、海戦においては魔族は一度たりとも敗北など無かった。




それほどに魔族の航海術、造船技術、その他ノウハウは優れていた。





「私がいるのだから敗北はあり得ない」



サヴァスは自身げに言った。



それもそうだ。



彼女は新たに即位した現魔王の実妹だ。



彼女の実力も魔族の五本指に入るだろう。




「流石は魔王様の妹君です」



配下は頷くばかりだった。



「私は人間には一度しか負けた事がないの」



彼女を唯一負かした人間ーー勇者ソーマ。


あの時は、部下を見捨ててなんとか逃げれた。



彼が刻針から名前が消えて、死んだと言うなら怖いものはもうない。




「お姉様の期待にも応えるために絶対に成功しないと」



サヴァスはそう胸にちかう。




「サヴァス様ならできましょう。貴方に勝てる存在などたったの11名」


「馬鹿にしてるの? その11人には勝てないって? まぁ事実だけど」


「いえ、逆にそれほどまでに強いということです」



勇者が死んだことにより、刻針の並びが変わった。



その結果、刻針の大魔法陣ーーその序列12位。



末席にサヴァスの紋章が刻まれたのだ。




「そうね、私はこの世界屈指の猛者......それ以上があの都市にいるとは思えないし」



そもそも刻針の半分以上は魔族か人外かだ。



人間に味方するものは殆どいない。



序列第二位のミリアドは人間だが、魔族との戦争には参加していなかったので未知数だ。




気になるのは、突然現れた序列一位の謎の紋章だ。



それだけが気がかりだった。

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