都市陥落



貿易都市リ・ヘイダ。



その中心部、領主の館、応接室にて。




「ぜ、前線の部隊が全滅だと?」



領主ーーコルサウス・ハル・ゴール伯爵の震える声が響き渡った。



「はい、"銀の息吹"は全滅。軍も全滅。そしてカーマダインの傭兵達は逃亡したとのことです!」



従者の男が恐る恐るそう言った。



「なんだとっ、カーマダインの連中は逃げたのか!? ふ、ふざけるなっ、あいつらにどれだけの大金を払い続けたと思っているのだ!!」



コルサウスは激昂して声を荒げる。



「それで、連中は、悪魔の群れは!」


「それが前線の部隊を壊滅させたあと動きを停止させています!」


「動いていないだと?」




何故だ。



この街を襲おうとして、その防衛戦力を壊滅させたのだ。



街を襲わない理由がわからない。





その時だ。





突如として、目の前に少女が現れる。



青と緑のオッドアイの瞳を持つ、黒髪の少女だ。




「初めまして、シリウス様が配下のサリスと申します」



少女は軽く頭を下げる。



「何奴!」



コルサウスの側にいた護衛の男が、剣を抜いて斬りかかろうとする。





しかし。



次の瞬間には、その男の頭が吹き飛ぶ。




血飛沫が部屋中に飛び散って、辺りを赤く染め上げる。



サリスと名乗った少女は、血を浴びながらもゆっくりと頭を上げた。




「都市の防衛戦力は此方の尖兵で無力化しました、力の差はご理解頂けたかと」



サリスがそう言い終えた時、背後から別な護衛が襲い掛かろうとしていた。





だが、剣を振り下ろそうとした瞬間。




同様に頭が跡形もなく消し飛んだ。




「不意打ちも効かない!?」


「はい、あなた方と私では超えられない壁があります」



コルサウスは、目の前のサリスが何を言いたいのか理解が追いつかなかった。



「私達の目的はこの都市です。大人しく私達の傘下に入りなさい。そうすれば、悪魔達は暴れなくて済みますよ」





その言葉に、コルサウスは暫く考え込む。




「このリ・ヘイダをどうするつもりだ?」


「私達はこれから世界を相手に戦争を起こします。その拠点としてこの街が欲しいんです」


「何を馬鹿な事を......そんなのできるわけないだろう」


「できますよ、あの人の前では勇者も無力に等しかった」




やはり勇者を殺した勢力の一員である事は確定だ。



しかし世界を相手に戦争する。


まるで馬鹿げた話だ。




その時だ。



コルサウスの側近が、口を開いた。



「この悪魔どもめ! この都市は絶対に渡さんぞ!!」



側近はサリスの発言が何かを刺激したのか、相当頭に来ている様子だった。



「や、やめろ!」



コルサウスは側近を制止しようとしたが、止まらない。



「この気持ち悪い瞳をした化け物め!! お前のような忌み子など我々貴族の前に立っていいわけがないだろ!! 這いつくばれ、土下座しろ!! 下民っ!!」



側近はサリスを罵る。



だが、サリスは冷たい視線を向けるばかりで、その発言に怒り返す訳ではなかった。



「そうですか......好きなだけ喚けばいいですよ。相手はしませんから」




その透かした態度が、側近をより苛立たせる。




「お前の様な忌み子を側に置いておくシリウスという主人もどうせ出来の悪いグズなんだろうなっ」



その発言を聞いたサリスの表情が変わった。




「今なんと?」


「どうせお前の主人も頭の悪い出来損ないの知恵遅れなんだろうって言ってんだ!」



側近のその言葉を聞いて、サリスは前に出る。



「な、なんだっ、俺を殺すのか!?」



側近はサリスから放たれる圧に負けて、一歩下がる。



「下手に出てやってれば良い気になりやがって」



サリスが腕を振り上げる。



そうすると、側近の片腕が粉々になって消し飛ぶ。



「いたぁぁぁ!!?」



側近の絶叫が辺りに小玉する。



「まさか、わかりやすく力差を教えてやったのにそれを理解できないなんて」



サリスは側近に馬乗りになると、懐から短剣を取り出して彼の下顎を切り落とす。




「うるさいんですよ、ピーピーと」



次に目を潰す。



じっくりとゆっくりと片目ずつ。



「私は、私をコケにする人間には微塵もなんとも思いません」



サリスは生まれた時からずっとその外見で虐げられてきた。


今更、それについては何も思わない。




しかし。



シリウスを侮辱する発言はどうにも許せないのだ。




「私を救ってくれた人を貶すな」




サリスはそう言うと、再び手を掲げる。



そうすると、側近の残りの手足が綺麗に吹き飛んで無くなる。



芋虫状態の側近が地面をのたうち回る。




「それで、降伏しますか? 死にますか?」



返り血で真っ赤に染まってサリスはコルサウスに問いかける。




「降伏っ、降伏する......」



コルサウスに残された道はそれしか無かった。 


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